事前情報をみた時には収録曲などに疑問があったんだが、聞いて納得。
前作のエネルギーのありすぎる曲たちが収まりどころを持て余して右往左往していた感は姿を潜め、アルバム一枚通してしっかりとした一本のトーンで美しくまとめられた一枚かと思う。
これまでなら未聴の方にオススメのAimerのアルバムを一枚選べと言われればミニアルバムである『After Dark』をオススメしたかと思うが、今後は本作がその一枚になるだろう。
DefSTAR RECORDS (2015-07-29)
売り上げランキング: 14
Aimer単独名義では3枚目となるオリジナルアルバム。『Brave Shine』『brokenNIGHT』『誰か、海を』『君を待つ』『Believe Be:Leave』などタイアップ曲やシングルカット曲を多数含むが、Aimerとしての世界観で違和感なく統一された美しい一枚。これまでの通例どおりスタンダードナンバーでアルバムの前後を挟み(今回は『MOON RIVER』をチョイス)、オリジナル11曲を挟む全13曲。
通例としてよくいわれることに「アーティストは3枚目、4枚目でその代表作となるような名アルバムを発表することが多い」というのがあるが、今回そのうちの「3枚目」である。
ある意味十分それに相当する1枚といえるかと思う。
冒頭で事前の段階では選曲に疑問があったというのは「あれ、あの曲入れないの?」という感じだったんだけれども、これはトータルで1枚として聴いてみると納得。
もちろんこれよりも盛ることもできなくはなかったかとは思うのだが、この「敢えて入れなかった」感のあるチョイスは大正解だと思う。
なぜなら冒頭のMoonRiverのカバーからの清涼感というか透明感というか・・・そういったクリア―な感じからはじまり、愛らしくも切ない感じの『Belive Be:leave』のポップ感へと違和感なくつなぎ、そういったアルバム一枚としての統一感を演出したうえでの強弱の付け方が凄く見事なのだ。
個人的には『誰か、海を』のカップリングであった『白昼夢』は大好きな曲なのだが、本作には未収録。しかしこの曲を収めるとまたすこし冗長感は出ていたかもしれない。そういう意味で勇気をもってアルバムの流れからは要らないものを引いた判断をしているように見えるので、ここのジャッジは素晴らしいと思う。
そして前述したような清涼感・透明感だけというわけでなく、そういったものを保ちつつ、破綻なく力強さ・雄大さも持ち合わせている。このあたりは1枚目のアルバムのお持ちの方は聴き比べてみると面白いと思うが、なんというかその「ぶ厚さ」の違いに驚かれると思う。例えていうならか細かったガリガリの捨て猫が毛艶美しい立派な美猫にでも育ったという感じだろうか(笑)。
また作詞・作曲はクレジットをみるとほぼagehaspringsのAimerチームによるものと思うが(菅野御大の『誰か、海を』ぐらいが外部かな?)、前作のアルバム前後の大コラボ祭りを経たからこそ作り得た、デビュー時からの内製チームによる”現時点でのAimerとしての音”を丁寧にまとめた形のアルバムとも言えるだろう。
曲としても少しづつ新機軸・・・というか以前からあった方向性がよりはっきりと浮き彫りにされつつもあるように思う。それはシリーズ曲?である『AM ××:××』シリーズ。今回は『AM04:00』なのだが、前作のJazzyなテイストに対し夜もあけてきたからか(笑)裏打ち感の出たライトながらもファンクなテイストがに仕上がっている。これはいい意味で裏切られた感があって素晴らしかった。
というように本作は「3枚目」的なものに限りなく近い名盤と思うのだが、個人的には通例言われる「3枚目」にほんと髪の毛一本の差でぎりぎり未達のような気もしている。(このあたりは時間が経つと変わるかもしれないので一応保留)
こんないいアルバムなのになぜだろう?と考えた時に、やはり頭をブンなぐられるような「キラーチューン」には欠けている、ということになるだろうか。
(敢えていうなら『LAST STARDUST』がそれに近いと思うんだが、この曲なんとなくアルバムの芯の曲としてではなく最後の一曲として聴きたいような曲なんだよな)
全収録曲すごく良いのだ、全体としての底も上がっている。そしてみんな「素直ないい子」たちばかりでするっと聴けるのだ。この「するっと聴ける」というのが上述の清涼感・透明感につながっていて、このアルバムの魅力でもあるんだが、逆にすこし「いい子たち」ばかりということかもしれない。
本アルバムは意外なほど「別れ」の曲が多いと思うのだが、それに例えるのなら、もっと泣きじゃくって、もっというなら泣きわめいてもいいのよ?という感じか。
まあそういうところを見せない押さえた気持ちの美しさが、Aimerというアーティストの良さでもあるんだが、やっぱり『RE:I AM』とかでのあの迫力ある「声」を知っているだけにそういうむき出しの全力勝負も見てみたいわけですよ、贅沢な望みとは知りながら。
逆にそういうところからすると、本作はとても「3枚目」らしいアルバムとも言えるかもしれない。まだ花が満開に開き切るところまでいっていない、というか。
そういう意味では『DAWN』というアルバムタイトルは絶妙だと言える―夜明け、夜明け前というか。
あと本作は上述のように「Aimerとしての世界観」がよりはっきりと打ち出されていることもあってか、これまでよりもより歌詞に耳に行く。
これまではサウンドやその声の見事さのほうにどうしても耳にいってしまい、曲世界のイメージが想起されるという面では若干損をしていたと思うのだが、アルバム全体としてのトータリティがあるので、そこへ耳が行きやすくなった。これもある意味その世界観や統一感を大切にしたことの嬉しい副作用だろうか。
そういうこともあってか、なんとなく1stアルバムのバージョンアップ盤的なニュアンスも感じる、このあたりも面白いな。(もちろんそのディティールは大きく異なるのだが)
ということで素直にいいアルバムだと言ってよいと思う。
特に予備知識なくAimerというアーティストを聴いてみようと思われる方にとっては、聴きごたえもあり、メロディの強い良曲が綺羅星のように並ぶもってこいのアルバムだろう。
そしてまあ次は「4枚目」なわけですよ。
これはけっこう期待していいんじゃないか?そういう事を強く感じさせてくれる1枚だった。
ただただ、全力で期待しております。
DefSTAR RECORDS (2015-07-29)
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