モバイルの会員登録しても東京でのチケット取れず、だめ元で所用と重なってた大阪の日にちの分で初チケットゲット!と思っていそいそと出かけたら、なんと、単にチケットあたっただけでなくどうやらこのAimerというアーティストにとって”歴史的な”回となるライブに立ち会ったこととなったようだ。
結論を先に書いてしまうが、長年音楽ファンやっててもこういう回にブチ当たるのはそうそうない、そういったレアな機会を幸運にして目撃できたようだー結果、すごく貴重な時間を共有させてもらったと思う。
会場となるオリックス劇場(ホール)は西梅田から四つ橋線に乗って本町で下車し、少し歩く。加えて表通りから少し入ったところにあるのでアクセスはあまり良くない。しかしキャパ2400の会場が完売になっていただけに会場前の公園には開場待ちのお客さんがもう既にたくさん。
客層は男女ともに若い人中心、そしてやはりやや女性の比率が多い。このあたり土地柄的な意味での知名度の問題かもしれない。特に彼女のような積極的にTVに出るわけでもなく、表立った露出を本人が控えているアーティストはなにかしら間接的に知る機会がなければずっと知らないままの人も多いだろう。
(この点さすがに首都圏のほうがアンテナの広がり具合が違う=キャッチしやすいと思うのだ)
セッティングが押したのか開場時間も押し気味+開場しても最初はロビーのみ開放。ステージはおよそ25分ほど押して始まった。
舞台の緞帳に写される青い月の荒野のなかで最新アルバムとおなじくスタンダードナンバー『MoonRiver』から始まり『Believe Be:Leave』とつづき、『Noir!Noir!』と。とにかくもうこの出だしからその繊細な揺れをともなったあの独特の声が素晴らしい。
以降、だいたい3、4曲づつのセクションに都度MCでのつなぎを入れて進行させるのだが、メインに最新アルバムDAWNからの曲を据え、そこに既発のアルバムからの曲やカバー曲を組み合わせた構成。ポンコツな頭なりに思い出してみると、オープニングパート、セカンドパート、他者曲パート、”AM XX:XX”シリーズ+α、BraveShineパート、ラストパート(+アンコール)的な感じだったか。
(このセクションごともそれぞれなんとなくテーマがある感じでいわゆる”AM XX:XX”シリーズはメドレーとして披露された)
そして以前とりあげた澤野弘之氏のnzk003のときの記事でも言及した「まろやかさ」のようなもの=すごく肩の力が抜けているというか”無理してない”感がここでも健在で、それを証明するかのように近頃のフツーのライブからみるとびっくりするぐらい音圧低めのセッティングーけどそれで十分に成立するのだ。というかこの声の魅力を十分に引き出すためにあえてこのセッティングとしたのかもしれない。
(これは声が音圧に負けるとかではなくむしろ逆で、音圧で無駄に迫力を稼がなくてもいいというスタッフ側の確信があるからだろうーそしてそれは見事に当日の音の美しさが証明していた)
その証拠にこの前半で披露された1stアルバムからの一曲『あなたに出会わなければ〜夏雪冬花』が、とても同じ曲とは思えないぐらいのクオリティで披露され、もうずっと鳥肌立ちっぱなし。
またカバー曲としてONEOKROCKの『Heartache』をやったんだがこれもオリジナルの香りを残しつつも完全にAimerカラーとなっている。
そしておそらく通常のライブコンサート的な意味でのパフォーマンス的な最高潮は菅野よう子御大の曲『誰か、海を。』だろう。
もうこれはその後のMCでもご本人が仰ってたように、なにかこう海の底深くに引きずり込まれるような感じで静かにも関わらず凄まじかった。おまけにこの曲、なんとバックにバンド居るにも関わらずピアノとご本人のボーカルのみの構成、それであそこまで聴かせるというのは正直すごすぎる。
自分はこのAimerというアーティストの作品を取り上げるたびに「もう一歩踏み込んだところが聴きたい」と都度つど書いて来たんだが、まさにコレ、これよ!?この凄まじさをこのひとなら出せると。その部分をこの日の『誰か、海を。』は完璧に満たしてくれたーどころかその先へ軽々と飛び越えていった。MCに入ったところで自分が全身こわばらせて聴いてたのが分かったくらい。いや、ほんと素晴らしかった。
で、ここの曲の直後にMCが入ったのだが、これがその緊張をほぐすためかAimerさんというアーティストからすると信じられないくらいくっそコミカルなMCで、観客の大半は深海からいきなり浮上させられてぽかーんとしていたのか最初どう反応していいのか分からなかった模様(笑)。ここはもう1、2曲挟んでから浮上された方が良かったのではないでしょうかw(逆に言うと『誰か〜』がそれぐらいすごかったということでもある)ここのMCではバンドメンバーの方たちもトークに参加し、大阪にちなんで食の話題ということで串カツ談義からたこ焼き談義へ移行し、なんとローカルのたこ焼きCMソングをAimerバージョンで披露してしまう始末wどうした、なにがあったんだwこれはきっと澤野氏のnzkでのあの「MCレベル1」から悪い影響を受けたのではないかと個人的にはw(以下略
しかしこのMCのスタンスは以前の行儀よすぎるぐらい行儀の良い感じよりはるかに親しみが持てていい。なによりここでも前述の肩の力が抜けた感じがあって、これは一ファンとして嬉しい変化だった。
おそらくこのあたりでライブは折り返し。今回会場は全席指定のホール会場だったんだが観客に立席をうながし「AM XX:XX」シリーズをメドレーで。
そこから数曲続け、そのアウトロからインストのパートとなりしばし場を持たせると、ここまでの黒の衣装から純白の衣装に着替えたAimerさん再登場。ここで確か『LAST STARDUST』だったかとおもう。
で、ここまでのいくつかのMCで彼女に取って大阪という場所が忘れようと思っても忘れることのできない場所となっていたことを、それとなく「事情」を知っている人間には分かる感じで言及されていて。
おそらくそのことをさして「あの夜を思って歌った曲たちです」的なコメントとともにアルバム通り続けざまに『Brave Shine』!
