生賴範義展 THE ILLUSTRATOR@上野の森美術館

標準

先月前半から先日2月4日までほぼ一ヶ月、上野の上の森美術館で開催されていた、イラストレーター生賴範義氏の個展。日本のサブカルチャーに接している方ならまず間違いなく一度はその作品を目にされていると思う。

以前にも亡くなられるまでお住まいだった宮崎で個展が開催されたと記憶しているが、さすがに都内からだとハードルが高かったので、今回はまさに待ってました!と言う感じだった。

そしていざ現物を直接この目でみると・・・そのあまりの凄まじさに会期中3回も脚を運んでしまった。自分なりにすごい方だという認識はあったが、実態はその認識をはるかに超越している内容。3回も同一の展覧会観に行ったのはたしか大学出てすぐの頃のギュスターヴ・モロー展以来かも。

そして今回の個展を一言で言うなら”物理的に”殴られた感じとでもいえば良いか。

その作品、そしてその政策過程すべてにおいて”物理(フィジカル)”な要素の凄まじさをひしひしと感じさせられた個展だった。




生賴氏といえば書籍の装丁、映画(邦洋問わず)のポスター、ゲームやその他のパッケージ「え、こんなものまで?」というほどあらゆるジャンルで仕事をされているが、今回あらためてその”物量”-その膨大な作品数にまず驚かされた。そしてそれだけの作品数にもかかわらずそのクオリティがえげつないくらい凄い、凄すぎる。

氏の作品と同等のクオリティをもつ作家さんというのは皆無とはいわないが、正直このレベルの作品をこれだけの数残した画家は非常に少ないのではないか。


会場に入ってイントロダクションとも言える映像展示のコーナーを抜けると「生賴タワー」と名付けられた装丁を手がけられた文庫や新書の書籍を四面すべてに並べた書架がどんとそびえ立っているのだが多分これでもほんの一部。そしてそこを抜けて初めて原画の展示が始まるわけだが、それもかなりの数。そしてリッキテックス(アクリル絵具)作品を中心に、インクによる点描・線画、物によっては鉛筆画などもあり、まさに弘法筆を選ばずといった感じ。

加えてそういった技法で制作されている=昨今のデジ絵などと異なり、当然ながら物理的に描かれているわけで、その凄さは直筆の原画であるだけにより一層感じられる。そしてあの生々しい筆のタッチ、絵の具の盛り上がりーそれを見ればどれだけ肉体的労力が必要なのか、それがありありと感じられる筆致。にもかかわらずそれが驚異的な短期間で制作されているだろうことは、当時連続で刊行されていた幻魔大戦(角川・徳間文庫版)の異常ともいえる刊行ピッチを実際に知っている身としてはあらためて驚愕せざるを得ない。


そして一見ラフに叩きつけられているかのような絵の具の重なりを、すこし離してみるとビタッとその光景が飛び込んでくるーそれも非常に精緻なイメージとしてーという完全な光・色彩・デッサンのコントロール。もう正直いい意味でバケモノというしかない、凄すぎて声が出ない感じ。

とはいえ、その作品の多くは自分が愛読してきた作品のカバーを飾ってきたなじみ深いものばかり、それがまとまって展示されているのをみるとやはり嬉しさに頬が緩む。
(やはり幻魔、真幻魔あたりの原画はすごく見れて嬉しかった)



(こちらは撮影可能コーナーのものなので原画ではないが好きな一枚―この「魂の使徒」以外では「時を継ぐ者たち」や「真幻魔大戦」の新書版表紙の優里さんなどは原画の展示があって感激でひとしおでございますよ・・・)

そういった各作家やジャンルごとの展示を回って最後に出てくるのがいわゆる美姫シリーズ、そして氏の個人的なテーマ作と思われる「破壊される人間」

美姫シリーズはかつての専門誌SFアドベンチャーの表紙としての連作だそうだが、ちゃんとテーマ性を持った連作であったというのは今回初めて知った。ある意味このシリーズが一番氏の作風がわかりやすく現れているという点で一つの代表作といっても良いのではないか。
(個人的には下書きのラフも隣り合わせで展示されていたのは良かったーそれにしてもあの複雑な膝まわりの骨と筋の描写のなんとすごいことか・・・)







「破壊される人間」の方は氏の空襲体験などもルーツにあるようで、そういう有無をいわせぬ絶対的な暴力に対し、内在的に持ち続けた怒りのようなものが製作のモチベーションだったのかなあとも思ってみたり。唯一商業性を感じさせない作家としての内在する暗黒面を解き放ったかのような作品で、これもその画面から物理的な圧力が押し寄せてくるかのようであった。


ということで時間をみては観にいってきたのだが(結局トータル3回見に行った)、正直早くなんらかの形でこの方の作品はまとまって保管・展示される場所があってしかるべきだと強く感じる。おそらく今後、今回目にすることのできたこれらの作品はこの国の国家的財産・・・というか文字通り国宝になってもおかしくないと思う、大げさではなしに。いままだご子息のオーライタロー氏によってうまく把握・管理していただけているようだが、ほっておくと散逸、国外へ流出ということも十分考えられる。

できることならこれだけの希世の大作家、専用の美術館なり、公的な設備に収蔵・管理されてほしいもの。そしてそれが今回の展示のように、多くの人が気軽に観にいけるようなものであればいうことなしだ。

今回もコンスタントに入場客はあったようなので、ぜひ近々の再会を切に希望する。今回見逃された方も次回は是非ご覧いただきたい。日本国内にもこういったすごい才能がいたという、それを感じるだけでも無駄ではないと思う。




※ちなみに本展の目玉の一つとして寺田克也氏リデザインによる幻魔大戦シリーズの重要キャラクター・ベガの立体物の展示があってこれも素晴らしかった。

惜しむらくはアクリルケース内の展示だったので会場内の照明の反射がひどくてあまりじっくりとディティール見れなかったのは残念。1/7のレプリカの先行予約もあったのだが(5マンエン…)、頭部がもう一回り小さいアレンジであれば間違いなく買っちゃってたと思う、あぶなかったw








氏の作品集・画集は現在以下のものが購入できるようだが(一部絶版)、なにげにおすすめなのは電書版での「生頼範義イラストレーション 〈幻魔世界〉」だ。
上に書いてきたような”物理(フィジカル)”要素と一見矛盾するかもしれないが、液晶のバックライトを通してみる形になるのでよりその色彩のコントラストが堪能できる。RetinaディスプレイのiOS機器をお持ちのことならなおのことお勧めである。

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