藁の盾

標準

試写会に当たったので観てきた@有楽町よみうりホール。(4/12金曜日)

資産家・蜷川の7歳の孫娘が暴行され殺された。犯人は同様の前科をもつ清丸国英。憤怒に駆られた蜷川は「清丸を殺したものには10億円、未遂でも報酬を約束する」と全国紙に広告を出し、殺害を促すホームページを立ち上げる。逃亡・潜伏していた清丸は、かくまわれていた仲間に襲い掛かられ、自主的に出頭、逃亡先として警察を選んだ。その清丸を警視庁本庁まで護送するのに5人の刑事・SPが選ばれた。護送前にも関わらず、警察内部からも殺害を意図する連中が出る中、群がる一般人のハイエナたちを巻き込み、もっとも困難な護作戦が始まった・・・。

主演・大沢たかお。犯人を藤原竜也、脇を伊武雅刀、山崎努、岸谷五朗、本田博太郎などの実力派が固め、松嶋菜々子が新境地ともいえる女性SP役に。監督・三池崇史。


まず大沢たかお主演というところで、それなりに見ごたえはあるだろうと思っていたが、大正解。

本作は前述したようなストーリーで、状況設定としてはつかみは抜群―なのだが、犯人殺害の報酬「10億円」がそれほど人を動かすのか?という部分が残念ながら若干シナリオ的には弱かった。

しかしその部分を覆すように、俳優陣の演技がすごい、すごい。

主演の大沢たかおはじめ、クセのある脇役たちが全員熱演で、松嶋奈々子もこういった役は珍しいのに加えて(失礼を承知であえて書くが)いい意味での老け具合があって、女手一つで子供を育てるシングルマザー、それもバリキャリというのに凄くはまっていた。

この俳優陣の演技だけでも観た価値は合った―というか、いつのまにか邦画にもいい意味でこういう演技力の層の厚さが出来てきているんだなあと感心した。

しかし、それだけに前述のシナリオの詰めの甘さ―その「10億」という単純さだけがどうしても前に目立ち、それぞれ護送チームに襲い掛かる人間たちのモチベーションがあまり伝わってこない、といわざるを得ないのが返す返すも残念・・・というか正直もったいなかった。

これは一つは三池監督がそういった部分よりも、映画としてのスピード感のようなものにこだわったからかも知れない、要は全体としてのバランスというか。

こちらがもう少し描写が欲しかったと思った人間の業のような部分の描写に関しては、後半の清丸の被害者の父や、清丸自身の描写で掘り下げ、前半はあえて導入部としてのスピードを取ったということかもしれない。

ラストの蜷川(山崎努)と主人公・銘苅(大沢)との対決シーンも、両者熱演ではあるんだが、若干蜷川の感情表現が抑え気味だったのも、個人的にはややカタルシスにかけるきらいもあるんだが、設定上の蜷川の年齢その他を考えると、精根尽き果ててあの描写、とはいえるかもしれない。

しかしさすがもっとも多忙な監督といわれる三池監督だけあって、なんというかすごく洗練された作品も撮られるようになられたんだなあ。

DOAの頃の暴走ぶりからは想像もつかないよ、いい意味で(笑)。

ということで、観る機会があれば、観て損のない一本だと思う。正直2時間5分の尺は全く気にならないというのは凄い。
ただ、設定、俳優の熱演、それを考えるとシナリオがもう少し詰められていたのなら、デビット・フィンチャーの『セブン』とまではいかずとも、それに近い傑作になっていた可能性はあった一本だと思う。

そういう隔靴掻痒感のある一本であった、というのはお断りしておく(苦笑)。

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