前回観たのは確か二十数年前の大学卒業前後。その時は金もないのに3回も観にいったぐらい。
「好きな画家は」と聞かれてまず間違いなく最初に名前が出るのはこのギュスターヴ・モローだと思う。
象徴派的なぼやっとした絵柄は本来あまり好きではないはずなのに、なぜかこの人の作品には惹かれるところがある。
もちろんその核心とも言えるのは「出現」や「刺青のサロメ」などに代表される幾何学的な紋様とのミックスされた作品だ。
今回も久々に「出現」を観る眼福に恵まれたが、やはりすごく惹きつけられる。
また今回観た中にはあまり認識していなかった作品(サロメの表情のみのアップ)もあったんだが、それを観ると一連のモローのサロメモチーフの作品はその根底にサロメとヨハネの悲恋のようなものが横たわっているように感じるからこそ惹かれるのかもしれない。
(正確にはサロメの一方的な思い入れーそれがヨハネの死によって完結するわけだが)
あと何気にユニコーンモチーフも久々に見れて嬉しかった。
モローは比較的国内にも固定ファンのいる画家だと思うんだが、今回新宿駅の地下街の広告観るまで本展が開催されていることを知らず、危うく見逃すところだった。一つは比較的小規模の会場ということも理由だったのかもしれない。
会場のパナソニック汐留美術館はパナソニックの汐留ビルの中ということで若干ハードル高し(苦笑)。警備員さんに聴きながら会場に到達。小規模といっても専門の大きな美術館に比べて、というだけの話でさすが世界的な企業の名を冠するだけあって地方のちょっとした美術館と同等のスケール。
しかしそういった規模とはいえ、フルサイズの展覧会とはやはり異なるため、今回は「ファムファタル」─宿命の女たちというテーマに絞って企画・展示が構成されているようだ。
しかしファムファタルという単語は一見するとモローの作品からは程遠い。それぐらいモローの作品は端正で清潔感がある(抽象的な油彩の作品などはまた異なるが)。だが考えてみると、そういう端正な外観のうちに秘められているテーマは確かにそういった出会ってしまった者の運命を大きく左右するファムファタル的な物語がきっちりと据えられているのがよくわかる。サロメとヨハネの悲恋と書いたが、実は悲恋であったことすらも分からないまま出会って、恋とすら分からないまま死に引き裂かれるといった閾域下に沈殿している物語性のように、彼の作品のテーマ性もその絵の下に深く沈み込んでいるのかもしれない。そしてその一見して表には現れてこないものが醸し出す独特の雰囲気がモロー作品の魅力といえるのかも。
前回取り上げたクリムトのような艶福家ではないが、モローも愛するパートナーをその創作の力の源としていた部分もあったようだ。今回の展示にあったがその恋人アレクサンドリーヌと自身の姿をコミカルな二頭身で愛らしく書いたイラストが残っているなどすごく微笑ましい(この柄のトートバックが素敵だったので思わず買ってしまった)。
そしてモローは非常に公平な、生徒の世界を広げてゆくタイプの先生であったというのもなんというか彼の人柄が見えてくるようで素晴らしい。その生徒の一人・ルオーの作品も今回は一部展示されていて、あくまでも生徒の個性を伸ばすタイプの先生だったんだな、というのがみてとれる。
今回は比較的的を絞った小規模な展示だったかと思うが、またフルサイズの大規模展もみてみたいなあ。
最近は展覧会などにいってもレゾネ的なものやパンフレットは買わないようにしているんだが、今回はやはり我慢できずに色々買ってしまった。
夏には場所を変えて大阪の阿倍野でも展示されるようなので、帰省の際にでももう一度観に行きたいと思う。
やっぱり大好きな画家だ。