これもずいぶん前―確か今年の初めごろAmazonプライムで。というかこの作品Amazonのタイアップ作品だったはず・・・よね、確か。
昨今はNetflixやらHuluやらのビデオ配信サービスが同種他サービスとの差別化のために独占配信コンテンツに制作・出資という形で関わってきているようだが、出資元が増えるというのはコンテンツ制作側視点から考えると非常に良いことだろう。
そういうこともあってか本作はその画作りが非常にハイクオリティで1クール12本とはいえ、おっさん世代からすると「あの」美樹本晴彦のキャラクターデザインを(作画に関しては)ほぼ失速することなく完走したということだけでもすごいと思う。このあたりもそういった資金力の有無が関係しているのならばこれは素直に歓迎すべきことだろう。
物語としては途中失速という評価もあったしそれもある意味では妥当かと思うが、個人的には最後まで楽しめた。その失速云々の部分がなければけっこうブームを作るような作品になっていたかも。
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中世日本風の世界にはびこる生きた屍「カバネ」。カバネに嚙まれたものは感染し、その当人もカバネとなってしまう。妹をカバネに殺された生駒(いこま)は妹の仇をうつため、独自の武器を研究しつつ、その機会を待っていたが、彼の住む「駅」(防壁で囲われた城塞)にもカバネが再び侵入し・・・といった感じの和風スチームパンクテイストのゾンビ作品、といえばよいか。
この世界観の設定は非常にうまくて、つかみはばっちり。その「駅」の間を移動するのが装甲列車・駿城(はやじろ)というのもいい。しかしこのあまりにもビビッドなイメージを持つ世界設定があったが故に、本作は必要以上に視聴者の期待を上げてしまい、結果それが高いハードルとなって上記で触れたように「失速」と評価されるに至った面もあると思う。しかしこの秀逸な世界観設定が視聴者を引き付けたのも間違いないので、このあたり痛しかゆしといったところか。導入部にあたる4話ぐらいまでの完成度がまた必要以上に高かったことがこのハードルをさらに上げてしまったことも否めない。
基本主人公の生駒と謎の少女・無名(むめい)を中心とした群像劇で、駿城「鋼鉄城」に乗ってのカバネからの逃亡劇なわけだが、ゾンビ(カバネ)から列車で逃げる逃亡劇と思いきや、上記の導入部が終わったあたりからスタンダードなゾンビもの的なアプローチから少しづつ逸脱が始まる。具体的にはカバネの群体が出てきたり、念力で敵を弾き飛ばすといった描写が出てくるのだが、そのあたりが導入部で”普通の”ゾンビパニックものを見事にやりすぎてしまったために違和感を感じる層がけっこういたようだ。(自分はゾンビ逃亡ものとしてはあまり期待していなかったのでそういった失望感はなかった)
加えて折り返しとなる7話前後から話の主軸となってくる無名が「兄さま」と呼ぶ将軍の御曹司・美馬(びば)のキャラクター設計が多くの視聴者からは嫌われたようだ。
ある程度オッサンの自分などからすると、この美馬というキャラクターの造形はわからなくはない―脆い自我を自罰的な行動で奮起させている―のだが、爽快感はないだろうな、というのは同意だ。
たださすが『進撃の巨人』を作ってるスタジオだけあって、そんなキャラクターを敵役に据えても、演出の力である程度押し切ってしまっている、これに手を貸しているのが例によって澤野弘之の手による劇伴だ(笑)。こんなん盛り上がらんはずがないやろ!?という音楽がかかってほしいところでピタッとかかる(苦笑)。ずるいよなあ。
(導入部を終えた4話の特殊エンディング―清流の下に連なる川底の小石や舞い散る花びらが非常に美しい―加えて澤野×Aimer組のEDである)
とまあいろいろと細かい突っ込みを入れようと思えば入れられる作品なんだが、その熱量と全体的なクオリティ―上記の劇伴や美麗な作画―の高さもあってか、十分に高いレベルの作品ではあると思う。ただ多くの人が感じたようにそのシナリオの部分がもう少し良ければ、名実ともに傑作になっていたであろうだけに非常に惜しかった、その惜しさ故に一部から必要以上の低評価をくらってしまった不運な作品ともいえるか。
ただ視聴を終えて言えるのは、見るのに費やした時間がまったくの無駄になるとかそういったレベルの質の低い作品ではない、ということは断言しておく。事実続編もアナウンスされているようなので、今期の低評価をきっちりとひっくり返していけばまだまだ長く名前の残る作品となる可能性は秘めていると思う。
あと個別の要素についてとなるが、本作は特に作画のレベルが素晴らしい。
冒頭でも書いたが「あの」美樹本晴彦原案のキャラをこれだけ破綻なく最後まで動かしたというのは見事だった。美樹本晴彦氏は初期マクロスのキャラクターデザインで著名かと思うが、初代ガンダムが大ブームになった後、雨後の筍のように出てきた安彦良和氏のフォロワーとしては頭一つ飛びぬけていた。しかしその繊細さが核心の画風はアニメーション向けではなかったせいか、美樹本氏のキャラクター原案作品というのはあとがあまり続かなかったと記憶している。
それを今回久々にこのレベルで動かしたのは見事だと思うし、そのために以下のような新機軸も導入していたようだ。
この技術は今期の『進撃の巨人』にも一部反映されていたようでこのあたりは勢いのある新興のスタジオならではだろうか。
あと本作を実際に見る前に澤野×Aimer作品として『ninelie』(EDテーマ)は購入していたんだが、結局この曲と挿入歌としても使われていたカップリング曲『Through my blood <AM>』は去年個人的に一番聴き倒した曲となりましたとさ。スルメ曲よ、これ(笑)。
最期にひとつ―本作最終話のエンディングは初代ガンダムのあのラストシーンをなんとなく彷彿とさせる。このあたりは美樹本氏のキャラクターデザインへの起用といい、案外当時の世代へのフックとして用意されていたのかもしれない。
興味のある方はご覧になってみてはいかが?
SME (2016-05-11)
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