【レビュー】五十嵐大介作品を読む

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先日観にいった『海獣の子供』があまりにも素晴らしくて、原作を読んでみたくなり購入。加えてこの独特の感性が『海獣~』だけなのか、それともほかの作品にも共通するものなのかというところが気になり、ほかの短編や短めのシリーズ作品をいくつか購入してみた。

結論:例のぶっ飛んでるシーンの根底に流れている感性はまぎれもなくこの作者ならではのものでした(笑)。

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全体的に非常にエスニックというか民俗学的というか(直接的なモデルがあるというわけではないんだろうが)一見冷めた画風のなかに秘められた土着信仰的な熱っぽさ─そういったものをトータルとして非常に感じた。これって一般論的には一つ間違えると危ないところへ踏み込みかねない部分があるんだが(スピ系というかそっち系と混同されかねないという意味で)、それをいい意味で裏切るように、各作品の芯はしっかりと地に足がついており、かつエンタメにきっちり落とし込んでいるというのがすごい。クリエイター層などに熱烈なファンが多い作家さんというのも納得の作風だ。
(散文的な短編などでは萩尾望都のそれをちょっと連想する部分もあったり)

そして前述のようにスピ系的なところへ落ち込んでいかなかったのはエンタメ作品になっているという部分もそうだが、異能の登場人物たちがそれぞれその異能さ故に被らざるを得なかった不条理にさらされつつも、それぞれの背負うべき「責任」とでもいうべきものをしっかりと引き受けているからだろう。五十嵐作品での異能は安易なカタルシスとしてではなく、ある種避けられない宿命のようなものとして描かれる。

このあたりは『カボチャの冒険』あたりで描写されているように農家を営み自給自足の生活をされていた経験からくるものが大きいのではないか(農業において直面する自然現象の厳しさはそんな安易な解決を決して肯定してはくれないだろうから─すべての結果は自分で引き受けざるを得ないである)

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個人的にはエンタメとその独特の感性のバランスがいちばんうまく融合しているように感じた『魔女』収録の作品群が非常に好みだった。

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また2004~2014年ごろまでの作品をまとめた短編集『ウムヴェルト』では『海獣の子供』でも一部みられた人間と自然との相克とでもいうべき点をより具体化した表題作が印象に残った(最新作『ディザインズ』のスピンオフのようである)。設定だけ見ればある種仮面ライダーだな、これ(苦笑)。しかしそうはなっていないところが凄いというかなんというか。

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そしてよりエンタメよりなところでうまくまとまっているとするなら『SARU』だろうか。ある意味『海獣の子供』よりわかりやすく、逆にこういうエンタメ的な幅も持ち合わせていらっしゃるんだな、という点で面白かった。(もちろんストーリーとしても読ませる)

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全体的に非常に密度が高く、ある意味唯一無二の感性をもった作家さんかと思うが、逆にいうと、入り口を間違えると少しハードルの高い作家さんともいえるかもしれない。事実、映画を先に観ずに『海獣の子供』を単行本で読んでいたのなら、途中で挫折していた可能性もあったかも。

そういう意味で個人的にお勧めするとするなら前述の『魔女』か『SARU』の2作品だろうか。前者は短編オムニバス、後者は上下巻できっちり完結のエンタメ作品。

どちらにせよ、サブカル的な分野に人並以上に興味のある方なら、ある意味外せない、独特の存在感を放つ作家さんだと思う。最新作の『ディザインズ』もタイミング見て読んでみたいところ。

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