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ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義
古代からの日本通史を、「商売」や「経済」という視点から眺め直して、日本独特の経済的な特徴を把握しようとする一冊。著者はレオス・キャピタルワークスを立ち上げ「ひふみ投信」のファンドマネージャでもある藤野英人氏。
日本史を経済の視点から俯瞰する、ということ自体はそれなりにスタンダードなジャンルで、本もそれなりに出ていると思うが、現役の経済人が、それなりの密度と独特の視点で一冊書き下ろすというのは珍しい。
個人的にも気になっていたテーマであったので購入。
この手の日本史と経済を絡めた本は、ついつい扱いやすい特定の時代を中心にして、やや独善的に自説を敷衍させるタイプの著作が多いような印象があるが、本書は古代から明治~昭和までの大きな時代区分、それぞれでの経済トピックスをうまくとりあげてまとめている。
というのも、本書の大きなテーマの一つが、日本の経済活動には、外に向かって開かれている「ウミヒコ」の時代と、内政内治に視点が向かう「ヤマヒコ」の時代があり、それぞれ時の政権ごとにそのどちらかの方向性が見て取れる、ということにあるからだろう。
この視点は秀逸で、そのどちらを否定するわけでもなく、そういった方向性の行きつ戻りつ―揺り返しの中で、日本経済は舵をとっている。そのことを理解しておけば、そのときその時の適切なバランスを見極めることができる、という主張かと思う。
また、それを説明するためだけでなく、各時代各時代のエピソードや視点も面白くかつバランスが良くて、日本史好きであれば、それまでのものに加えて、経済の分野からという新たな視点―時代の動きのダイナミズムのようなものを、より感じ取れるようになるだろう。
その上で、終章のまとめの部分―昨今の日本の内向き傾向に懸念を表明されている部分は、一読に値する内容。
要約すると、現状(出版は2011/1月)はヤマヒコ―内政・統制管理的な志向が強まりすぎて、経済的な流動性、そのダイナミズムが非常に縮小している点に危機感を表明していらっしゃる。
その前節の、お金というものや経済に対するイメージの部分にはやや甘口すぎるきらいがないでもないが、基本的に非常にまっとうな視点で書かれた、適切な提言かと思う。
少なくとも目の前で扱う銭金の額面でいっぱしの知識人の振りをしている、自称・エコノミストやマスコミ御用達の似非経済人などの著作より、よほど実があり、ためになるだろう。
なぜなら、ここにはそれらの薄っぺらい人たちが見事に持っていない”歴史”という、先人の営みへの敬意と畏怖が見て取れるからだ。
”愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”
所詮、ちっぽけな個人が自己の経験で測れる世の事象というのはたかが知れている。
そういった健全な自己認識がある方が、経済を解くと、こういった”智慧”も見えてくる。
そういうことだろう―。
※本書に「金儲けは悪いこと」という意識の蔓延は、健全な経済への道を誤る的な指摘があった。
基本同意はするが、やはりそういう視点が出てきたのは―持たざるものの嫉妬もさりながら―”持てる人”たちの立ち居振る舞いが、あまりにもお粗末だったからではないか?
特に昨今のそれは。
儲けたら、公のために使う―少なくとも昨今の富裕層で、それを目に見える形で実践されている方は少ないように思う。
例えとして正しいかどうかはわからないが、少なくとも”交際費”や”接待費”とかがない時代、それなりの役職の人や、高給取りの方が”書生さん”を養ってたような、身近に見える形での、”持てる人”たちの実践―そういった身近な形での教育、に相当するようなものは、いまの時代、ほぼ壊滅のような気がする。
もちろん、セキュリティなどの面でむづかしい時代でもあり、社会を取り巻く文化が大きく変わってきたというのもあるだろう。
しかし、やはりそれでも”経済人”があまり尊敬を得られないのは、その”ノーブレス・オブリージュ”を目に見える形で実践されている方が少ないからではないかな。
”売名”だと叩くゴシップマスコミがあろうが、それに怯んじゃいかんのよ。
それをも引き受けて貫くことが”ノーブレス”たる所以ではありませぬか。