吉田聡作品を読む

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bookwalkerでようやく小学館作品を扱い始めたのでこの機会に懐かしい作品を。
蔵書の電書化で悩みの種だったのが小学館の作品が一向に配信されてなかったこと。加えて自分は中高生の時は少年サンデー読者だったので読み直したいもの多かった。

小学館系で読み直したかったものに、この吉田聡氏の作品群があった。世間的には『湘南爆走族』などが著名でいわゆる「ヤンキーマンガ」的な作家ととらえられがちだが、実はそれはかなり的外れな認識で、その暴走族・ヤンキー文化的なものは些末なディティールにしか過ぎない。

その本質は非常にリリカルかつ繊細で、そこに男気的な熱さが加わる。宮崎駿氏が巻末に解説を書くこともある作家であると書けばその点ご理解いただけるのではないか。

Birdman Rally 鳥人伝説
Birdman Rally 鳥人伝説

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小学館 (2017-03-03)


上述の宮崎氏の解説があるのはこの『バードマン・ラリー』。人力飛行機で空を飛ぼうと挫折を繰り返す少年とその腐れ縁の幼馴染のワルのエピソードを筆頭に、宇宙人とパシリのヤンキー、コミュ障の少年と全国をバイクで放浪するリーゼント男など、バディムービー的な作風が多い(これは吉田作品の多くに共通する特徴でもある)。特にいつもリーゼントで全国をバイクでさすらっている男とコミュ障少年との友情を描いた『ダッグテール』のリリカルさというのは本当に素晴らしい。男の不器用さと後悔故の優しさが胸にしみる。

本作はもともともう少しコンパクトな単行本で出ていたのだが、この電書版はその後に出たラーメン屋の兄弟や野球部青年たちの話し等を追加した増補版の電書化。この追加された作品群も非常に面白いのだが、テーマ性ということでは以前の版のコンパクトさも捨てがたい。ただし多くの吉田聡という作家を知らない未読の方にとっては、その作風を網羅した非常にいい入門作品集になっていると思う。読んだことのない方はぜひこの機会に手に取ってみていただきたいところ。

(こちらがオリジナルのバージョンで収録作品がやや少ないが逆にシンプルにまとまっている)


元々自分が吉田聡作品に最初に出会ったのは以下の作品。今回は予算の関係で購入しなかったが、これも非常にいい作品である。

天才少年・羽田と学校を牛耳っていたヤンキーのボス・苺谷。そしていつも「なんてついてないんだ・・・」と事件に巻き込まれる秀才・花田をはじめとする面々が、いろんなスポーツを転々とこなしていくというギャグマンガ。初見の時は「なんてキタナイ感じの画なんだ」というのが感想だったんだが、そんな感想は最初の数エピソードを読み終えたときにはどっかに飛んでゆき、いつのまにか本棚には単行本が並び、最終回にはもっと読みたかったのに!と悔しがったもんである。この作品はよりギャグよりの物語だが、それぞれのキャラクターたちのリリカルなエピソードとのバランスがとても良い。腹から笑って時にほろっとする、そして人として忘れてはいけない大事なことをシンプルに訴える、そういう作品だった。主人公・礁太郎とヒロインのあずさちゃんの体育館でのシーンは名シーンだと思う。


で、以下が今回『バードマンラリー』と同時に電書版を購入した作品となるが、実は下記の作品は当時掲載誌を購読していなかったこともあってか断片的にしか読んでいなかった。
しかし改めてこのタイミングで読んでみるとしみるしみる(泣)。掲載紙が少年誌ではなくヤングアダルト~青年誌ということもその理由かもしれない。(より大人向けの作品だったということ)

元ラガーマンのコッセツと元甲子園球児だったラッキューの二人が「なんでも屋」になり、いろんな人たちの問題を解決していく。そのなかで二人の背負った傷がそれぞれ明らかになり、なんでも屋でそれぞれの事件を解決する中で、二人も自分たちの傷と向き合っていくという、男たちの挫折からの再生を描いた作品。昨今の一部のいわゆる「意識高い系」の人にはわからないかもしれないし、負け犬の傷のなめあい的な評価がそういったメンタリティの人たちからは下されるかもしれないが、この作品のなかにはある種人生にとってかなり大切な真実が語られているように思う。かつて「男の子」だった擦り切れそうになっているおっさんにこそ読んでほしい一作。

かたやこちらはいまの時代となっては骨董品ともとられかねない「同棲時代」的作品の吉田版ともいえる作品。吉田作品でこんなに暗くて切実で、それでいてこんなにせつなさに胸を締め付けられるストレートな作品があるというのは不覚にも知らなかった。いやもうね、お金の無さや社会の軋轢をある程度通ってきた年齢の人間にはヒリヒリと感じるこの重み。だからこそこの二人の純愛が素晴らしい。吉田聡という作家は徹底的に男性性の作家かと思うんだが、本作に関しては女性のほうが読んでて胸が痛くなるんではないだろうか。ある意味マンガ的にカリカチュアライズされた作品舞台ともいえなくないが、そこに描かれている男女の互いを想うが故の葛藤のリアリティというのは圧倒的にリアルだ。名作だと思う。

ということで久々にまとまって読んだが、やはり吉田聡の作品はいい。
まだ未読の作品がけっこうあるので、徐々に読んでいきたいとは思っているのだが、この方代表作がけっこう多くてそのどれもがけっこうな巻数の大作が多いのだな・・・。ええ、徐々にやっていきますよ。(泣)

なにしろ基本的にこの方の作品にはほとんどハズレがない。ちょっと忘れていた昔の「熱さ」や「純」な気分を思い出したい方にはお勧めできる作家さんである。

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