すごくためになる―というか単純にすごく面白かった一冊。
江戸、という別の国へのガイド本的、というか。
江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし (光文社新書) [新書]
丸田勲 (著)
多くの時代劇や時代小説の舞台となり、また近現代以前でいちばん近い時代である江戸時代。
その中でも、町人文化が活発であった、文化文政期を中心に、江戸の諸色(物価)を、その生活文化とともに紹介した一冊。
最近、いまの社会問題を考えるときに、江戸時代のそれと比較する大切さ―というか「なんだ、アレもコレもすでに日本は経験済みなわけじゃん!?」という発見ができる時代としての、江戸期の社会の重要性に気付きまして。
こういった視点を持っていない人にはわからないかもしれないけれども、実は江戸期を知れば知るほど、「なーんだ、人間てじつは考えてるほど頭がよくなったわけでも、進化したわけでもないのね」という、いい意味でのバランス感覚が出来てくる。
そういう感覚を持っていると、この移り変わりの激しいいまの時代においても、あまりあわてなくてもすむ、というか、一見新規なことに見えてもじつは昔既に在って、それに当てはまることの多さに、人というものの変わらない部分を、実感として感じることが出来る。
さらにその上に本書は、”モノの値段”という、ある意味いちばんその”変わらない部分”を実感できる、比較に有用なモノサシを提供してくれる一冊なワケで。
もちろん、表題の卵の値段のように、その差異を感じるものも多々あるんだが、意外と落ち着くものは似たようなところへ落ち着くんだな、というか。
そういう意味では、細かく見ると便利さや楽さ加減、という意味では大きな差があるのかもしれないが、人としての生活―特にその気楽さにおいては、下手すると、江戸期のそれのほうがよほど健康的ではなかったのかなあ、とすら感じる。
人は物理的には豊かになり、便利さが世の中のありとあらゆる場所を埋め尽くしているように見えるが、それでも自ら死を選ぶ人が毎年3万人もいるいまの世の中。
それはほんとうに”豊かな”社会なんだろうかねえ?
もちろんかといって、江戸期のそれが天国のような幸せだった、なんていうつもりはない。
自然の厳しさや、医療の未発達など、いまの時代なら避けられるであろうことで、命を落とす人がたくさんいる時代だ。
けど、なんと言うかな、それでも”人として”まっとうな生き方というものがあるのなら、江戸期のそれのほうが、はるかにまともだったんじゃない?
と、まあ、「経済」の二文字を金科玉条に、それが倫理感や道徳すらも凌駕する価値観であるかのように振る舞い、疑問を持たない人たちが、いけしゃあしゃあと日の当たる場所を跳梁跋扈するのをみると、そう思わざるを得んわけですよ。
もちろん、そういったことの恩恵をうけていまの社会―ひいてはいまの自分の生活があるわけです。
「金がないのは首がないのと一緒や!」(by西原りえぞお先生)
その通りである。
ただ、本書を読んでると、すごく楽しかったのね。
ここに書かれてある生活の、その地に足のつきっぷりが。
けどこれって、そう遠くない昔―まだ自分が小さな子供の頃には、まだ少しはその名残が残っていたかのように思うんだけれど。
とまあ、こんなシリアスごっこな気分に浸らなくても、本書はいろんな意味で手元に持ってると面白い一冊だと思う。
この感覚のギャップ、そして実はあまり変わっていない部分―そこを意識することで、少なくとも、いまこの2010年代初頭を生きていくのに、ためになる(空想や手遊びにではない)現実的な視点を、得られる人は得られるだろうと思う。
要は、想像力―よね?
そのための土台をくれる、そういう一冊。オススメです。