【レビュー】機動戦士ガンダムNT/吉沢俊一 監督

標準

シリーズにとってかなりの新規顧客を開拓し、お台場にたつ立像ともなった『機動戦士ガンダムUC』。それもある意味当然で、自分がここ数年で見た作品の中でもかなり上位に入る作品だった。

その正統な続編ということで期待していた本作、不用意なネタバレ遭遇事故がイヤだったので金曜の公開日にスパっと観てきた。
しかし残念ながら結論としてはかなりダメ〜な感じだったので、非常に困った(苦笑)。公開日からさして間もないのにこんなこと書くのは申し訳なかったんだが、自分が一番心配しているのは前作『UC』で感動し、期待して観にきてくれるであろう新規のお客さんがあまりの落差にがっかりして、将来的な顧客のかなりを失ってしまうのではないか、ということ。

以下いちどツイッターのほうでつぶやいたのをベースにネタバレ抜きで。

で、封切った直後に↑こういうモンだしてくるわけですよ(苦笑)。お時間ある方は観ていただいていいと思うが、ここからでもいろいろなことが分かる。

そして残念なことにこの冒頭部分が、今回の作品での「最大のネック」となってしまっている「作画の安定」という点に関してはいちばんブレが少ない部分となる。

■作画レベルの低下・不安定さ

まず上述のように、事前に予想はしていたがそれをおおきく越えて作画がかなり酷かった。劇場興行用の作品で同一キャラが別人にみえるレベルというのは個人的には久しぶり(苦笑)。エンドロールで第ニ原画の人数が膨大だったので推して知るべしだが、前作の美麗さのみじんも見られないミネバ様などはともかく、なにげに物語上の重要人物であるステファニー・ルオ(ミシェルの義姉・Zからの登場人物)とか思わず「うーん(絶句)」となるレベル。

で、これが人物だけと思いきや作中のモビルスーツ(以下MS)も安定しないところあって、これなら「作画の安定」を保証してくれるという意味でMSだけでもCGで、と割切っても良かったのでは。その分マンパワーを人物の作画のほうに振り分けることができただろうに。

そしてそんな状態にもかかわらず、なんで本筋にまったく絡まないマーサ叔母さん(前作の黒幕)わざわざ出すんやw・・・といいたいところなんだが、これは以降の作品の絡みと・・・ぶっちゃけいうとプラモデルの販促のためでしょうね、残念ながら・・・(上記23分内に該当シーンあるのでご覧いただければわかるかと思う)

プラモデルの販促、悪くないんですよ。自分もそういうところ期待している部分もあるし。だけどそのために”本筋”のクオリティの低下招くのは本末転倒じゃないかねえ・・・。

■ストーリー自体は評価できるがその見せ方はやや疑問

次にストーリー。今回のストーリーライン自体は嫌いじゃないし、やろうとしていることも分かる。が、かなり時系列が行き来して錯綜する脚本に対し演出(そのための芝居=画力)が追いつかず、全編通じて観客側の感情の導線が切断されやすい印象。で、現在位置に戻ってくるたびに観客は意識的に自分の現在の立ち位置(視点)を確認することに労力を使わされてしまう=物語への没入感がそがれる、という結果に。今回の脚本は原作の福井氏ご自身とのことだが、ここは若い監督さんの力量考えてもう少し整理してあげてしかるべきだったのではないか。

今回の敵役・ゾルタンなども非常にいいキャラクターなのに、そのブツ切り感のせいで、その狂った感じが単発の見せ場見せ場で浮き上がるだけで、トータルで連携した狂気=キャラクターのスケール感となっておらず、非常にもったいない、正直もったいないオバケが出るレベル。すごくいいキャラなのに惜しい。

■ミシェルまわりの描写が不明瞭=共感しづらいニュータイプ論

加えて本作の物語をドライブさせるべきキャラクター=核心人物はミシェル・ルオ(彼女の内圧が物語を動かす)なんだが、彼女の一連の行動の「動機」の描写がフォーカスしきれてない印象。さらに彼女は今回の「ニュータイプ観」を語る代弁者だと思うんだが、肝心の彼女を動かすそのロジックが演出・作画のレベル低下が要因で観客にはすごく伝わりづらい、説得力に欠ける状態になっちゃってる。

このNT観は『ガンダムUC証言集』(書籍)での福井氏の「ニュータイプ私論」の延長上だと思うが、この書籍での記述の段階では「それも一理あるよな(自分のNT観とは違うが)」という印象だったが、本作だと前述のようにミシェル周りの演出(芝居)が追いついていない+そのオカルト的な部分を過剰に盛ってしまった感があって、ここまでやられてしまうとさすがにそれはあまり擁護できないレベルに感じてしまった。この部分は上記書籍でも言及されていたシリーズ過去作からの該当カットが本作でも補完のために多数引用されていたが、それをいくら重ねても本作の描写レベルでは、残念ながら観客に説得力を得るまでには至ってない。

それなのに、この部分(上記NT観)が今回の物語全体のロジックを支える根っこでもあるために、作中最大の敵役である「この世にあってあはいけないもの」もつられて「この世にあってはいけない感」が薄く=その危機感(「ヤバさ」)が観客に共有されないという結果も招いてしまっている。
(ヘリウムタンク周りの一連の描写もその「ヤバさ」をダメ押ししたかったのだろうが正直伝わりにくい描写だったと思うし、そこまでの「ヤバさ」への描写の積みあげが足りてなかった)

