著者のとり・みき氏はいわゆる”理数系ギャグ”の代表選手のような方だが、そこから離れた”リリカル”な作風の短編ばかりを集めた一冊。
『クレープを二度食えば(リュウコミックス)』
自分は表題作を、おそらく初出の別単行本で読んでいたと思うんだが、なんでも涼宮ハルヒかなんかでこの『クレープ~』が取り上げられていたため、今回あらためて単行本化となったらしい。
リリカル作品集、とあるが、もともとギャグマンガ家であると同時に、猛烈なSFフリークであるとり氏のその方面がいかんなく発揮されている一冊でもある。
同じ九州出身のSF作家・梶尾真治氏のそれと、どことなく同じ空気感があるのが趣き深い。
(作中にも氏へのオマージュと取れる描写多々あり―本書はそれよりややハードボイルドだが)
元々の氏の作風から離れた作品が多いせいか、学習誌やその他雑多な掲載誌からの収録。
そういう意味でもこういう風に一冊としてまとまったのはありがたい。
映画『転校生』のスピンオフ的な『もうひとつの転校生』、舞台同じにとった『望楼』の二作は、地域性も絡んでいてとても良い。とくにこの乾いた感じが。
『砂浜のメリークリスマス』『羽根の塔』はもろSF者の地金が堂々と現れた作品。発表年がおそらく初期のほうにあたるので、その点も感じられて面白い。この独特の空気感はやはり’60年前後生まれの作家の方々が持つ’80年代SFの空気だ。
実はそういった世代の代表選手でもあるのが大原まり子氏なわけで、そのある意味初期の代表作『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』のコミカライズが、これら一連の作品のなかで一番最初に描かれたモノである、というのもある意味必然か。
(このコミカライズがこういった路線への入り口であったと、ご本人があとがきで言及されている)
で残る二つ『カットバック』と表題の『クレープを二度食えば』なんだが、この二作はある意味タイムパラドックスもの。
前述の梶尾真治氏も時間SFの名手だが、この二作もいい。
特に『クレープ』のほうはフリッパーズギターの曲を、ディティールとして絡めるなど、逆に今この時点で読むからこそ効いてくるものもある。
舞台となっているのはおそらく’80年代末~’90年代初頭ぐらいだが、当然当時の”時代の空気”が描写されているので、読者がそのあたりのことを思い出して読んでみるのも良かろう。
(自分はその前後になーんの良い思いでもないのだが・・・orz)
『カットバック』はタイムパラドックスものにはよくある仕掛けの話だが、やはり独特の空気があってよかった。こういう掌編は、ページ数に対して投入されているアイディアが贅沢だと思う。
けどやはりタイムパラドックスものはいいね。
とくにちゃんと複線を回収してラストにつなげてるもので、”リリカル”なヤツは、本書に限らずものすごく記憶に残る作品が多い。
梶尾氏の『クロノスジョウンターの伝説』なんかボロボロ泣きながら読んだし、アニメになるが『鋼鉄神ジーグ』の全13話中の10話ちかくまで使って伏線引っ張ったあのパーツシュートなんぞタイムパラドックスモノの醍醐味の最たるものだった(よく考えればあれも九州が舞台だったな)
※あ、上のリンクはジーグ未見のかたは本編全部見てからのほうがオススメですよ。
敬愛する平井和正大先生をして”追憶だけが人生だ”というのがあったと思うんだが、追憶というものは、人という物語をブーストするのかもしれない。
ちょっとSFテイストで一息つきたい人にはオススメの短編集。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正