連作シリーズを二冊、先日の体調不良でぶっ倒れてる間に。
隠し剣孤影抄
隠し剣秋風抄
シリーズとはいっても、同じ登場人物がずっと出てくるのではなく、作品としての型が同一のものを集めたシリーズ短編集。藤沢作品おなじみの東北の小藩・海坂藩を舞台に、それぞれ個性豊かな”秘剣”の遣い手たちが活躍する。
各エピソードは、それぞれの主人公が問題に直面し、かつて修め今は秘した秘剣を放つところで物語を〆る。
適量な一話完結の体裁は、非常に読みやすく、すらすら読めた。
これは、時代劇的なものに対して、よい入口となるような構造を持っているといってもいいかもしれない。
ただ、ここが藤沢周平の非凡なところなんだろうが、そういったすらすら読める、一見エンターテイメント的な構造を持ちつつも、決してハッピーエンドや後味の良い話ばかりではなく、むしろ人間というものの複雑さ、業の深さのようなものを垣間見せてくれる作品も、本シリーズには多々含まれている。
加えて、自分の持っていた藤沢作品のイメージからするとちょっと意外なほど、本シリーズは艶な要素を含むエピソードが多い。
先ほど書いたエンターテイメント的な構造、という点と併せて、ひょっとすると著者が意図的にそういう描写を意識していたのか、作家としてのそういう季節であったんだろうか。
(ただこれもどちらかというとサービスシーン的なものでなく、人間の暗さ、その業の深さのようなものを感じさせる形のものがほとんどだったが)
総じて、分量や作者の研ぎ澄まされた筆致で、さくさくと読める良いシリーズ。
また単純なエンターテイメントだけでもない、というところが筆者の作家としての格を表している。
どちらが先かは知らないが、映画化された『たそがれ清兵衛』の原作(新潮文庫)もこの系譜につながる作品群だろう。
こちらは秘剣が作品のタイトルとなり、『たそがれ~』のほうはその遣い手の名前をタイトルとした連作だが、作品構造としては同系だと思う。
藤沢作品に限らず、体調崩して気分まで落ち込みそうなときは、自分にとってはなぜか時代小説が一番の薬だったりする。
それはなんとなく、そこに自分の思い描く、現代の人間にとってのあるべき生活の元型のようなものを感じ取れるからだろうか。
そういう意味で、本書を含む藤沢作品にはなんども助けてもらっている。
下手な薬よっぽど効く(笑)。
こんにちは。最近ぽちぽちと藤沢作品読んでます。元々そんなに活字好きでない私にとって、非常に読みやすい時代小説ですね。
どちらかと言えば、人情ものの?山周の方が好みでしたが、「孤陰抄」を読んでみて、なるほどうまい作りだ、と思わず唸ってしまいました。
短編ならではのテンポの良さと、血生臭い秘剣捌きの描写と、濃厚なシーンの配分がうまいと言うか。ただどの話もハッピーエンドじゃないのが、なんともじれったく、続編があったらいいのに、みたいな狡さ。
現代っぽい時代劇に脱帽しました。このシリーズ、全部読みたいっすね。
コメントありがとうございます。
そうですね、読みやすさという事では文体もあって、藤沢周平は読み易いと思います。
どうもこういう暗い感じというのは初期の藤沢周平作品の特徴らしくて、そこが良くもあるのですが、用心棒日月抄のあたりからユーモラスな感じも入り混じった作風が出てくるようです。
(自分は日月抄が初藤沢作品でした)
個人的には連作はお手軽に読めますし、一冊完結も上手くまとまっているので、ハズレのない作家さんというイメージですね。
シリーズ物もいくつもあるようなので、そのうち行ってみたいと思います(笑)。