不覚にもボロ泣きしながら読んだ(苦笑)。
『REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)』
高橋たちとともにリハビリを続ける、元プロレスラー・白鳥。ほとんど動かないその下半身を隠しながら、彼は長年のライバル・マンバ松坂との宿命の対決を迎えようとしていた。
全く動かない下半身―そんな身体にもかかわらず、彼がリングに上がったその時から、「悪役(ヒール)・スコーピオン白鳥」は会場の空気を支配する。その彼の全精魂を投じた熱い戦いが、花咲、そして高橋の心にあった見えない分厚い壁を吹き飛ばしてゆく―。
いやー、本当に素晴らしい。
これぞまさに”The少年マンガ”とでもいうべき熱い、熱い展開の一巻。
これだけで一本スピンオフが作れるんじゃないか?と思うぐらい素晴らしい内容で、更に特筆すべきなのは、これだけの暗い要素が羅列されているにもかかわらず、その読後感がとてもポジティブであることだ。
内容としては、同じくプロレスというテーマでレスラーならではの深い心の奥の闇を描いた、かのミッキー・ローク主演の名作『レスラー』と内容がかなりダブる。
しかし『レスラー』が救いようのない暗さを描いて終わったのに対し、本作はまだおれは戦える、戦い続ける、というポジティブさに満ち溢れている。
作中で高橋たちは、偶然同じお守りを持っていたことで”三銃士”と名乗っていたが、それが名前だけでない、名実ともに、共闘する仲間としての”絆”ががっちりと結ばれたエピソードともなった。
そう、最大のポイントは、それが同情や憐みを共有するための慰め合いのものではなく、ともに人生をあがき、戦い続ける”戦友”としての絆である、ということだ。
いまの世の中に氾濫する「友情」や「絆」という言葉は、そのほとんどがうわべだけの美辞麗句だ。
その言葉が発せられる回数に反比例するかのように、それらはそう容易くは手に入るものではない。
それは長く時間をかけてゆっくりと築き上げていくか、本作の白鳥が示したように、大きな熱を持った感情を―ある種の死線をくぐるようなそれを―ぶつけ、共有する機会を得るしかない。
その”熱”にぶち当たった時に、それぞれの持っていた弱さ、その弱さが時として誰かの支えとなり、それが皆の心のなかにあった、分厚いガラスの壁をぶち壊してゆく。
確かにストーリーの大筋は、冷静に見てみるとスタンダードなそれと言えなくもない。が、その身体性をありありと感じさせるずば抜けた画力と、細やかなストーリー上のディティールへの目配りによって、軽々と一つ上の次元の作品として存在している。
このあたり、井上氏の脂の乗り切ったマンガ家としての技量が、憎らしいぐらいに発揮されているといっても言い過ぎではないだろう。
”王道”
特に本巻からは、その言葉を強く感じる。
素晴らしい一冊である。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正