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山田風太郎によるいわゆる”柳生十兵衛三部作”の一作。江戸・徳川時代の初期、会津藩・加藤明成のもとを退転した堀主水の一族だったが、男たちは捉われ鎌倉の女人寺に身を寄せていた女衆も、加藤配下の”会津七本槍”の手によって虐殺されてしまう。しかしその事を起こした女人寺・東慶寺の住持・天秀尼は神君家康の孫・千姫の庇護下にある人物だった。その残虐な手口と男子不入の女人寺にまで立ち入っての狼藉に千姫は加藤との対決を決意し、生き残りの女衆七人に加藤を討たせようとする。その七人のもとへ老僧・沢庵を介して隻眼の剣士が現われた。
以前に『魔界転生』を読んでいて、その後調べると”柳生十兵衛三部作”のうちの一作品だったということを知り、本作も読んでみた次第。
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まあある種エログロナンセンスなエンターテイメント作品と言ってしまえばそれまでなんだが、なぜ続けて読んでみようと思ったか、というと、まず山田風太郎氏の文章のうまさ、それを魔界転生を読んですごく感じたことが一点。さらに作品の主人公である柳生十兵衛のキャラクターの爽やかさ―こういうエログロな作品からはちょっと想像しにくい人物像。
そしてこの二点がうまく相乗効果を発揮して、作品自体がすごくよいポップさを持っていると感じたから―そういってよいかと思う。
おそらくいま風の作家なら徹底的にドロドロなエログロバイオレンスにしてしまう設定やディティールなんだが、不思議とそういう作家が描くような陰湿さが薄い。
なのでぎりぎりエンターテイメントという枠組みの中におさまるような感じがして、もっと読んでみたいな―そう思ったわけ。
なんだろうなあ、この不思議なバランス感覚は。
入り口となった『魔界転生』(こっちがシリーズとしては二作目ということらしいが)も、すんごいバカな設定が出てくるんだが、なんかそれでもしれっと読まされてしまう上に、映像化された深作版のそれよりもはるかにわかりやすいという。
おまけに上述の十兵衛のキャラクターのおかげか、読後、独特の満足感がある。
本作に関しては十兵衛が主役ではありながら、話の筋道としては堀の女衆七人の復讐がメイン―そしてその女衆が超人でも何でもなく、普通の武家の女房衆だったりするので、ハラハラドキドキの作り方がすごくうまい。
そういう女たちの必死の復讐が成就するカタルシスと、それが手に負えなくなってきた段階で自然と十兵衛メインに切り替わるタイミングと話のクライマックスがシンクロするあたりもうまい。
ただ一点不満があるとすれば、沢庵和尚の意外なへたれっぷりか(笑)。
これは脳内でバガボンド版の沢庵さんの印象強いからかもしれないけど(本作ではそれよりさらに後の時代の話)、天海僧正との関連性の描写が薄いせいか、沢庵の折れる部分が「おまえ全然悟ってへんやろ!?」と思わず突っ込みたくなる人物像というのが(苦笑)。
それ以外は敵役の憎げなキャラクター造形といい、エンターテイメント小説としてすこぶる面白かった。
残る『柳生十兵衛死す』も読んでみたいのだが、なぜか電子版がまだ出ていない模様、ぐぬぬ。
乞う、早々の電子版出版。
※加藤・会津藩の取りつぶしは作中のような明成の暗愚に原因があるのではなく、おそらく幕府側の見せしめのためのターゲットとなった・・・的なことが史実的には真相のような気もするので、そこはちょっとかわいそうな気はせんでもない。