澤野弘之氏の作品経由で知ったアーティストだが、この方はもっともっと世間に知られるべき一人だと常々思っていたので、こういうメジャー流通で容易に手にとれるパーッケージが出るのは大歓迎、というか遅すぎたといってもいい。
昨今の金に目がくらんでちゃらいアイドル文化に侵された音楽業界にあって、刀身の分厚い、抜き身の日本刀のような迫力のある声は、正直ほっとする・・・というか、これこそがまともな「歌手」だよな、と再認識させてくれる貴重な才能だと思う。

Mika(Type い)

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小林未郁
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この方は澤野作品におけるゲストボーカルの常連でもあるが、ご自身でもかなり強固な世界観を持ち、独自に世界各国を飛び回られているアーティストでもある。
そういったスタンスを反映してか本作はご自身の作品である「タマシイノハナシ」、澤野作品を中心とした「ウタウワタシ」の2枚のディスクから構成されている。

一枚目の「タマシイノハナシ」は最初のオルゴール？的な音を除いてはほぼアカペラのみの「ブランコ」という作品から始まるが、これは歌唱力に自信がないとできないよなあ、おもわずニヤッとせざるを得ない。
この一枚目のディスクは全体を通してこのアカペラで始まることからもわかるように、バックの楽器が必要最小限―ピアノの弾き語り的なスタイルがほとんど。そのぶんこの小林さんならではの声の美しさをとことん堪能できるようになっている。

以前にこの方の作品は『糸車』を購入したことがあったのだが、収録作品としてはそれ以降のものが中心。その時聴いた印象よりも、いい意味でよりキャッチーさがある、というか色彩が豊かになったような気がする。
どの曲も素晴らしかったんだが、とくに「カタマリ」「地図のない街」「女の幽霊」「せむし男の恋」「桜の園」あたりが強く印象に残った。「地図のない街」はどことなく萩尾望都の「ラーギニー」を思い出したな、ディティールは全く違うんだけれども。また「桜の園」は珍しくボーカルの比重が少ない作品なんだが、文字通り桜の花びらが轟々と舞い散る様を見事に表現していてほんとうに素晴らしい。ちなみに「せむし男の恋」はクラウドファンディングにてPVの作成が決定している模様（自分も投資してみたかったがもう終了してしまっているようだ）。

あと前々からすこし面白いな、と思ったのはけっこう和風テイスト・・・的なカラーを歌詞などからは感じる作品が多いのだが、歌として聴くとそれがほとんど見えてこないというのが不思議（笑）。
これは変にこぶしを回したりするような歌い方ではなく、非常に王道な正統派歌唱スタイルということもあるのだろうか。個人的にはこの方のシンガーとしての印象は（弾き語りスタイルが多いということ抜きにして）「グランドピアノ」的な印象。まっとうで正統でゴージャスというかな。（しかしそこに乗っかる作品世界がいい意味でひねくれていて（苦笑）そこも素晴らしい）

で、そういう「まっとうさ」という部分もあってか、澤野劇伴作品におけるボーカルパートの常連―というかこの方の声が入っていないと澤野作品は完結しないよなというぐらいの存在感なのだが―その部分をまとめたのが二枚目の「ウタウワタシ」。

こちらはほぼ説明は必要ないだろう。澤野作品からの楽曲をよりボーカルが前に出るスタイルのアレンジにしたものを中心に収録してある。ただこのアレンジは小林未郁というアーティストの作品としては非常に正解なのだが、澤野作品のアレンジを期待して購入された方にはちょっとストイックに聴こえるかもしれない。例えて言うなら甘みたっぷりのスイーツとオーガニックの甘さ控えめのスイーツの的な違いといえばよろしいか（笑）。ただ、澤野作品の昨今の怒涛のリリースから考えると、同じアレンジを収録されても、という層は少なくはなさそうなのでこれはこれで正解。しかし冒頭に書いたようにこの「小林未郁」というアーティストをコンパクトに知らない・未聴の人へ紹介するアイテムとしては、澤野作品はもとのきらびやかなアレンジのほうがベターではあったかもしれない。このあたり痛し痒しですな。

なにはともあれ、久々にボーカルだけ聴いていて恍惚となれるという稀有な作品である。
すくなくとも巷のいろいろなシンガーをして「歌がうまい」云々を語るなら、この作品をひとつの基準にはしていただきたいところ。

繰り返しになるが、こういう実力のある方はもっともっとその存在を世間に知られるべきかと思う。

未聴の方はこの機会に是非。

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