先日発売だった模様。
『シドニアの騎士(9) (アフタヌーンKC)』
ガウナとの不意の遭遇戦で、惑星ナインの大気圏下に逃げ込んだイザナ機。救出に向かう谷風とつぐみ。しかしナインにはガウナ側の待ち伏せ―それも最悪の敵・紅天蛾(ベニスズメ)が星白に姿を大きく似せ待ち受けていた。結果的に紅天蛾との戦いは一旦の結末を見るが、今度は大シュガフ船より、再び大質量を持ち、衛人では破壊できない規模の単体ガウナが射出される。出来る手を打ちつくし、最後の手段として大重質量砲を発射するシドニア。しかしその反動は居住区にも甚大な影響をあたえ、船体は惑星ナインの重力に引かれ始めた・・・・・。
最近の巻になって、戦闘の劣勢が挽回されてくるにつれ、逆になんかメンタル面でつらい感じのシーン多くなってきた。
逆に言うと、それだけ読者側にキャラクターへの愛着が積み重なってきているということでもあると思うが、登場人物がみんなけなげで、いい子ばっかりなのでつらいねえ(泣)。
加えて、本巻でようやくなんとなく「あ、こういうところへ落とし込んでいくのかな」という作品の方向性のようなものが、個人的には見えたような気がする。
どういうことかというと、本作は、この悲惨な戦闘状況ということを抜きにすれば、星白、イザナ、つむぎ、纈、仄姉妹等々―主人公の谷風君まわりはある種のハーレム状態なワケで(苦笑)。
特に本巻で、星白を真似た紅天蛾の固体が捕獲された+イザナ君の女体化が進んだことで、星白、イザナ、つむぎちゃんあたりの誰が、最終的に谷風とくっつくのか?的な線が浮き上がってきたように見える。
そう、そして物語の世界観を決定している巨大宇宙船であるシドニアの目的って―播種船なのよね。
要は、世界を「もう一度やり直す」方舟だ。
その新たに創りなおす世界を、どう描きなおすのか―いわばそれが主人公・谷風に委ねられている、ということなんだろう。
面白いのは、上にあげた候補となるであろう、谷風との心理的距離の近い女性的キャラクターたちが、全員フリークスである、ということ。
(星白⇒ガウナ、イザナ⇒義体+中性、つむぎ⇒融合固体)
加えて、谷風自身も、遺伝子操作されている”不死者”である。
だから多分この話は、もういちど世界を産みなおす―そしてそのときにどういう選択をするのか?
その作者の感性を、主人公谷風を通じて読者が共通体験する、そういう物語なのではないか。
ここまでの艦上層部の不穏な動きも、彼らが最終的に世界が新生する際に置き捨てられてゆく古き世の残滓であるのなら、納得もいく話。
もしこの読みが正しいのなら、本書はSFに姿を借りた、ある種の”創世神話”の作品なのかもしれない。
そうなると、ちょっとこの先が、また別の意味で楽しみになってきたな。