Aimer Live in 武道館 “blanc et noir”/Aimer

標準

最初期からのファンとまでは言えないが、もうそれなり長さをファンとして楽しませてもらってるアーティストなので「初の武道館公演」とあれば行かずばなるまい!と行ってきた。

結論からいうと「これまでの集大成」とかではなく、もう次のフェイズへスタスタと歩き始めている、その第一歩のようなライブだった。そしてこのAimerというアーティストの”素”の、そして独特の立ち位置が見えた、いい意味で不思議なライブだった。


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通常はどんなライブを見てもアレやコレや言いたくなるような点は出てくることがほとんどなんだが、今回はそれがほとんどなし。では素晴らしく感動うずまく特別なライブだったかというとそういう感じでもない。

ならどういうライブだったかというと、すごーくシンプルで”素”の感じがするライブだったとしか言いようがない。そしてこのAimerさんというアーティストにおける”素”というのはすべて声―その歌声に集約されるんだな、ということがはっきりと分かったライブだった。

ステージは中央に置かれ客席から360度見渡せる構成、一部中央がせりあがる等の演出はあったが凝った演出はほとんどなし。バンドメンバーは中央のAimerさんを囲むようにぐるっと円形にセッティングされ「武道館のライブ」というイメージからは控えめすぎるといってもいいサウンドセッティング(しかしこれは正解)。

そしてその円形の中央に置かれたのはAimerというアーティストではなく、その声―歌だけがぽーんと置かれている、そんな感じのするライブだった。

もちろん、その声の主であるAimerさんのパーソナリティが皆無だったわけではない。つどつど観客に手を振り、ぴょこぴょこ飛びはね、真摯に語り、深々と頭を下げる―その愛らしいキャラクターは普段のライブよりよりいっそう活き活きとしていたかもしれない。

けどやはりこの武道館のステージの中央にぽん、と置かれていったのはただただその”歌声”だけだったような気がする―そしてそれはとても美しく、比類なく素晴らしかった―このライブの核心はこの一点に尽きる。

そして今回のライブを見てあらためて気づいたのは、この方はいわゆるアーティストという人種が持ち、ある種必然ともいえる「自己承認欲求と混在となったエゴ」のようなものから無縁なのではないか、ということ。

ではアーティストとしてのエゴが皆無かといえばそうではなく、おそらく彼女のそれはすべて自身が召喚する「歌」―その現れかた・そのの在りよう―それをどう表現し尽すことができるか?そこにすべての「エゴ的なもの」が吸収されてしまっているように感じる。

どういうことかというと、普通のアーティストが歌うことや表現することで自己のエゴを吐き出し観客がそれに応えることによってある種の自己承認欲求が満たされる側面があるように思うのだが、彼女の場合はそこに自分が呼び出した声=歌、その現れ方にどれだけ自分の意図したものが込められたか―あるいは凌駕したか―その点にしか求めるものはないのではないか(極論すればそこに観客は必然ですらない)。

ある意味これは日本語的にいうと「職人」的なスタンス―ある種の楽器プレイヤー的な立ち位置に近い。

では観客はどうでもいいのかというとそういう感じではなく、彼女が表現しようとする声・歌―その現出の瞬間を共有する立会人、一緒に見守ってくれる共有者とでもいえばよいか―うまく呼び出せるかどうか、一緒に見守っててくださいね―とでもいったニュアンスで―そしてそれは彼女にとって必然である。

そして面白いのは、そういったスタンスであるにもかかわらず彼女からはなにかを降ろしてくる巫女的な激しさではなく、どこか彫刻家のような生真面目さを感じる。
そういったスタンスがAimerさん個人というパーソナリティとそこから出てきた声・歌というものとをいい意味で別(わか)っていて、それがより一層ドロドロとしたエゴのようなものから彼女を切り離しているのかもしれない。

ご本人も今回のMCで「私は歌うことが好きです」とシンプルに、ド直球におっしゃっていたが、この言葉がこれほど説得力のあるアーティストは昨今のご時世では皆無に近いと思う。なぜなら巷に「歌手」と名乗るアーティストは数あれど、彼女ほど「歌そのもの」に多くのものを注ぎ込んでいる人は、ほとんど数えるほどしか居ないであろうから。そしてその結果出てくる歌声というのが本当に素晴らしい、ただひたすら耳がしあわせ(笑)なのである。

アーティストという言葉に多くのものを求めるのなら、上に書いたような表現者ならではのエゴというのもある種の必然というとらえ方もあると思う。なのでそういうものを求める方には彼女の作品は物足りなく感じられる向きもあるかもしれない。(事実初期の作品ではそういった傾向は感じられる)しかし彼女はその比類のない独特な”声音”で、その研ぎ澄まされた表現方法で、そこを飛び越えていく稀有な例となるのではないか。

逆にいうと、彼女が外部のアーティスト・作曲家とのコラボでよりその輝きを増すことが多いというのもある種必然だ。そのアーティストの持つ表現者としてのエゴと彼女の持つ歌へのエゴが理想的な形で掛け合わされる、そこに素晴らしい輝きが生まれないはずがない。

しかし少し可能性の話として期待してみるのなら、もし彼女が自身の中にあるそういった「表現者としてのエゴ」がより発揮されるようなことがあれば、それはとてつもないものになるかもしれない―そしてそれはここ最近発表されている作品のいくつかを見るとその芽生えも見え隠れしている気もする。

ただそんなところに期待せずとも、彼女はこの歌声という唯一無二の武器とともに、すたすたと己の進むべき道を淡々と歩いていくだろうし、それが似合うアーティストのように思うのだ。

ということでシンプルにそしてすでに次へと進んでいっている、すごく当たり前な感じのライブでした。

彼女がてくてくと歩いていくその先になにが見えるのか―そのまだ見ぬ景色はとても気になるので、いましばらくお付き合いさせていただくつもり。

次のアルバムはまだのようだが、梶浦由記氏による楽曲を含んだシングルの発売と次の全国ツアーは発表になっている。そこでまたどういう景色が見えてくるのか―すごく楽しみだ。

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