■フィルムとしてのスピード感は◎

と、ここまでかなりネガティブなことを書かざるを得なくて申し訳なかったのだが、今回の監督さんが富野氏の身近で仕事されてたということでフィルムとしてのスピード感はあって終始そのスピード感で押しきっている=最後まで見ることはできた。ここはちゃんと明記しておく。

あとなにげにロボまわりの描写はいい意味でヒロイック(エンタメ的)なとこあってこれは素直に肯定する、カッチョいい。そう、こういうところ含め、それぞれのカットカット毎にはけっこういいものがあるんだよ。ただ残念ながらそれがクライマックスへの奔流として合流してくれない・つながってこない、というのが返す返すも惜しい。(*1)


■音楽に救われた部分も

しかしそういう部分を作品全体として補完してくれているのが、澤野弘之氏によるBGM。正直これにに助けられているところは多々あると思う。勇ましいところは勇ましく、悲しいところは悲しく、不穏なところは不穏さを増幅してくれる一連の音楽による援護射撃。プレイベントでプロデューサー氏が「音楽8割(笑)」的なこと冗談で仰ってたが、まさしく音楽とは偉大なもんだと再認識しましたよ。

■総論・・・みたいなもの

個人的に福井氏をはじめスタッフの皆さんに関して自分は肯定的な人間なんだが、ただ今回は『UC』のあの完成度を受けての次弾がこの内容だったというのは正直「どうしちゃったの⁉︎」というのは否めなかったな。なによりUCで出てきただろう(より一般寄りの)新規顧客がそのあまりの落差に失望してしまうことを自分はすごく心配する。

まあ要は前作『UC』のクオリティがかなり化け物じみたレベルだった、ハイレベル過ぎた・・・ということなのかもしれない。それを統括していたのが前作・古橋監督だったわけだが、それを理解したうえで、今回監督に(ギリギリとはいえ)30代の吉沢氏を抜粋したというのは、その事自体は積極的に肯定したいし、吉沢氏には今後ともぜひ頑張っていただきたいと思う。

ということで一般寄りの皆さまには残念ながらオススメできない、ガノタは今後のこと考えて仕方ないから観に行けwーそんな感じの一本でした(苦笑)。言われてたように短いながらも「閃ハサ」の予告もかかったし。

■既存のファンへのサービスカットは?

あと今回のサービスカットはやっぱり”銀の弾丸”周りですかね。腕の切り離しギミックをそういう演出に使うのは素直に「一本取られた!」し、なにより彼が元気そうで良かった。ただラスト近辺のミネバ様の「今後」を匂わすセリフは現時点では余分だったような気はするかな、「あ、(今後のお話って)そっち行っちゃうの?」みたいな。


で、本作の公開にあわせて発表になっているように、ガンダム関連は以降数作が作られることが決定しているわけだけども、自分が今回感じたようなことがどう修正・変化してくるのか、というのは(いまのところまだ一応)期待をもって待ちたいと思う。

福井さんの念願は、今回終映後に予告流れた次作『閃光のハサウェイ』の映像化にあるそうなので、おそらくそこに注力した結果が今回だった・・・と信じたいところなんだが。








(*1)このスピーディーさのある演出というのは、富野監督からの薫陶をすごく感じるのだが、実はこの富野式のスピーディーな演出ってことロボットものでは「諸刃の剣」の面が強いな、というのがかねてからの自分の印象。

どういうことかというと、物語の進行においてキャラクター同士の関係性のみに注視して話を進める上でこの富野式の演出方法はすこぶる有効なんだが、「メカもの・戦闘もの」のだいご味でもあるはずの「戦術面」が非常に読み取りづらいという欠点がある。

富野監督の場合はその天性のセンスと蓄積されたベテランの技術、独特のセリフ回しで納得させられてしまうんだけど、実はその描写からは空間上での位置関係がすごくわかりづらい。富野氏の演出関係のテキスト読むと「対立する二項の強弱と”上手・下手”の関係」的な指摘をよくされていると思うが、実はこの便利さのおかげでごまかされている部分も多々あるんじゃないかと。つまり物語上は破綻してないが、そこから両勢力の戦術が読み解けるようにはなっていない。

対して非常に革新的だったのが『UC』でのいわゆる「Gパート」=玄馬宜彦氏による一連の「戦術」を感じさせるMS同士の戦闘描写だ。(『UC』ヒットの理由の一つは氏の貢献もかなり大きいと個人的に思っている)

玄馬演出の富野演出との最大の差は「なんのためにその行動をとっているのか」が分かるということ。つまり空間戦闘やってても戦術的な「意図」がちゃんと読み解けるのだ。
例えば『UC』のEP1(クシャトリアVS特務ジェガン)、EP6(シナンジュVSゼネラル・レビル)のシーンなどは「どういう戦術意図でこの行動をとっているのか」というのがすべての動きからちゃんと読み解ける。それだけの情報量が描写の背後にあるのだ。残念ながら富野演出にはそこをあまり感じない―これはそういった部分に重きを置いて演出されていないから当然ともいえる。

ただ観客としてみるならば、当然ちゃんと背後にそれ相当の「理にかなった」ロジックの存在する動きのほうが説得力を感じる。MSなどという架空の存在におけるそれならなおさらだ。

もちろんどちらも一長一短あると思う。今回の吉沢監督の演出は富野式だったし、結果的にそれは正解だったかと思うが、若い監督さんとのことなのでできれば「Gパート」的なところも吸収していってもらえるとうれしいのだが。



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