【レビュー】『レディ・プレイヤー1』スティーブン・スピルバーグ 監督

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日本産のものを含む膨大なサブカル作品への大胆なオマージュが話題となってる一作。当然気にはなっていた一本なので先日観に行ってきた。

結論からいうと、そういったサブカルへの愛あるオマージュは感謝以外のなにものでもない感謝感激であるが、よりこの作品を楽しめるのはむしろMMORPGなどのオンラインゲームにどっぷりとハマったことのある人たちだろう。その点も含めて観る側のバックボーンがかなりあぶりだされる一作かと思う。

ただ、そういったことを抜きにしてスピルバーグ監督らしい明るいエンタメ作品なので、変にそっち(サブカル)方面への期待をしなければ単純に楽しめる非常によくできた娯楽作品だ。


先に述べたように日本のサブカル―特撮やアニメの要素の大胆なフィーチャーが話題となっている一作。

なにしろAKIRAの金田バイクに始まり、デスノート、カプコン格ゲー、とどめに三船敏郎にRX-78ガンダム、それと戦うメカゴジラ!とてんこ盛りである。もちろんここに挙げた日本産のものだけでなく、洋画や洋ゲーなどのフィーチャーも多い―というかこちらのほうが比率でいうと圧倒的だ。個人的にはけっこうホラーやSF映画からの元ネタが面白かった。(AILEN2でおなじみのM-41パルスライフルが出てきたのにはニヤッとしたが、銃声まで全く同じそれというのはちょっと感動した)

ただ、こういったいろいろなオマージュ・引用が多用されている作品なので、それらの「ヒット率」というのはけっこう見る観客によって異なると思う。個人的に感じたのはなにげに本作がヒットするのは自分などよりもさらに高年齢層である’60年代生まれのいわゆる「オタク第一世代」と、逆にもっとあとの2000年代前後以降の若い世代のほうがヒット率が高いのではないかと思う。

なぜなら作中でバンバンかかる’80sポップスからわかるように、本作のそういったオマージュのコアになっているのは’80年代初頭~バブル期ごろまでのの古き良きポップカルチャーがメインになっているような気がするからだ。そのせいか、自分が観にいったときは自分より10~15年ほど年齢高めの中高年のジジババがなんかやたらと席を埋めていた印象が強かった。案外自分たちのような’70年代生まれというのはは全般的にブラインドスポットになっちゃってるのかもしれない。
(大胆に推測してみると前述の’60年代オタク第一世代的な層とその子供ぐらいのファミリー層が一番本作にはまるのかもしれない)

で、そういったサブカル的な要素を抜きに本作を語るなら、スピルバーグらしい明るい作風。いちばん印象が近く感じるのは、直接の監督作ではないが彼の代表的なプロデュース作品である『バックトゥザフューチャー』のそれ。(主人公の愛機はデロリアンだし)

『バックトゥザフューチャー』はなにげにダメな主人公の少年が別な「場所」を得て活躍する、という構造だが、本作もそういった構造を結果的に踏襲している。そういう作風もあってか、いい意味であまりむつかしい脚本にはあえてせず、非常に王道な感じの物語の作りだ。主人公を助けるどこかデコボコでも温かい仲間たちとわかりやすい悪役、世界を変える可能性を秘める「鍵」を探す過程で、ダメ主人公はちゃんと立派な主人公へと成長していくというお手本にしたいぐらいのビルドゥングスロマン。まさにいまこの21世紀初頭を生きる、普通の善男善女のための安心して見れるファミリー映画といってもいいかもしれない。

ただ本作は舞台がどうしても仮想ゲーム空間がメインの舞台となるので、予告から感じる大作感よりはコンパクトな作品とも感じた。こういった仮想-電脳空間と物理空間が設定されている作品としては『MATRIX』などもあるが、せっかくのその二面性を本作ではあまり大きくは活用していない。これは前述のようにあえて難しい脚本にしてなさそうだということもあるが(ターゲットのハードルを下げたということだろうが)、せっかくの舞台装置ではあるので、仮想←→物理を使ったアイディアはもう少しウェイトがあってもよかったのでは。すこしもったいないような気もする。(もちろんそういった要素はちゃんとあるんだが、あまりひねりが入ってないということ)

そしてそういった仮想空間という点からすると、実は本作は前述のようなサブカル作品からの引用/オマージュよりも、MMORPG的なゲームの経験ある人のほうがぐっとくるのではないか―この点は意外と指摘されていないようなので言っておきたいポイント。自分もかつてFFXIで一時期MMORPGは体験したが、あの時の感情がよみがえってきましたよ、ええw仲間とのやり取りとか仮想空間内での待ち合わせとかね。

主人公がヒロインと仮想空間でのアバターでしか知らない段階で恋に落ちるのだが、その際に主人公の親友が「中身がどんな奴かわからないのに」的な突込みをするが、このあたり典型的なネカマ問題の流れでうまいなというかお約束というか(笑)。もちろんエンタメな本作ではちゃんと美人なヒロインが待っているワケだが、これがほんとにむくつけきおっさん出てくる作品がでてきたときがこういった作品は次のフェーズに入るのかもしれない(違

そしてそういうところを踏まえて、落ちは「リアルも大事にしましょう」という無難なところで落としているが、これもファミリー層向けのエンタメ作品としては王道中の王道の正解かと思う。
とにかくいい意味であまり無理やりひねったところのない、明るく王道なエンタメ作品、そういった印象だ。

とはいえ、やはりこれだけ日本のサブカル大フィーチャーしてもらえたのは感謝感激。若干その挙動に突込み入れたくなるところがあるとはいえ(笑)、やっぱりあれだけガンダム大フィーチャーは軽くガノタ入ってる世代としては感涙ですな。あと個人的にはやっぱり『シャイニング』ネタ(笑)。あとチャッキーとか前述のAILENとかなにげにホラーネタがあったのも面白かった。

そして実はまだまだこういった小ネタとして使えるであろう作品はこの世には膨大に存在するわけで、案外この作品は今後量産される系統のその最初の一本―その「ジャンル映画」としての今後ひな型になるかもしれないな。

いや、なにはともあれ単純に面白かったです。

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