【レビュー】『シドニアの騎士 15巻(完結)』弐瓶 勉

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レム恒星系圏に舞台が移ってから巻きに入っているなとは思っていたが、こちらの予想よりも早くいさぎよい完結となった。かといって急いだ感じというのではなく、必然性をもったまま最終巻らしい勢いと盛り上がりを持って完結したといっていいと思う。

『シドニアの騎士(15) (アフタヌーンコミックス)』

前線に一人出遅れていた谷風は追加の推進装置月航(ツキカズ)を使い全速で最前線で半壊状態の攻撃艦隊の支援に向かう。その最前線の第一攻撃艦隊は劣勢の中、重力子放射線射出装置を現場で組み換え推進装置としガウナの包囲を突破しようと試みる。また第二攻撃艦隊はつむぎは瀕死の状態、残存艦艇は一隻、残った衛人も残弾・ヘイグス粒子も共に尽きようとしていた・・・そこへ追い迫るガウナ。その頃第一艦隊は融合個体かなた=落合とガウナに挟撃され再度窮地にたたされる。また遠く離れたシドニア本体にも膨大なシュガフ船が密集、単一の主本体となりシドニア本体に接触、いままさにシドニアは巨大なガウナに飲み込まれようとしていた・・・。


堂々の最終巻である。
おもったより早くスパッと完結してくれたが、特に急いだ感じもなく必然的なエピソードを重ねて終幕へたどり着いたように感じる。このあたりはこの第15巻がこれまでの一冊当たりの分量よりややブ厚目のページ数であることも関係しているかと思うが、最終エピソードらしくスピード感・勢い・盛り上がりどれも十分で、非常にいい終わり方をしたと言っていいだろう。

最終巻ということでこれまでのそれぞれエピソードにいちおうの決着がついていたりするのでここでは多くは書けないが、それぞれいいところに落とし所を持っていったと思う。個人的にはほとんど存在感のなかったテルルにも活躍のシーンがあったこと、物語冒頭の印象的なエピソードだった山野のあとを弟が受けガウナに留めをさしたこと、そしてなによりギャグ担当のはずの弦打氏もちゃんと見せ場があったことは本当によかった(笑)。

逆に少しもったいなかったかな、と思うのは落合の最後。
これは十分筋の通ったオーソドックスな最後ではあるんだが、他のエピソードてんこ盛りのおかげで相対的に恐怖感やラスボス感が薄まってたのは最終エピソードを一冊にまとめたが故だろうか(加えて彼自身の”理屈”の弱さもあるのかもしれない)。ここまでの巻の彼の恐怖感がけっこう大きかっただけにちょっとあっけなかったと言えるかも。

そしてとどめは数カットだけとはいえびっくりのヒ山さん人間時のご尊顔だろうかwこれは未読の方も読まざるをえまい?

で、結果的にはシドニアの航海は続くわけだが旅立つ人、見送る人、それぞれの姿をエピローグとして描き、谷風長道を主人公としたシドニアの物語はここでいったん幕を閉じる。個人的には物語中盤から「フリークスハーレムラブコメ」(笑)路線をひた走っていたので、逆にもっと全体として壊滅状態になってわずかな人たちだけが生き残る的なラストになるのかもなと思っていたんだが、それはいい意味ではずれ、すごく明るくまっとうな大団円で幕を閉じた。このあたりは物語開始当初からは少し想像がつかなかったな。これは一つにはキャラクターたちがそれぞれに強く存在感を放ちはじめ、作者の弐瓶氏も仏心が出たのではないかと勝手に想像しているのだが(笑)。

ただご覧になった方はお分かりのようにこの「シドニア」の物語は今後何らかの形で新たに語られるかもしれないのりしろを残して終わっている。
ガウナの正体は結局なんなのかというところにはまだ結論を見ていないし、なによりもイザナとのどかの「約束」が果たされる・・・そのシーンはぜひ物語として見てみたいものだと思う。

なにはともあれ無事の完結、作者の弐瓶氏および関係スタッフの皆さまおつかれさまでした&いい物語をありがとうございました!

機会があればぜひまたあらたな「シドニア」の物語を!

※あとエピローグでなにげにびっくりだったのはゆはたちゃん・・・くんですな。そうきたかwこれは意表を突かれたわ。

『新装版 シドニアの騎士 (全7巻)』










※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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