幼女戦記(1stシーズン)

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amazon primeにて視聴。自分はここのところどの作品を見るかの判断材料としてよく海外の反応系のまとめを参考にするんだけれども、本作品は海外での反応のほうが国内より好反応だった印象。

ただ一話を見た印象ではよくできているだけに「良くできている故の」アラも感じて、一気見ではなく数話づつ見ていったんだが、最終的には非常に高評価かつ近年珍しい「骨太な一本」という結論となった。事実すこぶる面白かった。

タイトルで嫌悪感を持つ方も当然おられると思うが、これは騙しである。見ればわかると思うが幼女の皮を被ったおっさん(社畜)の話であり、ラノベの皮を被った仮想戦記物―それもかなりヘヴィ級―がその正体だ。諸君、騙されてはいかん(笑)。

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基本的にはWW1をベースにWW2も一部混じっているような時代設定の欧州と思しき架空世界での戦記物。その架空世界の象徴として「魔導士」が存在し、それが現実世界でのWW1~WW2あたりでの航空戦力を置き換えているといえばよいか。

主役のターニャ・デグレチャフは10歳にも満たない年齢でその魔導係数の高さから軍に志願入隊し、裡に秘めた秘めた野望のためにその超リアリスト・プラグマティストぶりを発揮して軍の出世街道を驀進するが、結果それは常に最前線での活躍を期待されることでもあった。

と、いちおうぼかして書くとそれっぽく見えるが、この主人公である「幼女の皮をかぶった化け物」さんの正体はけっこうあっさりと2話目で明かされる。がこれすらも実はこういった架空戦記物を昨今の出版事情の中で成立させるためのギミックのような気もする。(もちろんその正体の部分とそれ故に絶対的な敵対者として存在する”存在X”という設定は物語に深みを与えてもいる)

で、おそらくこの原作者はめっっっっったくそこのあたりの時代とか歴史とか政治に詳しい、というか好きなんだろうな―なのでそれを舞台にした自分なりの戦記を書いてみたかったというのが一番大きいのだろうかと思う。

そしてその知識量というか認識の深さがこういった表向きの設定の羅列からは想像できないような分厚さを物語に与えていて、それがこのアニメバージョンでも有効に働いているようだ。

ただそういった裏付けの重厚さゆえに、冒頭に書いたような違和感(「良くできている故の」アラ)を感じたのも事実。

いくつか挙げてみると、冒頭のPV動画のサムネイルにもなっている参謀士官のヘアスタイルや野砲の砲撃の際の反動の無さ、航空機相当だとするとかなりの高度を飛ぶのには不十分と思われる防寒装備、加えて空中戦闘するのになぜストラップを外して飛んでいるのかetc・・・政治ドラマ的な部分が重厚なだけに、そして演出部分もストイックに頑張っているだけにそういう細かなところが凄く気になった。

もちろんこのあたりは「実は設定的にはこうでして」というのはきちっと考察されているのかもしれないが、それが画面からわからないのはなんとももったいないと思う。ちなみに話中「高度9000」とか出てくるが実はこれも少しひっかけで、航空的な常識でいうとこれは単位がフィートらしいので約高度3000メートル弱(2700ほどか)。このあたりはWW2の航空機が酸素ボンベや電熱服が必要だったり、欧州戦線では高高度爆撃機に空冷戦闘機では対応できず(敵爆撃機の飛ぶ高度1万mだと空冷だと出力が落ちる)液冷エンジンや過給機が必要だったりと航空機開発史としてはすごく面白いところだったりするので、なまじそういうところを中途半端に知っている自分などは余計にそういう印象があったのかもしれない。

そう、ぶっちゃけ言ってしまうと、本作で一番不必要だったのは実はこの「魔導」や「魔導士」の要素だったと思う。ほかの設定がなまじ歴史の蘊蓄をしっかり反映した骨太なものだけに、そういう付け焼刃なところの浮きっぷりが凄いといえばよいか。

かたやキャラデザインに関しては上記のいかにもな髪型や敵航空魔導装備のビミョーさはあるが、萌え絵に落ち込まないややアクの強いキャラクターデザインの面は評価できる。(原作挿絵だと美女らしい副官をしもぶくれの愛嬌あるデザインにしたのは英断だと思う)

そして本作はそういった欠点を補ってあまりあるほど、戦記物として非常に面白い。タイトルに騙されるなと書いたが、これ実は非常に大人向けの話。戦記物というのはもともと組織論や群像劇であることが大きな魅力の一つかと思うが、それに相当する質量を本作品はちゃんと持っている。
そういう意味では前述の不必要と書いた要素や、幼女の姿をしたエース航空魔導士というのも、若い人たちをそんな戦記物の魅力へと誘うにはもってこいということなのかもしれない。このあたり本作と同じようにWeb発だった『魔王勇者(まおゆう)』がJRPGならではのアイコンを借りて経済学や市場原理に関心をもたせる役割を果たしていたのと似ている。

軍記・戦記物というのは世に存在する組織のなかでもっとも「効率」や「結果」を具体的に求められる存在=軍隊、そのドキュメンタリー的な側面がある。なので組織やマネージメントに日々悩まされている方であればある程、良くできた戦記物は面白く感じるだろう。

そういう意味では本作はその入門編として、エンターテイメント性を失わず広く間口をとった良作だと思う。アニメ版ということもあってそのハードルはさらにいい意味で低いだろうし、個人的にもこの先が気になるのでぜひ続編には期待したいところ。


しかし・・・これKADOKAWAなのな。いや、KADOKAWAって「アニメは小説の販促」と超プラグマティックに割り切ってるらしいので、けっこう人気あっても作らない場合多いらしいンすよ、続編・・・(--;)




※ちなみに主人公のターニャちゃんの声優さん、まどかの人なのね。早稲田出のインテリということももちろんだが(でないとこの脚本の意図理解して演技するの難しいかと)、このキレっぷりは演技として見事でした!アイドルっぽい売り方されてはいるが実力派なんだな。


TVアニメ「 幼女戦記 」オープニングテーマ「 JINGO JUNGLE 」
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