【レビュー】『閃光のハサウェイ(上中下)』富野由悠季

標準

bookwalkerのセールにて電書版を。
新幹線の中で読み始めてシリーズ三冊その日のうちに読了。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ〈上〉 (角川文庫―スニーカー文庫)』




小説版ガンダム作品の中ではいちばん「面白い」という評価のあった作品なので、前々から読んでは見たかった。

結果、評判を裏切らない内容だった。

ある種の青春小説で、ハサウェイ、ギギ、ケネスという不思議な三角関係が基本的にあり、ガンダム作品の通例にある、脇のキャラクターが出過ぎて人物関係がとっ散らかり、結果ストーリーも訳がわからなくなるということがなかった、というのが大きかったのかもしれない。

しかし、個人的に実はいちばん大きかったのは、ヒロイン・ギギの不思議な魅力の部分が大きかったのではないか、と思う。

なんというか、特に露骨な濡れ場があるわけでもなく、ハサウェイとの絡みもあるわけでもないんだが、凄くいい意味でエロい、というか女性性ならではの魅力を読んでいてすごく感じた。

富野作品には、昨今の陳腐な言い回しでない意味での小悪魔的なキャラクターは多々出てくるが、それに精神的な清純さというか誠実さを掛け合わせたキャラクターというか。
(監督の描写するヒロイン像は基本こういった傾向を全キャラクター備えてはいるとは思うが、それが一番良い形で結晶化されたような存在なのかもしれない、このギギは)

本作はけっこうラストがエゲツない内容にもかかわらず、不思議な清涼感を感じるのは、この彼女の持つ誠実さ故ではないだろうか。

ある意味、ラストシーンの部分がなければ、ある種のジュブナイル小説といってもいいとすら感じる。

しかし、この空気感があるからこそ、銃殺という悲惨なシーンが、残酷でありながらも独特の甘い切なさを保っていたようにみえる。

このストーリーの内容では難しいだろうとは思うが、ぜひUCのような安定した作画で映像化されるのを見てみたいとは思うが、難しいだろうなあ。

あ、ただその際には、モビルスーツ類のデザインは全没でw
あれはいくらなんでも酷すぎる。
(ペーネロペーなんておまるか白鳥の浮輪つけてんのかよ!?と突っ込みたくなる)

本作はUC以降F91の間ということらしいが、そういう波風の少ない時代の、オセアニア辺りだけを舞台に、上述のように、不思議な3人の友情と愛情の三角関係という、絞りに絞ったシチュエーションが作品にとって良かったのかもしれない。

間違いなく、ある種の青春小説として読みごたえのあるシリーズだった。



『機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ (全3巻)』




※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

【レビュー】『閃光のハサウェイ(上中下)』富野由悠季」への1件のフィードバック

  1. 飲マスク

    UCの記事で書かれていた「ガンダムは女性向けでない」ということですが、富野監督は意外とそっち系の作品を作れる素養があると思います。
    一番メジャーな初代~逆シャアのラインは男性中心ではありますが、そこ以外に目を向ければイデオン・Vガンダム、そしてこの記事でも紹介されている閃光のハサウェイなど、女の業を中心に生き生きとして描かれた女性キャラは、他の男性作家の方々(場合によっては女性も)には中々描けないんじゃないかと思います。
    また、未視聴の作品についてで恐縮ですが、∀ガンダムでは「女の怖さ」ではなく、少女的あるいはメルヘンチックとさえ言える「女の可愛らしさ」が描かれてました。
    富野アニメはいわゆる腐向け作品に比べ女性人気は低いのですが(シャア萌えの腐女子が再放送のキッカケになったのは遠い昔)、以上のような作風から女性にも割りと反感なく見れると思います。ただ、やはり「富野作品はは男の物」というレッテルを剥がすのは難しいか…

    話は変わりますが、富野とかガンダム抜きに、ロボットアニメであらゆる層が抵抗なく見られると思うのは、90年代前半に放映された「エルドランシリーズ」と呼ばれる作品群です。
    その理由は、なんとこのシリーズ、ロボットアニメのくせしてキャラデザがサザエさんのようなファミリー向けチックで、男女ともに不細工がイケメン・美少女と同等に活躍するため。これはロボットアニメに限らず、ある程度以上大衆向けのエンタメではとても珍しい作風だと思います。
    あ、富野作品もその傾向はあるかもですね。ハルルなんてあれだけ「ゴッツイ」顔なのに女らしさがグイグイ押し出されてましたから。

    ただこういう作品が実在してても、やっぱり「ロボットアニメは(エバンゲリオンなど例外を除いて)男のオタク向け」という第一印象を拭うのは不可能に思えます・・・
    それこそエヴァは非常にマーケティングが上手いけど、他ロボアニメはオタ向け以外にはマーケティングというものをそもそもやってるようには思えませんしね・・・

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