武道館公演以後、ずいぶんと精力的にシングルリリースしている割にはアルバム出ないな~と思ってたら2枚一気にリリースできた(笑)。
昨年のツアーでもテーマとなっていた太陽と雨をそれぞれテーマとした2枚で、Aimerというアーティストの「これまで」と「これから」を感じさせる構成になっている面もあるかと思う。
ボリュームがボリュームだったのでリリース後少し時間がたってしまったがレビューしておく。
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よく知人・友人などと話すときにこのAimerさんという方はアーティストというよりアルチザンの側面が強いのではないか、ということをよく話す。どういうことかというと、自分の内面をさらけ出してそれを作品に昇華するのがアーティストだとすると、ほかの作家からの作品を預かって、その作品の持つ世界観や情熱を自身の表現能力をもってより一層の高みで表現する―そういう意味での後者-アルチザンとしてAimerさんは類(たぐい)まれなる才能ではないか、と。
なので外部作家―それも独自の色を濃厚に持つ、いわゆる濃い目の作家さんと組んだ時の作品はどれも突出して素晴らしく、それがここまでの彼女の知名度を上げてきた大きな原動力になっているというのは言っていいだろう。
そのぶん、逆に言うとご自身の内部スタッフともいえるagehaspringsのAimerチームの作品は良作は非常に多いのだが、そういったある種の業をまとった作家陣の作品と比べると、どうしてもおとなしく見えてしまっていたのも事実だ。加えて初期の作品のいくつかにみられた(おそらくその謙虚なお人柄由来であろう)一歩距離を置いた感のあるスタンスは、どうしても曲のもつ世界への没入をいま一歩浅くしていたのも事実かと思う。
しかしここまでこれだけの作品を発表し続け、前述のような業の深そうな作家陣とがっぷり四つで組み合ってきた経験-そこから得られた「ゆるぎない自信」とでもいうものがようやく「アーティスト」としてのAimerさんを産み出しつつあるように思う。今回のこの2枚のアルバムは奇しくもそのことがよくわかるコントラストになっていて、特にagehaspringsのAimerチームの作品だという『Sun Dance』がそのことをよく表している。それはむしろ聴きごたえという点では紙一重の差で軍配が上がるであろう『Penny Rain』があるからこそ感じられるという、ある種理想的なリリースだったといえるだろう。
これはどちらのアルバムが素晴らしいという話でなく、これまでの積み重ねの延長線上にある『Penny Rain』というアルバムのすばらしさがあるからこそこれからのAimerさんの可能性をきらきらと感じさせてくれる『Sun Dance』のすばらしさがより分かるようになっている、ということである。
個別のアルバムに関していくつか言及しておくと『Sun Dance』は特に曲の流れが素晴らしく、アルバムで聴いてこそ意味のある楽曲群というのは久々のような気がする。特に冒頭からの『One』『We Two』『3min』という「1,2,3」と遊び心のある曲名順が楽曲自体の独自性を含め、このアルバムの真骨頂だろう(とくに疾走感の『We Two』、グルーヴの『3min』が素晴らしい)。そこから4番バッター的な『コイワズライ』へと続く(個人的に「~だよ」という感じの歌詞があるときの内製チームの作品はヒット率高い気がする)
片や『Penny Rain』のほうは冒頭のOvertureも担当している梶浦由記カラーがいい意味で全体の統一感を作っている。よくAimerさんは澤野作品(特に『RE:I AM』)が「力強さ」を自分に与えてくれたとおっしゃられているが、梶浦作品はそれとはまた別の「感情の放出」とでもいうべきものを結果的にもたらしたのではないか。(それは自分がAimerさん作品に一番欠けている部分と感じていたところでもある)。
そういう意味でいちばんえげつない曲(誉め言葉)である『I beg You』がとっぱなに来るというのは非常に正解だ。それがあるから『BlackBird』への流れもすごく説得力がある。そして面白いのがCocco、澤野弘之といういわば作家カラー的には「圧力担当」(苦笑)とでもいうべき両者の作品が非常にさわやかなな感じだというのも面白い。特に澤野版(アルバム『R∃/MEMBER』収録)と違ってよりボーカル寄りのリアレンジが施された『i-mage<in/AR>』は澤野氏、Aimerさん両者にとって新機軸になるのではないか。そういった雨間のつかの間の晴れを感じたと思ったら再びどしゃぶりの『花の唄』へと続き、〆が『AiprilShowers』。
おそらくこの2枚はAimerさんという才能にとってのある種の到達点であり、それと同時に出発点でもある。この2作品をして、後にひとつの区切りとしてとらえられるようになるのではないか、そんなことを感じさせるアルバムだった。それは「アーティスト」としてのAimerさんの誕生ともいえるのかもしれない。
ただこのレベルに至った、ということは今後さらに楽曲にクオリティが求められていく、という点でプロデュースチームであるagehaspringsの責任は重くなったと思う。個人的には非常にそつのない、ハズレのないものを出してくるチームということでの信頼感はあるが、逆に言うとそこを飛び越える熱量とか破綻に近いエネルギーのようなものを求められていくことになるのではないか。少なくとももう「そつのない」だけの作品では勝負できなくなってる時期に差し掛かりつつあると思う、正念場ともいえるだろう。そしてそういう期待に応えてくれるのではないか、というのを期待させてくれるものが『Sun Dance』にはしっかりとある。
この2枚のアルバムで表現されているその先にどういう変化が待っているのか、非常に楽しみだ。
※例によってナタリーにご本人のいい意味での変化=自信が感じられる良いインタビューが載っているので、興味のある方はご一読をお勧めする。
Aimer「Sun Dance」インタビュー|“太陽”に導かれた眩いダンスミュージック – 音楽ナタリー 特集・インタビュー
Aimer「Penny Rain」インタビュー|原点と挑戦を詰め込んだ“雨”曲集 – 音楽ナタリー 特集・インタビュー
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