隣町の古本屋で、上下巻の小学館文庫版を。二冊併せて400円ほど。
野村萬斎主演で昨年映画化の作品かと思うが、映画は未見。内容的には秀吉の小田原攻めの際の別戦線―北条方である成田氏の居城・忍城の攻防戦を描いた一作。
城主・成田氏長が北条方を見限りつつも、盟約上、小田原へ出兵せざるを得ず、その間の留守の城代となった”のぼう様”こと成田長親を中心とした城方と、秀吉に私淑し人一倍自負心があるにも関わらず、いまだ武功らしい武功をあげていない石田三成、その両者の対決を軸に、後に”石田堤”の逸話を残した、忍城の水攻めを描いている。
ひとことでいうと、非常にエンターテイメント小説として面白かった。
もちろん、歴史小説として読むなら、もう少し”重み”のようなものも欲しくはあるのだけれど、城方のそれぞれの守将たちのバラエティ豊かなキャラクター性と、コンプレックス丸出しの石田三成など、非常に”画的(えてき)”に映える作品となっている。
加えて、ある種歴史小説の代名詞といってもいい、司馬遼太郎作品などと比べると、登場する両陣営の主要人物の数を片手ほどに絞っていることも功を奏しているのだろう。
(それぞれの陣営で3~4名ほどに主要人物を絞っている)
なので、歴史小説として読まず、普通にエンターテイメント小説として読むと、非常にいい意味でいま風の、よく出来た一作だといえる。
作中で専門用語を比較的丁寧につど説明しているのも、時代小説というより普通の小説的に読める理由の一つでもある。
わかりやすく、ある種の重みにはかけるが―しかしすこぶる面白い。
かといって、歴史考証的なものがおざなりにされているかというとそうではなく、おそらくこの作者の方は、かなりこの忍城攻防戦について調べられている―というか思い入れがありそうなのは、元々がこの忍城の一戦をシナリオとして書いた作品が、この方の世に出るきっかけだったらしいことからもわかる。(同シナリオで城戸賞を受賞と著者略歴にある)
戦術的な面も、城の各門の守将ごとのそれぞれ異なった戦術を、うまく書いており、このあたりはきっちりと調べていないと書けないと思う。
人物描写としては、わかりやすい分、深みにかけるきらいがあるが、中心人物たる長親のキャラクター性などはさすがで、なかなか描くのはむづかしいキャラクターを上手く創造している。
こりゃ、確かにありとあらゆる面で映画向きといえるわな。
ただ、個人的には、甲斐姫がせっかくいいキャラクターをしているのに、主人公に対するヒロインとして、十分に機能しきっていない部分は、若干隔靴掻痒の感はあり(笑)。
ここはベタでもよかったんじゃないかな。
映画版の主演・野村萬斎は作中の長親の描写にある”大男”というイメージはないが、ある意味本作のいちばん山場である、湖上の田楽のシーンのために起用された、ということだろう。
その点だけは確かに気になるので、この一点見る意味だけでも映画版は食指が動かないでもない。
悩ましいところではある(苦笑)。