【レビュー】ガンダムUC・外伝コミック3作品

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原作の福井氏のインタビューをちょっと読んでみたくてガンダムA(雑誌)の増刊号的なUCAのバックナンバーを買ってみたのだが、以前からぼちぼち評判のいい外伝マンガも一部載っていたので成り行き上読んでみた。

するとけっこうおもしろかったので、bookwalkerのポイントがぼちぼちたまってたこともあってこの機会にまとめて読んでみた。

『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』



『機動戦士ガンダムUC 星月の欠片』



『機動戦士ガンダムUC MSV 楔』



主に敵方となるジオン残党「袖付き」、そのMS各機の「整備責任者=機付長」からの視点でUC本編を補完するような形の「~機付長は詩詠う」、かたやそれと対をなすように連邦寄りの視点から展開される「星月の欠片」、そしてハードな劇画調でミリタリーテイストあふれる「MSV楔」。特徴として同一誌掲載という事もあってか、作家は違うものの作中世界の横の整合性をきちっと取ってあり、かつ本編とも著しくかけ離れた描写もなく各エピソードのエンディングの先に本編が想像できるような構成になっている作品がけっこうみられる。またこういう企画系の作品群としては比較的「読める」作品が多い印象。


実はこの手のガンダム作品の外伝というのはハズレが多い地雷ジャンル。
理由の一つは、ガンダムという作品周辺のクリエイティビティというのがどうしてもその作品の特色の一つであるモビルスーツ=ロボの部分に比重を置くことが多いせいで、肝心の人間ドラマやキャラクター描写が薄っぺらいことが多いからだろう。

これは特にキャラクターデザインの部分で顕著に表れていることが多くて、ファンサービスという名の顧客を舐めた態度なのか、創作側がほんとうにそういう低いレベルの想像しかできないオタク作家なのか、シリーズ世界観からかけ離れた、まったくリアリティのないかわいこちゃんキャラが出てたりする作品は相当気をつけたほうが良い、というのが正直な感想。どう考えてもコクピットに座る人間がツインテールのフリフリキャラってあり得ないだろうw

実はそういう事もあって、UCも派生作品が読みたいなと思いつつもこれまでまったく手を出していなかったわけで。ただ「機付長」に関しては所々で目にするレビューで気にはなっていた。

で前述のようにこれらの掲載誌という事を意識せず、原作・福井氏のインタビューを読んでみたくて購入したユニコーンエースにこれらの作品がとびとびで載っていて、目を通した感じ「あ、これはいけるかも」ということで購入決定、読んでみた。

基本、ぼちぼち読みごたえのある作品が多かった、といってよいだろう。

まず全作基本的にオムニバスだが「機付長」は”袖付き”側、「星月」は連邦側でそれぞれちゃんと本編の補完をするような時系列でのエピソードとなり、これらを読んでから本編をみると、撃墜されたりしているモブにもちゃんとドラマがあったんだな、ということが感じられ、本編をより引き立てる形になっている非常によい外伝だと思う。

ユニコーンのマグナムの流れ弾に当たって大破したセルジュ少尉、パラオでドライセンで迎撃に出たパイロット、EP4で大暴れのバイアランのパイロット、ドナ・スター、EP7で観客の目を奪ったシュツルムガルスのパイロットなど、それぞれにドラマがあり、本編の表舞台に顔こそ出なかったが彼らは彼らなりの生活があり、隣人がおり、それぞれの人生があったというのが感じ取れて良い。

ただこの両作品は若干それぞれのカラーがあり、「機付長」のほうはドラマや描写も含めて優しく柔らかい感じ、「星月」のほうはその堅い描線からもやや男くさい感じと言えばよいか。バナージとミネバのイチャコラ的なところがきらいでない方は「機付長」のほうがお勧め、ややメカニックや軍を背景としたドラマを読みたい場合は「星月」のほうが良いかと思う。

