【レビュー】『アリータ:バトル・エンジェル』/ロバート・ロドリゲス 監督

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原作となる木城ゆきと氏の『銃夢(ガンム)』はビジネスジャンプ連載時にリアルタイムで読んでいて、初期の9巻までの単行本もすべて持っていた。キャメロンが映画化の権利を買ったと聞いてから、もうかなり経つと思うがようやくその結果が実際のスクリーンに!

直近でいうと『攻殻機動隊』のような換骨堕胎の改悪実写化が心配されてもいたと思うが、さすがキャメロン製作。原作や日本製のコミック・アニメ文化へのリスペクトも十分に感じられる映像化だった。

原作を知っているものからするとややニュアンスの違いを感じる部分もあるのだが、ここまでやってくれれば文句ないでしょう。原作単行本でいうとおそらく4巻手前ぐらい?までを非常にうまく再構成してあり、人気次第では続編も十分に期待できると思う。海外でも評論家からはやや低評価も観客スコアは悪くない模様―いやでも期待は高まるところだ。


基本的に再構成はされているが原作に準じた映画化といってよいと思う。ただ一本の映画としてまとめるために細かい部分は当然ながら変更が加えられている。これは映画化以前に英語版の出版時からなのだが主役の名前が原作とは違うんですね。(原作ではガリィ―ご存知の方はご存知かと思う)

また一本の映画としてのテーマ性という意味では「娘の親離れ―独り立ち」というのを設定しているようで、原作ではそこまで父性を持たされていなかったイド医師が亡くなった娘の義体を与えたことで、娘を案ずる過保護な父親的な側面を持たされており、ザレム人である前妻の設定も含めて「親子」を一つの軸として設定してるようだ。これはこれで正解かと思う。ただそのせいかガリィ・・・じゃなかったアリータちゃんの性格が原作のそれに比べるとちと好戦的で単純バカに見えがちなのはこのテーマ性を据えたことの代償といえるか。

この「女の子の独り立ち」というテーマ性でもうひとつ「あ、そういうことかな?」と思ったのは「アナ雪」的なところも持たせてあるのかな、ということ(自分はアナ雪観てないのでなんとも言えないんだが)。なぜかというと事前のトレーラーの段階でも指摘されていた「目の不自然な大きさ」の造形が、全編通してみるとディズニーアニメ的に見えて不思議な感覚があったのだ。

自分的にはこの大きな瞳はギリギリの線でアリのバランスへ落とし込んでいると思うので、見る前から肯定的だったんだが、もしそういったディズニー的なものを無意識に下敷きにしているのなら、本作の興収結果次第で今後こういった2.5次元的なアプローチというのは洋邦問わずにたくさん出てくるかもしれない。

あとはもう舞台となる「クズ鉄街」のビジュアルが圧倒的というか、こういうところはハリウッドならではの物量の威力ですなあ。前述のように評論家筋からはあまり評判良くないといわれるように、脚本としては実はあまり深みはあるほうではないんだが、こういうスチームパンクというか一発で見てわかる街のビジュアルの”質量”がそういった隙間をがっちり埋めてくれている。そのうえでいくらでも複雑にできる物語をアクションとアリータの心情に絞ったシンプルな脚本にしてエンタメに徹しているのが観客側には受け入れられたのだろう。今回はチラ見せに終わった作中最大の敵、ディスティ・ノヴァ教授が出てくればこのあたりは今後いくらでも深堀できるし、シリーズモノの一作目と考えると、この判断は間違っていないと思う。(ノヴァ教授が出てくると「人間の自意識とは」的なところまで絡んでくるので)

ということで次作があるなら次はガッツリと「モーターボール編」となるはずなので、実はその部分のほうが映像化できるなら迫力あるしエンタメ感は抜群になるだろう。これもチラ見せだったが「”帝王”ジャシュガン」もちゃんと描写はされていたのでこのあたりは期待したいところ。(そうすると今度はジャシュガンとの精神的なやり取りの深みの部分がどうなるかというぜいたくな心配はあるのだが:苦笑)

とりあえず2時間ちょっとできれいにまとまったエンタメ作品としてすっきりしあがっているので、気になる方はご覧になってみるとよいかと思う。原作だいぶ前に処分しちゃったんだがもういっぺん買うかな~。しかしいくつかバージョン変わって版元も渡り歩いてきた作品なので悩ましいところ(苦笑)。

銃夢(7)
銃夢(7)

posted with amazlet at 19.03.08
講談社 (2014-01-31)

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