【レビュー】『Walpurgis』Aimer

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えーと、これもだいぶ前にリリースのアルバムだけども取り上げておく。そしておそらく、今後しばらく自分はAimerさんの作品を追っかけはしつつも、レビューをするまでのことはしないだろうな、という事も含めて。

『Walpurgis』Aimer(2021/04/14)

約2年ぶり、通算6枚目のオリジナルフルアルバム。前作の『Sun Dance』『Penny Rain』という2枚スプリットのアルバムから今回は通常の1枚組。冒頭と締めに梶浦由記による作品を持ってきており、それによってくくられるある種のコンセプト感を感じさせるアルバムに仕上がっている。収録曲もタイアップ作品が多く含まれており、非常にクオリティの高い一枚。 (2021/04/14 リリース)


うん、おそらくこれまで出たAimerさんのアルバムとしては最高峰の一枚といっていいんじゃないすかね。非常にクオリティの高い一枚。

そしてご本人もここまで実直に積み重ねてきたキャリアの下に、ある種「ベテラン」の風格というかそういう立場を自信を持って力強く「引き受ける」覚悟を感じさせる言動が増えていて、非常にいいことだと思う。『RE:I AM』からの中途組の半端ファンではあるが、ここまで5年以上─実質7,8年か─付き合ってきたファンとしては、その姿は非常に嬉しい限りである。

ならなぜ冒頭で「今後しばらくレビューしないかも」と書いたかというと、たぶんこのままでは(「シンガー」としてではなく)「アーティスト」としてはAimerさんのブレイクスルーは当分ないのではないか、と今回のアルバムで感じちゃったんですね、個人的に。

これはどういうことかというと、本アルバムのトータルクオリティの高さに感銘を受けつつも─だからこそ─いわゆる今回の梶浦由記先生やこれまでの澤野弘之氏など外部作家との作品と、いわゆるAimerチームともいえるAgehasprings寄りの作品でやはり顕著に差が見えるわけですよ、Aimerさんという”才能”─特にボーカリストとしての見え方の違いが。

こういう書き方をしたけれども、実は楽曲自体のクオリティという面では上記のような外部作家とAimerチーム(内製チーム)でそれほどまでに顕著な差があるわけではない─紙一重・僅差と言ってもいいかもしれない。
けどやっぱり感じるんですな、その紙一重の差をもうイヤというほど顕著に。

なんというか曲を聞いたときの絵面の浮かび方自体がぜんぜん違うんですね、特に梶浦先生とは相性がいいのか梶浦曲だとどんどん曲から画が浮かんでくる。それに対してやはり内製チームでの曲はどうしてもそこらへんが弱いように1リスナーとして感じるわけで(内製チームの曲で唯一その切迫感からか画が浮かんでくるのは『STAND-ALONE』か─『トリル』も健闘していると思うがPV先見てしまったので判断保留)。

ここらへんが個人の名前で看板しょって作家活動している作曲家さんと、プロデュースワーク主体で「仕事」としてやってらっしゃる作曲家さんの違いなのかなあ。

しかし実はそういった差異よりもその違和感を感じる一番大きな理由は、Aimerさん自身の歌唱力そのものというかスキル自体はバンバン上がり続けているというその一点にある。つまり歌唱の技量の向上に対して内製チームの楽曲はその「質量」とでもいうべきものが負けてるように感じるわけです。

冒頭で「いいアルバム」と書いたが、これは間違いない。ただそれはアベレージを割っていない楽曲を、Aimerさんというおそらく現状の日本のポップシンガーの中では上から数えたほうが明らかにはやいであろう技量を持ったシンガーが歌っているので「そりゃ当然だよな」という話で─要は失敗のしようがない。

ただ「失敗しない=作品として素晴らしい」かというとまた別で、一見良いアルバムに見えるこの作品も、その根底には明らかにミスマッチをはらんでると思うわけですよ─要はボーカルのレベルと楽曲が釣り合っていない
例えば爽快なナンバーでおそらく他のボーカルで聴けば「佳曲」と感じる『SPARK-AGAIN』など

なんでこの高みにあるレベルのボーカルがこの曲を歌わんといかんのか?