特に「星月」のほうはプロジェクトX的なテレビ番組のナビゲータという役割で、前述の地雷臭がややにおう女性キャラクターが出てくるが、本編に深くかかわらないおかげでなんとかクリア。その部分でちょっと人を選ぶとは思うが、ドラマの「深さ」の部分では本作のほうににやや軍配が上がる。特にEP6で「袖付き」とガン飛ばしあってたメカニックの兄ちゃんの文通エピソードは良かった。相手の女性がパイロットでありつつもその理由にちゃんと戦禍で我が子を失ったという説得力のある描写があるところは、本編に輪を掛けて絵空事になりがちな外伝作品としては良く頑張っていると思う。そういう意味では「機付長」のほうも第1話が例のセルジュ少尉の話なので、彼が「還ってこなかった」ということを話の軸にちゃんと据えている。

また例のバイアラン無双で活躍したティターンズあがりのドナ・スター(本編ではあくまでもこの名前は出ていない)のエピソードも、組織の中で失脚した男の挫折と再生を描いているというドラマが確固としてある。

もちろん、これまでの外伝作品と同じように―というか場合によってはそれ以上にしっかりと―ガンダムシリーズの特色であるモビルスーツ=ロボ的な部分も取り上げられているのだが、どの作品もそれが作中での描写に必然性があり、話の中で浮いてないのだ。これが一つは「あ、これなら読める」と判断した理由の一つかもしれない。

で最後のもう一つの作品「楔」。

これは残念ながら1冊だけなのだが、実は「これはもうちょっと読んでみたい」と思わせる作品だった。
戦記モノというか、よく模型誌などでみられる小林源文氏等の作品を連想しそうな作風だが、これもちゃんと本編を補完するようなドラマがあり、なによりもキャラクター造形がありがちな「アニメキャラ」的なデザインでなくアダルトな感じが非常によい。3機のリゼル隊のメガネ巨乳おねーさんとか、実はこういうハードな描線でこそカッコ良さが光る―これをアニメアニメしたキャラデザインでやったらただのぺらいエロキャラになってただけだろう。このあたりは画の力だと思う。

本作はどちらかというと上記2作品よりよりモビルスーツ寄りの描写となっているが、最終エピソードのシナンジュスタインのエピソードなど、軍記ものというか一種の政治劇的な雰囲気も感じ取れてすごく良かった。

で、総じてこれらの作品を続けざまに読んで「んー、なんかこんな感じのジャンルあったよな~」と考えてたら、分かりました!

これ、かの大漫画家である大松本零士大先生(笑)の『ザ・コクピット』シリーズとちょっと似てるんだわ。
『ザ・コクピット』も戦闘機や戦車という”テーマ”はあっても、そこで描かれているのはあくまでもその兵器たちとともにあった人間たちの”ドラマ”である。

そう、ちゃんと”ドラマ”が描けてないと、それはとても読める作品とはなりえない。

そういう意味ではこのUC外伝群の場合、本編の描写からもそうなんだが、ちゃんと「ドラマ」を忘れていない―そういった本体作品の持つ”空気”が、これら外伝作品にもいい影響を与えていたのかもしれないな。

ということでもし次の機会UC本編を見返すことがあったなら、あのシーンやあのシーンの裏にはこういう人たちが居て、こういうドラマがあった―そういうドラマのふくらみをもたせてくれるいい外伝群だったかと思う。

興味がわいた方で、ご予算のゆるすのであればいってみてもよいかと思う。



『機動戦士ガンダムUC 『袖付き』の機付長は詩詠う』



『機動戦士ガンダムUC 星月の欠片』



『機動戦士ガンダムUC MSV 楔』




※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正
※同・追記:文中でツインテールのフリフリキャラについて批判したが、この点、作品の真っ向からのトータルクオリティの高さで返り討ちにされた。謹んで自分の不明を詫びるのみである。

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