これはどういうことかというと、ネット等でも目にされた方も居ると思うが、今年年初に行われた彼女初のツアーライブ”Maiden Voyage”の大阪で、彼女はステージの真っ最中突然声が出なくなったらしい。(自分もネットでこの話は把握していたが、どの程度のものだったのかは正直なところ詳細はわからなかった)
このことについてはこの後の本編最後のMCでご本人から直接はっきりと語られたのだが、ステージ上であるにもかかわらず突然歌えなくなり、この出来事が本当に彼女にとって本当に大きな「挫折」であった、と。
(しかしすごいのはそういう状態にもかかわらずその日最後まで歌わせたスタッフ、サポートし続けたバックメンバー、これはすごい”分かった”素晴らしいスタッフさんだと思う)そしてそれにもかかわらず、その日最後まで声援を送ってくれたそのときの大阪のお客さん、そのことがあって、今回のツアーの話になって真っ先に大阪でやることは決めた、と。
このときのMCはほんと素に近いというか、それだけ深く暗い”夜”を越えて来たんだな、というのを感じさせる真正直な・誠実なMCと自分は感じた。
そして彼女はその”挫折”から逃げずに、そこから自分の力でここまで戻ってきた。
多くの時代を代表するようなアーティストにはなにがしらかの”物語”があるものだが、そういう意味では彼女のこの”絶望と再生”というのは彼女の持つアーティストとしての”宿命”のようなものを感じざるを得ない。
そしてさらに素晴らしいのは、このMCで語ったように誰もそれぞれが持っている闇や絶望に寄り添うことはできても成り代わることはできない、所詮突き詰めれば人はそれぞれ一人で、一人で生きて一人で死んでゆく的な認識、だからこそー。
この”人は所詮一人だ”という孤独を引き受け、なおもその上で夜明けの先にある光を歌おうとするーだからこそ彼女の歌は薄っぺらくなく、これだけ多くの観客に届くんだろう。
(そして正直これぐらいのお歳でそこまで悟ってらっしゃるというのに驚きつつも、軽薄に愛や絆を語りたがる輩が跋扈するいまのこの世の中でこういう深みを宿したアーティストが出て来てくれたことがほんとうに嬉しい)
ある意味今回のこの大阪公演はAimerというアーティストの絶望からの”真の蘇生”という特別の意味を持った一回だったと思う。
彼女は自分の力でここまで戻って来て、そして二千人以上の満員の観客の前で堂々と自身の”けじめ”をつけた。
偶然とはいえ、そんな特別な機会に立ち会えた偶然に一ファンとして感謝してもしきれない。
そして本編ラストはそういった絶望の先にあるものとして彼女の想いを歌ったであろう『DAWN』で〆。
この曲がタイトルにもなっているDAWNというアルバムをレビューしたときいわゆる「名盤としての三枚目」かどうか判じかねている、到達しているようで未達かもしれない、といったようなことを書いた。実はその後聴き込めば聴き込むほどその感じはある確信へと変わっていたのだが、これはもう間違いなく「名盤としての三枚目」でしょう。こういった曲の背後にある意味付けを聴けばなおさらだ。
(後出しでカッコつけてるようですまんがこれ正直なところなのだ)
そんなきっちりと自らの力で”戻ってきた”彼女に、当然観客は静かだが力強いアンコールの拍手で応える。
それに応えて「ここからは楽しくいきましょう!」とアンコールでは『Star ring Child』。なんと予想に反して嬉しいバンドバージョンですよ!?澤野バージョンのほうがオリジナル故に迫力は当然上回るんだけども、このAimerバンドバージョンもギターのパートがピアノメインのリフに変わっていてこれが意外なほどしっくりくる。なによりこの曲をひょうひょうと歌いこなしているのがすごい。
ラストはMCを挟んで確か『DAWN』からの『キズナ』を。
そして実はこの曲である意味一山越えた安心からだろうな、ラストフレーズの入りが少しズレたんだが、ここは逆に愛嬌だよ。
そういうある意味いま一つ決まらなかった、そういう人間らしいところを大阪の人間は大事に思うだろうし、そういう才能を愛すると思う。
(大阪外からもたくさんこられているようだがあえてこう書かせて頂きたいと思う)
そして何よりまた大阪にこなければ行けない理由ができてしまったわけじゃないですか(笑)。
できれば自分もまた観に来たいと思う、今度は彼女のライブだけを目的として。
いや、なにより本当に誠実でドラマチックな時間を共有させてもらってありがとうございました。
あの場にいたすべてのスタッフの皆さんにそう申し上げたいと思うーほんとに素敵なライブだった。
DefSTAR RECORDS (2015-07-29)
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※ちなみにツアーパンフレットはほぼ美麗な写真集に近いものだが、冒頭にご本人の言葉でこのツアー各所のコンセプトと、大阪でのいきさつについてもちゃんと言及されている。このあと東京での回を観られる方は言われるまでもないだろうが必携だろう。