【レビュー】『逆襲のギガンティス―機動戦士vs伝説巨神 』長谷川 裕一

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ここ数年ガンダム関連のコンテンツが活発化していたせいか、ネットでもいろいろと周辺情報・関連の話題が取り上げられることが多かった。
その中で折に触れてときどきぽこっと言及されることがある作品で、内容的にちょっと気になるので手に入れてみた。

『逆襲のギガンティス―機動戦士vs伝説巨神 (ノーラコミックス・デラックス)』



1992年発表の作品。名義は後にクロスボーンガンダムのコミカライズを担当する長谷川裕一作品。舞台は逆襲のシャアの手前、宇宙世紀0090年―”逆襲”前のアムロ・レイ、シャア・アズナブルの消息が公にされていないところをうまく使い、その時期に木星圏で働いていたジュドーを主人公とした”if”のスピンアウト。この空白の期間二人はある”物体”を追い、ともに木星圏へと赴いていた―それは全長100mを越えるであろう伝説の”巨神”だった・・・。


作者の長谷川氏のガンダムものは実は劇場版Zの時に出た『Zガンダムエース』に掲載の『1/2ゼータ』とかいう作品で見たのが最初だった。
当初良くも悪くもこの時代の描線とは思えない線のマンガを前に、斜め読みしていたんだがいつしかしっかりと話に引き込まれている自分がいた。

ガンダム作品は上記媒体のような形で散々数多の作者によって後日譚だとかスピンアウトがコミカライズされているが、正直まともに読める作品はほとんどないのは断言してもいいと思う。これはなぜかというと簡単な話で、そういった”ロボットもの”としてのガンダムのスピンアウトのそれは、そういうロボ描写ばかりに力がかかり、人間ドラマや、キャラクター造形が貧相な作品がほとんどだからだろう。

あまり目を通していない癖に偉そうなことを言うなとおしかりを受けるかもしれないが、ベルチルのコミカライズが読みたくて半年ほどガンダムエースを読んでみた印象としてはそれ以外のいいようがない。

で、長谷川裕一氏の作品である。
上述のように、とても現代のマンガとは思えない感じのやわらかい、古き良き感じの描線。なんと肝心のMSでさえメカメカしくなく丸っこいのだ(笑)。
それでも読んでるうちに作品に引き込まれ、物語を堪能しているのは、やはりそこに描かれているものがきれいなメカ描写なんかよりもはるかな大切なもの―人間ドラマがちゃんと描かれていたからだろう。

本作は’92年発表とあるように、かなり古い作品である。そのために最近の作品より洗練されていない部分もあると思うが、やはりちゃんと物語として読ませる。
そしてその作風はこの当時からその描線のように柔らかく温かい。

そういう作風の主人公に、ZZの主人公であったジュドーが選ばれたのはある種当然だろう。

そして新旧の主人公の邂逅―アムロとの共闘、引いては姿を隠していた赤い彗星すらも木星圏へ出向き、彼らはある”もの”と戦う事になる。

このあたりは絶対にアニメーションでは描くことの出来ない”if”のスピンアウトで、上述のような長谷川氏の”柔らかさ”がいろんな意味であったからこそなし得た作品化かと思う。

さらにいまとなってはより一層その”if”度を高めているのが、本作のヒロインとして登場するミネバの存在。
ユニコーンであれだけの存在感を作ってしまった以上、この作品はどう考えても映像化はできないだろうなあ(笑)。
(もしあるとすれば、替え玉説があったので替え玉だったミネバ様を使うとかぐらいか)

で、その木星圏に転がってた”アレ”ですが(笑)、話のもって行き方がうまいというか、宇宙から流れてきたヤバいもの的な感じに本来の物語のほうの設定が良く活きていてすごくいい感じ。
まさに一昔前の少年マンガ的なわくわく感だなあ。

結果的に物語はこの一冊で終わっているところからもわかるように、大風呂敷を広げるでもなく、逆にスピンアウトらしい潔さでスパッと終わっている。
ノリとしては主人公の共闘やライバルキャラも登場するお祭り的作品―そう、東映マンガ祭りとかマジンガーZ対暗黒代将軍みたいなあのノリだw

なので読んでみて時々話題に上るというのがすごく納得がいった―ある意味一昔前で言う”ロボットマンガ”的な存在としてのガンダムの系譜の1作品といえるだろう。

後の富野監督が長谷川氏を選んでクロスボーンを描いたらしいというのは、これも読んでみて良くわかった。
いわばこういう明るく正統派な少年マンガ的な長谷川氏の持ち味が、当時はまだ表面化してはいなかった、後の”白富野”的な部分の潜在意識にすごく合ったんだろう。

クロスボーンの詳細は知らないし、ぽろぽろ目にするところでは長谷川氏独自路線的なところもあるみたいな話を聞くので上記がどこまで正確かは自分にはわからないが、さもありなんというのは容易に想像できた。
富野監督は最新作のGレコでもまたやらかしてしまったようだが(笑)、案外こういうテイストのところへ本来は落とし込みたかったんじゃないかな、物語のディティール的なところは別としても。

そういう意味では案外長谷川氏的な”ガンダム”というのは、これはこれでひとつの太い系譜として、今後意外な形で存在感を残していくのかもしれない。

メカしか見てないオタクやエキセントリックな富野節を要求する偏向したファン層はともかく、こういった作品の雰囲気というのは濃くない一般のお客さんにとっていちばんなじみやすいものではなかろうか。

そういう意味でも一読の甲斐あった一冊だった。



『逆襲のギガンティス―機動戦士vs伝説巨神 (ノーラコミックス・デラックス)』




※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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