ファンクラブ盤を申し込んでいて、台風のなか佐川のお兄さんが届けてくれたのに、その後我が家のハードウェア周りの故障連発でレビュー遅れてしまった。時機を逸した感はあるが取り上げておく。
Aimer通算15枚目にしてデビュー7周年にあたるタイミングでの1枚。映画『累-かさね-』の主題歌で、作品の重さに合わせたかのようなハードなロックチューンの『Black Bird』をはじめ、昨年のシングル収録の『ONE』の路線を押しすすめた軽やかな一曲『Tiny Dancers』、そしてシングル『RE:I AM』のカップリングだった『今日から思い出』のPVの世界観シリーズである『思い出は奇麗で』を収録。そしてその『今日から思い出』も「Evergreen ver.」として新アレンジでセルフカバー。
映画の主題歌への抜擢ももちろん、これだけリッチなシングルを切れるアーティストというのは昨今の音楽事情にあってはなかなかまれではないだろうか。それはこのAimerというアーティストが7年間という時間を通して積み重ねてきたものが決して空疎な一過性のものではなかったということを力強く示していて、それを体現した一枚になっている。
SME (2018-09-05)
売り上げランキング: 46
リッチなシングルと書いたがそれを体現するかのごとく全曲PVも切られてるわけですよ、すごいなあ。映画の本編を使う、ファンクラブツアーでのビデオシュート、アニメPVとコスパを考えつつも手堅く、それでいて決して貧相になっていないところからも、Aimerさんを取り巻くバックアップチームがうまく回転しているんだろう。そういった流れが確立しているというのがこのPVの充実度からも見てとれる。
そして今作でより一層確信したんだが、この方はいい意味で内面をさらけ出すという感じの「アーティスト」タイプではなく、自身に与えられた題材をどう表現するかというところでより輝きを増す「アルチザン(職人)」タイプのアーティストだと思う。
もちろん今後変わってくることもあると思うんだが、ベストアルバム前後からの『凍えそうな季節から』(ドラマタイアップ)や『花の唄』(アニメ映画主題歌)など、既にある物語に寄り添い、それをどう語り、どう表現するのかというところでより切れ味を増しているように感じる(このシングルでは『Black Bird』が該当)。今回の『Black Bird』でも映画のヒロインたちが互いに持ち得なかったものを相手に見出す葛藤を見事に歌詞にして描き出しており、それをその歌唱力でより一層の高みで表現している。描くものがはっきりしているので迷いがないということだろう。
かといってご自身の内製チームのオリジナル作品に魅力がないかというとそうではなく、こちらはこちらでご自身のパーソナリティから素直に発揮されるものがいい形で確立されつつあるように思う(『Tiny Dancers』『思い出は奇麗で』)。
そしてそういった両輪の真ん中にあるものがその「声」を中心としたずば抜けた表現力の圧倒的な進化にある。それをありありと見せつけてくれるのが、本シングル唯一のセルフカバーである『今日から思い出 Evergreen ver.』だ。
元々のオリジナル曲も独特の雰囲気があり、PVの破壊力もあって(泣)存在感のある一曲だったが、今回収録されたこのバージョンでここまで威力が増すとは正直予想外だった。収録されている全曲どれも素晴らしいのだが、旧曲にもかかわらずそれに勝るとも劣らない―とにかくその表現力の飛躍的な進歩がありありと聴き取れる、ほんと凄いなあ・・・。
要は全曲すばらしいといっちゃえばいいわけですな、うははははw
これまでももちろんいい作品をコンスタントにリリースしてきたアーティストだと思うんだが、どうもベストアルバム出した以降でまたちょっと次のレベルに突入しつつあるように思う。それをこのデビュー記念日7周年(※)という節目のタイミングにきっちりと具体化したシングルを切ってくるということからも、いまこのAimerというアーティストの実力がはっきりと分かる。
そういう意味では、いままで未聴で気になったという方にはこのシングルはもってこいの一枚かと思う、チャンスがあればぜひ聴いてみていただきたい。
※本シングルのリリース日は9/5、Aimerさんのデビュー記念日は9/7(2011年デビュー)
(↑こちらは「evergreen ver.」ではなく、元々のバージョン)