【レビュー】『へうげもの 全25巻(完結)』山田芳裕

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遂に完結ですな。

一時期は物理版で買ってたんだが、室内が蔵書で圧迫されてたこともあって手放した。しかしその後電子版の出版にあわせて電書で買いなおし、この度ようやく完結。

本作品はその歴上著名なその登場人物たちの意表を突いた”死にざま”がこれまで作品の看板であったが、ついにその順番は主人公・古田織部その人の番に。

『へうげもの(25) (モーニングコミックス)』





実は史実でも大坂夏の陣前後で処罰された(切腹した)らしいという程度しかわかってないようだが、それを逆手にとってどういう最期を見せてくるのか?というところを期待していた。が、連載時に初見したときは「う~ん、意外とあっさりとした感じにしたなあ」という印象だった。一つには本作での信長や利休の最後が強烈過ぎて、どうしてもそのイメージが頭にあったからかもしれない。

しかしこうやって一冊にまとまってから見てみると、じつにこの『へうげもの』という作品での古田織部らしいというか、このしぶとさ・軽やかさこそがこの古織らしいと思えた。作中でも利休の切腹前後で「自分自身の本当の姿(持ち味)とはなんなのか?」とかなり逡巡する描写もあったのだが、その時に出た結論そのままに、その人生を最後まで貫き通したということだろうか。

そしてそういうスタイルをとった故か、ある種本作では織部の弟子であり相方ともいえる立ち位置だった上田宗箇が最後にその足跡をたどる。これも茶人というより武人的な性格の描写が強かった上田宗箇にもってこいの役割だった(しかし彼が最後にこういう重要な役を担うとはちょっと想像してなかった)。

その彼が最後の一コマで見たあれは実際に織部に関係あるかといえばたぶんそうではないとは思うのだが、そこが非常に本作の古織らしいというか「ああ、そうきたか」とニヤッとしてしまう感じ。

作品としては史実をベースにはしているので、利休退場以後、登場するキャラクターにあの利休の業深さに相当するものをもった人物があまり出てこなかったせいもあってか、やや中だるみ感はあったが、それを含めても良作だったと思う。惜しむらくは大久保長安が中途半端にウェイトがあったばかりにラストの家康の逆鱗の部分がすこし回り道になってパワーダウンしたように見えてしまったのはもったいなかったかも。(もっと尺をたたみこめば家康周りの描写は十分勢いのあるエピソードだったと思う)

しかし本作のおかげで、これまでの堅苦しい茶道や陶磁器・焼き物といったジャンルにカジュアルさと親しみを持つ層はけっこう増えたのではないか。古田織部という人にあらためてスポットライトを当てたのもそうだろう。

当初はこの人が時代劇!?意外だな、と思ったものだが、やはり山田芳裕という作家はその地力がどんなジャンルであろうともゆるぎないということを本作は証明してくれた。そしてこの山田氏の描く時代物というのはすこぶる好ましい世界観だったので、できればいましばらくこの路線での作品をいくつか見てみたいというのがいまとなっては正直なところ。

なにはともあれ長く続いた作品の完結、お疲れさまでした。

次回作も期待して待ちたいと思う。

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※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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