連載数回目から「これは単行本出たら買わねば!」と思ってた一作。
掲載誌の週刊モーニングでは不定期の連載だったので、ようやく単行本化。
『リーチマン(1) (モーニング KC)』
姉さん女房に養われつつ、造型師を目指すヨネダタツロウ(32)は現在主夫。
二人にとってはこれが自然な形だが、世間の流れはまだまだそうはなっていない。
そんな小さな軋轢の中で、時にはプラモに逃避し、自転車を漕ぎ、嫁と喧嘩しても嫁の好物を晩御飯のおかずに自ずと選んでしまう。
そんな目標を目指す二人の生活がリアルに描かれる、好感あふれる一作。
ということで、ずっと単行本を心待ちにしていた一作だが、先日ようやく第一巻が発売となった。
主人公が造型師を目指す、野性味のある大男。
そしてその嫁さんは、男前な姉さん女房。
そこに描かれている生活は、いまこの2010年代初頭ならではのリアリティと情緒がさりげなく描かれていて、我が身の立場は違えど、思わずうなずく人たちも多いのではないか。
特にこれまでの社会的なルールを引きずる世間と、そんなものはリアリティとしてとっくに壊れている中を生きている世代との、小さな軋轢のなか、主人公が夢に向かう最中の葛藤を描いているのが素晴らしい。
作品のタイトルは、主人公の名前と、年齢的に夢を追えるリミットが迫っている意味での「リーチ」マンなのだろうが、そこが作品全体を通して、通奏低音のように軽い緊張感と切迫感を感じさせる。
ただ、主人公たちがその夢をかなえたとして、その圧迫感のようなものはそこで消えるのだろうか?
実はこの時代そのもののもつ漠然とした不安が、その先にもあるような気がする。
そのあたりがこの先、彼らがいま目指している”目標”に達したとき、どう描かれていくかも個人的には是非見てみたいものだ。
連載中の本巻未収録部分では、そんな時代の通奏低音的なものの象徴というか、同時代性を持つ作品ならではというか、東日本大震災絡みのエピソードが次巻以降に登場する。
また嫁さん妊娠かも、というところで最新の連載エピソードは進んでいるというところからも、当分目の話せない一作。
主人公たちのようなカップルを、バカだとか底辺だと嗤う人たちは、まだまだ世間には多いかもしれない。
しかしここに描かれている彼らは、彼らなりの人生を”真正面”向いて生きている。
日々無力感のなかに自分にとっての”真正面”を見ず、ごまかしごまかしただ毎日を送っているだけの我々には、そんな彼らを嗤える資格がどこにあるだろう?
少なくとも自分が友だちを選ぶなら、彼らを嗤うような人たちより、彼らのように生きている人たちを友だちに選びたい―。
強くそう思える一作。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正