「復興増税」亡国論/田中秀臣 上念司

標準

ほぼ一年ほど前の本らしいが、こんな恐ろしい本出てたとは。

「復興増税」亡国論 (宝島社新書) [新書]
田中秀臣, 上念司(著)



著者のご両人はいわゆるリフレ派の代表的論客の模様。

※個人的には非常にまっとうな内容が書かれていると思うが、リフレ派に対しては、各所から異議も出ているらしいことは、最初にお断りしておく。

本書は、そういう立場からの震災前後の日本の経済政策を考える対談ベースと思われる一冊で、元は2011年6月ごろに行われたものを、再編集して新書形式にしたものとのこと。

過去―戦前の関東大震災、直近の阪神大震災、そして今回の東日本大震災前後の政府の金融政策のミスと、そのそれぞれにおいて申し訳程度の対応しかしてこなかった日銀の挙動に対する痛烈な批判が行われている。


amazonの書評などを見ると、戦前の金融政策の失敗に関しては「説明が乱暴すぎる」という批判もあるようだが、少なくとも直近の阪神大震災前後や、なぜデフレが悪なのか、という点に関しての論旨はしっかりしていると思う。

なによりなぜデフレが悪か、その説明が非常にわかりやすかった。

そしてその説明を是とすると、こと日銀の怠慢ぶりは言語道断・・・。
クルーグマン先生が銃殺にしろ!とのたまうのもわからなくもない。

サブプライム問題に端を発する経済危機で、主要各国は大量の資金供給を行って、バランスシートを2~3倍に拡大させて、ダメージを軽減させたのに対し、方や日銀は知らぬ存ぜぬ。

結果、拡大した各国の主要通貨との相対的なバランスが変化した結果(円の流通量が少なくなる―相対的に他の貨幣に対しての円の価値が上がる)、ここまでの強烈な円高。

貨幣の価値が上がる=物の価値が相対的に下がる―乱暴に言うと、これまで100円で1個買えたものが2個買えるような感じ=物価下落―デフレがおきている。

結果、日本の企業は「外」は円高に苦しめられ(物が売れない)、「内」は値下げ競争のチキンレースで利益が激減。

とうぜん企業の利益は増えない=労働者の給料も増えない。

給料が増えないので、モノが買えない=モノが売れないので値下げ競争。

値下げ競争なので、企業は利益が上がらない
(利益が上がらないので給料が・・・以降繰り返し)

まさに「デフレスパイラル」ですな。
そしてこれは、日本全体の経済が「縮む」ことを意味している。

そんな状態の中で東日本大震災が起きた。

政府は、先ごろ震災を理由に増税を決めたわけだが、本書の指摘する、関東大震災、阪神大震災において

「震災のあと十分な経済の回復も待たずに増税(消費税増税)」
 ↓
「増税―資金の引き上げ=経済の萎縮」
(零細企業がバタバタと倒産する)
 ↓
「長期不況」
 ↓
「低所得層の経済的困窮の増大」
 ↓
(その不満が選挙などに向かわず)
 ↓
「自殺者の万単位での増加(+そのまま高止まり)」
(戦前ではテロやクーデターの発生を経て戦争への突入・・・・・)

という流れは、正直ぞっとする。

日本の自殺者の「3万人/年」というのは1998年の消費税増税のとき、それまでの2万人から一気に1万人増え、そのまま定着してしまっている、というのは不覚にも本書ではじめて知った。

また、戦前のくだりに関しては、先日の選挙では「改憲」「自衛隊の国軍化」などを積極的に推進しようとする党首の政党がぶっちぎりで議席数を得ているわけで、状況としてこれほど最悪なケースもないだろう。
(政権が自民党に渡ること自体に文句はないが、これだけの議席数を得ているのは正直不安)

本書を読むと、日本にとって「地震」=それも震災級のものが、結果的に社会や経済にとってどれほど大きく影響を与え、社会の方向性を変えてしまうのか、ということが、歴史的なスパンで非常に良くわかる。

それなのに―暗澹とする話だが―ここの舵取りを、日本は毎回毎回間違えているのだ。

ほんと同じ間違いを性懲りもなく、何回も何回も繰り返しているのが、本書を読むと良くわかる。

この点、増税に関していうなら、以下のように人体に例えることが出来るかもしれない。




要は、震災という、腕一本切り取られるような事故にあって

・「失血」(震災による人的・物的資産の消失―20兆円相当)したにも関わらず


・「外部からの輸血」(追加的財政支出―通常予算外の資金の捻出)もせずに


・「腕切れたんで輸血するので採血しますねー」と自分自身から採血(!)し
(復興増税25年間2%増、来月からだよ、おい!?)


