『クロノスの少女たち』/梶尾真治

標準

時間SFの大家、ジュニア小説に挑戦?

クロノスの少女たち (朝日ノベルズ)


梶尾真治氏の新刊。

氏のファンではあるが、その著作をぜんぶ追いきれているわけではなくて、読みもらしているものも多々。

ただこれは氏のtwitterフォローし始めた直後に、刊行の旨、タイミングよく呟かれていたので、先日ライブ観にいった際に渋谷啓文堂にて。

掲載誌が、朝日中学生ウィークリーという中学生向け雑誌だったとのことで、非常にジュブナイル色の強い一冊。

親友が同級生に告白する、というのに付き合い、結果事故に巻き込まれた私が・・・という「彩芽(わたし)を救え!」
変わり者の伯父の研究所に、伯父を訪ねていったことからタイムとラベルに巻き込まれてしまった「水紀がジャンプ!」

以上の二作を収録。

ジュブナイル色が強いと書いたように、若干文体もそれにあわせて変わっており、ある意味楽に読めた。
かといって、内容が薄いわけでもなく、梶尾氏ならではの時間SFのギミックがいろいろちりばめられている。

その傾向は一本目の「彩芽(わたし)を救え!」のほうがよりはっきりしていて、ある意味、氏のタイムトラベルものの王道的なつくりを踏襲している、といっていいだろう。

それに対し二本目の「水紀がジャンプ!」は、一部アラビアンナイトのディティールを組み込んで、ややゆるく、コミカルな感じの一作。

コメディの名手でもある氏の、その手の作品に比べるとややその色は弱いが、ある意味歴史干渉モノならではの部分を味わえる。

いい意味でライトな一冊であり、読みやすくもあるのだが、若干気になるのは、掲載誌が掲載誌だけに、部分部分でやや説教臭いセリフ・シーケンスが見え隠れすること。

まあ梶尾先生も、お孫さんがいらっしゃるお歳なので、あたり前といえばあたり前、或いは掲載誌側からのオーダーなどもあったのかもしれないが、エンターテイメントの名手にしては、そういったシーケンスを読者に感じさせてしまうのは、本来の構想になかったものを付け足したからか、或いは、中学生向け雑誌という媒体故、さすがの大家もどう書いたものか戸惑ってしまったからか?

いずれにせよ、その点を除けば、非常に梶尾作品らしい作品。

梶尾作品は、けっこう若い女性が主人公の作品があるが、これはその中でも飛びぬけて若い方だろう(笑)。

氏の元々持っている作風もあってか、清潔感があってよい。
昨今のハイティーン~ローティーン向け(?)に幅をきかすラノベなどのそれとちがって、久しぶりにジュブナイルらしいジュブナイルだ。

ということで学校の図書館なんかにぽん、と置いておいてほしいような一冊。

これを読んで、ぜひ道を踏み外す若人たちが出てくることを望む。(苦笑)




※しかし全エントリの山本周五郎、同じ「小説」なのに見事なスルーされっぷり(笑)。
 いちばん読んどいたほうがいいぞ、と思って取り上げたものがスルーされる、というのもこれまた人生かw

コメントを残す