【レビュー】『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ 監督

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作品のアナウンスがちらほらあった昨年ごろから気になってた一本。話題にもなっていたので月初に観にいってきた。

素晴らしい完成度の映画であったが、個人的にすこし期待していた路線とは違っていたので絶賛!という印象まではいかなかった。


おそらく冷戦時代?っぽい時代背景の世界観で、軍施設に運び込まれた半魚人と、その施設の清掃婦であるヒロインの悲恋をリアリティとファンタジーの絶妙なバランスをとりつつ描いた一本。

美術や人物造形、フィルムのカラーリングやライティング、そのあたりは間違いなく一級品で、昨年公開作品として欧米圏での賞レースでかなりの評価を受けていたのもうなづける。(アカデミー賞では作品賞・監督賞・美術賞)

事実フィルムの最初から最後までを通して徹頭徹尾デルトロ監督独特の美意識と世界観がきちっと貫かれている(一部話題になったカット・・・というかぼかしが入るシーンというのもまあ大きくそれを損なうわけではない)。

ということで客観的にみれば各賞の受賞、世間的な評価というのは至極妥当な一本。昨今にありがちな公開前後だけ話題になり、数年後には忘れ去られるといったタイプの作品ではなく、折々で思い返される独自性を持った作品だろう。

ただ・・・個人的にはその描かれている世界観や登場人物の造形のうまさという点には脱帽しつつも、実はあまり思い入れできない感じが途中からつきまとった―ある意味巧妙にこちらの共感を拒まれているというか。

で、それはなぜかと考えてみるに、ひとつは本作が徹底してマイノリティやフリークス側に立った作品であろうということ。これは悪意を持っていうのではなく、平平凡凡で良くも悪くも虐げられたり徹底して排除されるような経験を持ちえなかった自分のような人間にとっては、自己投影できるキャラクターがあまりいなかったから、ということだったのかもしれない。

ただこの点、同じようにフリークスで世間から追いやられる立場である者を、ファンタジー作品に仮託して描いた『シザーハンズ』なんかはツボハマりまくりでぼろ泣きだったりしたので、そこは少し解せない気もする。

ではほかに何か理由があるだろうか?と考えたときに思い当たるのが、やはり本作の核ともいえる半魚人の思考・感情があまりよくわからないということ。

もちろん作中、電撃棒で痛めつけられたり、つぶらな瞳でヒロインを見つめるところなんかはこっちも思い入れをしてみるのだけども、基本あまりにも半魚人としてリアルに描写しすぎたせいで、こいつは果たして人間と同じ思考パターンをする存在なんだろうか?と感じてしまったことは大きいように思う。(*1)

これは少し以前に話題になった「身体性」というキーワードに関心を持たれた方ならお分かりいただけると思うが、身体やフィジカル面での形状や形態というのは大きく思考を左右する―というか、そういった固有の身体性なしにしてはその思考自体も独立してはあり得ない。ようは思考というのは身体(からだ)-そしてその形に大きく引っ張られるのだ、という意識が自分の中には強くある。だから本作のような半魚人が人間を伴侶として選ぶというところがしっくりこなかったし、ましてや正直いきなり性行為するというところへ行くというのは思ってもみなかった(露骨な描写はなかったがセリフとかその他の描写みるとそういうことでいいのよね?)。思い返してみるとこのあたりで「ああ、これは自分の見たいタイプの作品と違うわ」とスイッチオフになった感じ。
(これは性行為という描写が悪いんじゃなくて、そこまでのプロセスが不明過ぎるといえばよいか―聞くところによると欧米圏では常に「いたしている」ことが夫婦の条件だみたいな社会通念があるとのことだが、この点が日本人の自分には理解しづらかったのかもしれん。これがメンタルのみのプラトニック的な描写で押し通していたならこの作品の印象はずいぶんと違っていただろうなとは思う)

で、そういう違和感はあったのだがシナリオの構成はさすがで、ちゃんと最後まで主人公たちへの課題の提示とその解決というセオリーを熟練の演出力で見せるので、ちゃんと最後まで見れるのはさすがだと思った。やっぱりプロ中のプロですな、デルトロ監督。

ということで自分のツボには入らなかったが、間違いなく高品質な一本だと思うし、ツボに入られる方はどっぷりと、あるいはえぐられるように虜になるタイプの映画かと思う。自分の場合は事前の期待値が大きすぎたというのもあるかもしれないが、やはり「すごく人を選ぶ一本」だったのではないか、というのが正直なところ。

で、この個人的な不完全燃焼感をどうするべえ・・・と思ってたらそれに対する答えを見せてくれるような一本が・・・(以下次記事



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(*1)
以前読んだ梶尾真治先生の『有機戦士バイオム』だったかと思うんだが、作中敵対するのがイナゴ型の宇宙人で(詳細は失念したが)結局形態が違うと思考も違う、相互理解というのは結局幻想にすぎない的な描写が確かラスト付近であって衝撃とともにすごく腑に落ちたのを覚えている。(衝撃・・・の理由の一つはあんなに泣ける作品連発されている梶尾先生がこういうシビアなものの見方を開陳されたということも大きかったと思う)

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