というぐらいのミスマッチ。もちろんいまのAimerさんの歌唱力なら難なく歌いこなせるでしょう。けどこの曲は本当にAimerさんレベルのボーカリストが歌わなければいけない曲なのか?と自分などは感じる。
繰り返しになるが、楽曲自体は悪い曲じゃない。ただやっぱり持ってる”絶対値”に差がありすぎるように感じるわけで。

それに対してやはり外部作曲家陣というのはその人個人の「名前」で仕事をされているだけあって、やはり聴けば一発で分かる「色」がある。

そういう強力な個性を持った作家陣と組み合わさったときにAimerさんのボーカリストとしての力は最大限に引き出されるわけで、それができない立場の新人アーティストならばともかく、いま彼女の立ち位置は国民的に話題となったアニメ作品二期目の主題歌のオファーがくるような立場なわけで─要は作曲家を選ぼうと思えばある程度選べる立場にあるわけですよ。

けど、おそらくこれまでの言動から非常に関係者というか自分に関わってくれた全ての人たちをすごく大切にされる心優しい方だとお見受けするので、これまで長年一緒にやってきたスタッフを切り替えて次の段階へ行こうとはされないだろうな、と(─これはいまの時代にあって凄いことでもあるので一概に否定するべきことでもない)。

ただそうすると、今後もおそらく散発的に発生する外部作家とのコラボレーションの頻度が上がってくれることぐらいしか、Aimerさんという稀代のボーカリストの「臨界状態」を観れるチャンスが期待できないわけで。そして恐らくそういったドラスティックな変化より、これまで信頼関係を築いてきた既存のスタッフの方との関係性を大事にされる方向性を、今後も選択されるんだろうなあ─と。

この点、比較するわけではないが好対照なのが澤野弘之氏。

彼の場合は、コラボレーションするボーカリストの力を貪欲に借りて、自身の音楽の幅を─芯の部分は変えることなく─どんどん広げていっているように見える。それは一見薄情だったり、時には残酷に見えるかもしれないけれども、一人の「音楽家」としては、常に自身を新たな高みへと進めようとするその姿勢のほうが、自分には正しいように感じられる。

音楽を聴く、という限られた自分の時間を消費する行動をするなら、自分はやはりそういう自身の可能性のほうを残酷なまでに追及する人の作品のほうに時間を使うだろうな、と。

それが冒頭に書いた「今後しばらくはレビューしないかも」の理由ですね。

とかいいつつ「フフフフフーン 残響~♪」とか鼻歌歌っちゃうかもしれんのですが(苦笑)。
(この曲も佳曲、だけどいろいろと「音楽以外」のところの仕組みを感じちゃうのよねえ─この時代に敢えて3分台の曲=明らかに動画の再生回数狙いという「音楽以外」の夾雑物入ってるよなぁ、という)

あ、そうそう。とはいえ年始に発売が予定されているいわゆる「B面コレクション」盤、これはおすすめの一枚になりそう。
以前から「Aimerさんの曲は実はB面曲のほうがいい曲多いよな」ということを感じていたので、非常にバリュー感のある一枚になるんじゃなかろうかと。

とまあいまのご時世、こういうどちらかというと批判的な批評は書かないほうが賢いだろうことは理解しつつも、敢えて素直に書いてみることがここまで楽しませてくれたアーティストへのせめてもの御礼かな、と。

もちろん、今後も彼女の作品は全部チェックしていくと思うし、こちらの想像をいい意味で大きく飛び越えていく作品を見せつけてくれる時が必ずあると思う。

その時は節操なくくるっと手のひら返して「Aimerさん、やっぱ最高や~!?」というレビューあげると思うので、そのときは生暖かい目でニヨニヨ見守っていただけると(苦笑)。

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