【レビュー】『I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing』/Aimer

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Aimer×梶浦由記コンビ、第2作目となるが、前回の『花の唄』でもたいがいエグかったのにそれをぽーんと上回るエグさ(誉め言葉)。一流の作曲家とおそらく現時点でのポピュラーミュージック界隈では唯一無二の「声」の持ち主、その組み合わせ。(『I beg you』)

できれば動画などで聞くのではなく、実際の音源を、できるだけいい再生機器で―できれば密閉型のしっかりしたヘッドホンあたりで聴いてみていただきたいところ。

タイトル曲を含め映画タイアップ2曲+オリジナル1曲、セルフカバー1曲、リミックス1曲の全5曲収録。初回盤には昨年夏のファンクラブツアーのライブ映像つくバージョンも。


いや『花の唄』のときも久々にえげつない(誉め言葉)のきたなと思ったけども、今回もそれを上回るというか、より踏み込んでいるというか攻めているのがシングルタイトルともいえる『I beg you』。昨年末のライブでアコースティックバージョンは聴いていたんだけども、フルバージョンは当然今回が初めて。

まずとっぱなからもういきなり狂ってる感じで始まるんですな、そして曲が進行していくにつれて狂気のその果てにある隠された感情へとたどり着く―その狂気の鎧が一枚一枚剥がれていってぱあっと抜ける中間部の美しさ。吹雪が突然止んで一面真っ白な雪原が広がるような。そしてたどり着く凍えるような孤独の世界―そしてそこにも一欠けら残る狂気の種火。

そういう感じの一曲でした。

自分は某FSS信者なので(苦笑)某NT誌を本編読むだけに購読してたりするんだが、今号にはタイムリーに梶浦氏とAimerさんの対談が掲載されていた。この対談はお金出して読む価値あると思うので気になる方は是非読んでみていただきたいと思うが―

(梶浦)
「この曲はそうですね、特にAメロが、リズムを含めていろいろな意味で歌い手さん依存のつくりなんですよ。AメロはほとんどAimerさん任せになっています。」
(中略)
「今回はあえてAメロをメロディアスに作っていません。グルーヴを出しやすいと思われる譜割でAimerさんの声でことばがピンと立つであろう音域を狙ってシラブルをちりばめた感じ。このAメロはAimerさんの声とリズムがあるから成り立つものになっているんです。その分声のインパクトが残りやすいと思います。そして曲自体も今回はAimerさんの素の声で始まり、素の声で終わるという構成にして、聴き終わったときのインパクトをより強調したいなと。」

すげえ・・・ここまで考え抜かれて、シンガーを信頼して作られた一曲ということか―まるでオートクチュールのような!もちろんそういう手縫いの、その人のためにだけ作られたような曲を着こなす(歌う)には本人の力量がそれ相当になければ当然歌いこなせない。そしてその信頼にしっかりと応えたAimerさん・・・ほんと素晴らしい。
(繰り返しになるがこの対談はたった2ページとはいえ素晴らしくスリリングな内容だった。昨今音楽誌でもこういう音楽的意味のある対談のせてるの少ないのでは?)

また今回はPVも素晴らしい。往年のマーク・ロマネクの手による『BedtimeStory』とか『Closer』を思い起こさせるようなゴスでデモーニッシュな内容。

ただ、面白いのは実はこのPVで観た(聴いた)ほうがこの『I beg you』という曲はソフトになる(笑)。音源単体のほうが破壊力があるというのは上記の対談読めばある意味納得なのだが、ふつうはなかなかこういうことはないので、そういう意味でもこの曲は非常にレアケースだろう。ただ”プロモーション”という広く多くの人に知ってもらうという意味の映像としては、このPVはこれ以上ない抜群のさじ加減というかバランスだと思う。主演の浜辺美波さんのイノセントかつ妖艶さも垣間見えるこのお年頃ならではの美しさは必見でしょう。

PVはほかにもカップリングの『花びらたちのマーチ』のマーチも用意されていて、こちらはフォーキーかつほろ苦くも青春時代ならではのきらきらとしたまぶしさが表現されていてよい。歌詞になにげにコード進行があるのもいいな。実はしばらく前から登場しているこの明るい路線も、実は「アルチザン」としてではなく「アーティスト」としてのAimerさんのカラーの一つなのではと感じている。そしてこういう若い人たちによりそうような明るく素直な曲を出せるアーティストというのは意外と少ないのではとも感じているので、こういったカラーの作品が実は後々大きな意味を持ってくるかもしれない。

もう一曲のタイトル曲『Sailing』も映画の主題歌タイアップが決まっているそうで、それに見合ったスケール感のある良曲。ただちょっともったいなかったかな?と思ったのは収録曲順。上記の『花びらたちのマーチ』のあとに来ているので初回聴いたときに少し違和感を感じてしまった。単独で聞くと非常にいい曲なのだが、この曲を2曲目に持ってきたほうが流れとしてはスムーズでよかったのではないか。配信やスマホなどで通しで聞かれる方は一度試しに曲順を入れ替えてみていただきたい(笑)。

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