先週末のライブだが遅ればせながら。
澤野弘之のサントラ作品等で活躍されている小林未郁のワンマンソロライブ。澤野作品だけではなくご自身の作品もコンスタントに発表されているが今回のライブはその二本柱をイーブンに収録した”Mika Type~”シリーズのニューアルバム『Mika Type ろ』の内容で行われた中華圏ツアーの凱旋ライブという形態。加えてライブハウスという非常に密集した空間でこのレベルのシンガーの唄を間近に聴けるという非常に贅沢なライブだった。
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澤野組でのライブを聴いてから、ご自身の活動もされているとのことで単独のライブはずーっと観てみたかった方なのだが、個人事務所である関係かどうしても2マンだったり複数のコラボライブだったりでなかなか単独のライブを観る機会がなかったアーティスト。なので今回はアナウンスがあってすぐに申し込んでみたところ幸いチケットも取れたので観てきた。
最近はいろいろ事情があってか澤野氏のライブのほうでは登場機会がないのだが、本来この方はホールクラス以上のハコで演るのが当然とでもいうべき実力の持ち主と個人的には認識している。それがこのクラスのライブハウスで―それもバンド構成でガッツリ観れたというのはかなりラッキーだったと思う。
で、上記のように澤野ライブにあまりでなくなったのでサントラ系の曲は演らないのかな、とちょっと心配していたら初っ端からat’aek ON taitn からβίοςと続けざまですよ!?(歓喜)
バンド構成ということもあったのだろうが、思った以上に澤野曲を披露してくれたし、ご自身作曲のニューアルバム収録曲のバンドならではのサウンドもちゃんと再現。もちろんこれまで一番多かったであろう弾き語りのスタイルも中盤でしっかりとってその美声を十分に堪能させていただいた。
そう、実はこの日最後のほうで発表があったのだが、どうやらこの中華圏ツアーのバンドメンバーでの音が理想的だったそうで、このメンツでパーマネントなバンド構成で活動もしていくとのこと。ちなみにバンド名が”三日天下”だそうですよ!?(笑)
※ご自身のレーベル名がmicca boseだから「三日」入れたかったらしいw
メンバーは澤野組でもたびたび登場されていた飯室博氏など実力派の方が固めているようなのでこれは一ファンとしては非常に朗報だし大歓迎。
ニューアルバムのレビューの時にも書いたが、元々かなりのレベルで歌の上手い「本物」のシンガーでいらっしゃるので、その作品のバックがほぼピアノメインというのは(美声を堪能できる反面)少しもったいないとは思っていた。こういうバックバンドが付いたことでより作品の幅や描写できる世界は飛躍的に広がっていくだろうし、次回作が早くも楽しみな感じである。
で、あと今回のライブとはあまり関係ないのだが少し気づいたことが一つ。
それはこの方の作品世界というのは実は「犬系」のそれなのかな、ということ。
※別に悪い意味での「犬」ではないので誤解なきよう。
作品をお聴きになった方はご存じかと思うが、この方の作品の歌詞はけっこう歪な愛情表現の世界観でデコレートされている。そしてその愛情の対象に報われないことをわかりつつも、ずっと働きかけ、待ち続けているように感じる作品が多いな、と今回改めてその生の肉声を聴いて気づかされた感じ。
いわばそのいびつな愛情表現も、その底には主人を待つ愛犬のようなひたとその奥底から光る悲しさをまとった犬の瞳―それと同種のような気がした。帰らぬ主人と知りつつもずっと待ち続ける、報われない愛と知りつつもあふれでる愛をもてあますが故に歪と知りつつも働きかけずにはいられない、そんな感じ。
※犬系の愛情の具体例をお知りになりたい方は松田洋子氏の傑作『相羽奈美の犬』をぜひどうぞ(笑)。
世にはいわゆる「猫系」のアーティストは多々いらっしゃるかと思うんだが、こういう「犬系」の方は昨今少なめのような気がする。そういう意味でもちょっと稀有なアーティストなんだな、というのを再認識した感じ。
なにはともあれ、なんらかの機会でこの方の作品やライブを観る機会がある方は、ぜひそのチャンスを逃さないことをお勧めする。
なによりもその一番根底にある「歌唱力」が鉄板の安定感―これだけでも昨今の玉石混交の音楽シーンにあっては貴重―というか本来これぐらいの方はもっともっとメディアに露出していて当然なんだよな。そういう意味では、今回のバンドスタイルが一つの突破口になってくれればうれしいのだが。
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