さらに


・「肥満」(国の高い債務残高)ということを理由に


・「普段どおりの食事だけで回復」(既存の予算の組み換えだけで対応)しましょう


けど太りすぎなので
・「低カロリーの食事」(消費税増税)にしますね~(^^)


、といってるようなもんだな・・・・・と。




―なに、この無理ゲー?(冷汗)


この医者(政府・財務省)と看護士(日銀)は、事故(震災)にあったこと自体を全く軽く見ていて、生活習慣病(国の借金)の改善のことばかり指導している―そんな感じか。

加えて、もともと前の事故(阪神大震災)のあとのまずい治療法(景気回復も見えないままの消費税増税3%⇒5%:1998年)で、基礎体力(景気)が落ちていたのが、ようやく戻りかけたところに、近所の自動車事故(サブプライム問題)に巻き込まれ、これまた 一番軽症だったはずなのが、上記のように栄養を取らせてもらえず、いつの間にか一番長く入院(長期不況)しているという話。

選挙を終えて野田総理を「意外とまともな政治家」と評する向きもあるかもしれないが、財務省の言いなりになって消費税増税案を通してしまったことだけでも、本書を読んだあとでは万死に値するとすら思う。

※実はこの点、震災対策のための特例公債の起債の可否を政争の道具にした安倍自民党も、実は同じぐらい悪質だ。

日本人というのは基本的にまじめなので

「東北の人たちが苦しんでるなら、増税でも、少しづつみんなで我慢しよう」

と考える人も多いと思うが、はっきりいうと例外的にゴソっと失われたものを、例外的な処置でなく、常日頃の対応をやりくりしてなんとか廻そうとしているわけで、こんなモン間に合うわけがない。

ここでいう「常日頃の対応のやりくり」が、本書でいうところの「予算の組み替え」で、これはいわゆる「事業仕分け」の流れがあったので、それがさらに後押しすることになってしまったのかもしれない。

特に本書でも指摘されているように、こういった大災害の際の対応はなるべく早い段階で大規模な経済出動があるかないかで、その後の回復度合いが全く違う、という点は、素人でも想像のつく話だが、その手段としての増税なんぞ―反映にどれだけ時間がかかる話よ?―とにかく速さと規模が全然足りていない。

ということは、実はこれは被害をこうむった東北の人たちのためのものでもなんでもなくて、先に書いたように、財務省や日銀にとっては「平時の経済」―というより「自分たちの業務に落ち度が出ないようにする」、そのほうが大事だということだろう。

はっきり言って、被災者は完全に切り捨てられている。

そして実はそれだけに収まらず、こういった彼らのスタンスは、前述のように日本の経済自体をさらに冷え込み、萎縮させてしまう。
(復興増税2%+3~5%消費税増税よ?冷え込まんほうがおかしいわ)


そうなるとどうなるか―そら、追い詰められた層が、テロやクーデターの火種になりかねんわな。
(そしてそういったことのあとに戦前は戦争へ突入して行っている―それも中国大陸へだ)


ここ数年、一見全く関係のない、社会や経済の勉強をすると、本当に「歴史感覚」の有無の重要さが痛感させられる。

本書はいま現実に進行中である、震災と不景気という、現実に直面している問題を語りつつ、そういった歴史的な視点も提供してくれている、という点で非常に良い一冊だと思う。

いろいろぐだぐだと書いているが、出来ればこの駄文でなく、実際に手にとって読んでみて欲しい。

幸か不幸か(?)出版されてから少し時間が経っているので、amazonなどでは安くで手に入れやすいはずだ。

そして、是非ここから先の政府や日銀の動向には注目しておいて欲しい。
自民党の大躍進となった選挙だが、一縷の希望は金融緩和と消費税増税凍結の可能性はまだ残っていること。

ただ、このあたりの舵取りを間違えると、冗談抜きに日本はまた何十年かを失い、最悪の場合は、テロや暴動、或いは尖閣あたりを火種として、戦争への道を歩むことになりかねない。

そういう意味では、本当に今回の選挙というのは大きな意味を持っていたんだが―。

返す返すも低い投票率が残念だ。



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(余談)
twitterで先の選挙に関して、自分がフォローしているあるアマチュアミュージシャンの方のツイートが非常に残念な感じだった。

その方は、こちらは友人の友人という感じで存じ上げているが、おそらく先方さんは自分のことを知らないと思う。
(相互フォローでもないし)

その方は
「俺はこれまで選挙に行ったことはない、正直そんなことを考えてる暇も余裕もない」

とツイートされてた。

おそらくそれなりの信念をもってそういう風に考えていて、都度まわりの「選挙行かないとだめだよ」の声にイラついてそういうツイートされてたようだ。

しかし、である。

その「暇も余裕もない」を作り出しているのは、間違いなく世の中の動き―引いてはそれを先導している政治なわけで。

そういうところを見ずに、思考をシャットダウンしてしまっているのは、すごーく残念な感じがした、日ごろ愛と勇気みたいなことを伺わせる言動をされてるだけに。

ご本人にすれば、ロックンローラーというか、少年ジャンプ的な主人公的な生き方と思ってらっしゃるのかもしれないが、実はこれ、ドラゴンボールで言えばヤジロベエ的なスタンスなんだよね。

みんなでかなわん相手と戦ってるときに、元気玉撃とうとしているのに、俺は知らん、オレはラブアンドピースとか言ってるわけでしょ。

何度かお話したことがある方で、ナイスガイだと思ってただけに、すごく「もやっ」としたなあ。

そしてこの方が独身ならまだいいんだ、小さなお子さんがおられるらしいのよ。

父ちゃん、政治を語ることは、別にロックンロールから外れるわけじゃないんですぜ。

むしろ、その小さなお子さんたちの未来を守るために、小さくても元気玉打つのには力貸すべきじゃないのかな。

それを手間といったばかりに、復興増税の2%、加えて消費税の数パーセントの上昇は、あなたの家の家計を―もっというとそのお子さんの将来の「可能性」を直撃する。

積極的になれとは言わんが、最低限のことぐらいはしようぜ―。

もう少し面識があったら、きっとこう呟いてた。

趣旨とは外れるかもしれないが、自分も人間なので、もやっとした気分はここで吐き出しておくこととする。

すまんね。

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