信長の棺/加藤廣

標準

隣町の古本屋にて。上下巻で400円。

信長の棺(上)

信長の棺(下)


『信長公記』の著者・大田牛一を主人公に、本能寺の変に消えた織田信長の遺体を巡る歴史ミステリー。
本能寺の変を当事者の視点ではなく、信長・秀吉の時代を”記録者”として生きた大田和泉守を狂言回しとして、謎の多い本能寺の変の裏側をたどる良質のミステリ小説。

ちなみに著者75歳にしての小説処女作とのこと。


個人的に明智光秀に興味があって、本能寺の変の界隈の本は目にして面白そうなものは手を出してみる。

本作もそういう経緯で手に取った。

ただ、本書はかなりミステリー寄りの作風になっていて、本能寺前後の描写より、本能寺以後、見つからなかった信長の遺体を追う、大田和泉守の視点・境遇でほとんどの描写が展開する。

これはなかなか新鮮な感じで、ある種の伝奇ミステリー的な面白さがあった。

そして主人公・大田和泉守のスタンスが徹頭徹尾、いまでいうところの”作家””ライター”的な「文人」の矜持によって描写されている、という点が清涼感があってよい。

また中盤~後半に登場するヒロイン・多志を含む魅力的な多種多様のキャラクターも配置されており、エンターテイメント小説としても良い作品。

いわゆる「本能寺もの」の系統としては

「秀吉+朝廷・黒幕説」

になると思うが、続編が2シリーズ出ているので、全貌はそれを見てみないとわからない。
ただ、秀吉の関与のディティールに関しては、網野史学的な設定が組み込まれているが、ちょっと盛りすぎだろう。

おおむね自然な描写・解釈ではあるんだけど、桶狭間まで絡んでくるとさすがに「どんだけ道々のもの勢力あんねん!?」と突っ込みたくなる。

その点以外は物語の組み立て、主人公と舞台の選択など、非常に面白く読め、たのしい作品だった。

続編二作もそのうち読んでみたいと思う。

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