『シェイプ・オブ・ウォーター』の消化不良感を感じていたところ、おなじく人外の存在との恋を描いた作品が公開中らしいということで先日帰阪中に観にいってきた。
結論としては『シェイプ~』とは予算もクオリティもくらべものにならないクソチープなカルト映画という感じなんだが、不思議と自分にはこちらの作品のほうが感情移入できた。ある意味満足感という点ではこちらのほうが圧倒的に上という奇妙なことに(苦笑)。
こういうことがあるから映画ってほんと面白いよなあ・・・。
こちらも舞台はおそらく冷戦時代、場所はポーランドのナイトクラブ。このナイトクラブ文化というのが共産圏であった時代のポーランドでは特別な存在だったらしくて(ダンシング・レストランというらしい)、もとは音楽担当の姉妹がそういう文化の中で育ってきた(親がミュージシャンだった)そうで、元々そこから本作の企画がはじまっているとのこと。
そういうナイトクラブを回るミュージシャンの3人組がある夜水辺で遊んでいたところ二人の姉妹の人魚を拾ったことから物語が始まるのだが、こちらはいい意味で設定ガバガバというかゆるいというか、二人は人間の姿になれるのだが、水をかぶると下半身が人魚の状態に戻る=人と人魚の形態を行き来できる。結果、その物珍しさと魅惑的な歌声を見込んだクラブのオーナーが二人を3人組につけて大々的売り出そうとして二人は人気者になり、姉のほうが3人組の一人イケメンのベーシストと恋仲になるのだが・・・。(上記トレーラーの字幕は姉と妹間違ってるっぽい?)
本作の人魚姉妹は、基本的にはアンデルセンの人魚姫的な存在のようだがいろいろな水妖妃たちの属性を持たされている(歌で人を魅了するのはセイレーンだし)。面白いのはそういった超音波っぽい音で姉妹が会話する描写があったり、人に襲い掛かるときは獣のような咆哮だったり―そう、この作品は非常に音・音楽がポイントで、ミュージカル的な演出も多く、半ばミュージカル作品といってもいいかもしれない(サントラも絶妙なバランスのチープさのある電子サウンド等、作品にすごくマッチしている)。
そして人魚姉妹とならんでドラマを動かすのが3人組のミュージシャンなんだが、この場末感というかドサまわり感というか―ちょっと歳のいった女性ボーカルにおっさんのドラム、比較的若いイケメンベーシストなんだが―こいつらがそれぞれ適当に関係持ってるところがもうダメさ加減満載(しかし歌だけはしっかりとした歌います的なところもいいw)。そういった怠惰な共生関係のところへ異物としての人魚姉妹が入り込んできて・・・・・当然なにごとも無いはずもないですわな。
本作がある意味『シェイプ~』と対照的なのは予算やクオリティだけでなく、その登場人物の描写にもいえる。『シェイプ~』が敵役とヒロイン側で比較的きれいに善悪きっちりと分かれていて、味方はマイノリティで虐げられているが魂のきれいな人たちばかりという描写・・・ある意味カリカチュアライズされた、寓話的な造形であるのに対し、本作の登場人物はそんなにシンプルでなく、出てくるやつら全員が微妙にクズな感じで、そこに妙に生々しいリアリティがある。(このあたり以前働いていた職場の友人たちがこういったミュージシャン的な人種が多かったから余計にそう感じるのかもしれない)
そして本作と『シェイプ~』の最大の違いは、こちらは人魚側に思い入れができるというか、その思考・なにを考えてるかというのが分かるということ―この違いはデカい。
彼女らは半人半獣のような存在だが、人語を理解し人から隔絶された存在でなく人の世の周縁に生息する存在である、というのが納得できる(このあたりがこの作品のガバガバさの最大のメリット―『シェイプ~』はこの点半魚人の造形をマジメにやり過ぎたのではないか)。
また直接は言及されてはいないがおそらくその寿命も人間よりははるかに長いのだろう―故に永い時間を姉妹二人だけで生きてきた。そこに現れる若いイケメンの人間の男―ここで二人の間に亀裂が入る。結果的に人間のほうも、人魚のほうも、これまで怠惰ゆえに安定していた関係性に亀裂が入ってゆく―その亀裂がなにをもたらすのか―それがこの映画のむかう結末だ。
そしてこの人魚の姉妹―人間に恋する姉のとる行動はふつうに恋する年頃の女の子のそれ・・・なんだがここでも出てくるのがセックスの問題。欧米人好きねえ!?(苦笑)というかこのあたりは恋愛には必ずそういうフィジカル面を伴わないといけないという一種の強迫観念みたいなのがあるのかな(*1)?でお姉ちゃん、なかなかブッ飛んだ選択をするわけですが、このやりすぎがイケメンベーシスト冷めさせる原因になってしまい・・・。
残念ながら、本作はこのベーシストの兄ちゃんの理不尽冷め前後のあたりからちょっと脚本が雑になってくる。尺の関係などもあったのかもしれないが、それまでは比較的わかりやすかったこのベーシストの兄ちゃんの感情描写が唐突に全く見えなくなってしまうのだ。この点すごく惜しいように思う(この前後から兄ちゃんの表情が仮面のようなポーカーフェイスになるのでこれも演出かもしれないのだが)。
そして姉人魚の恋の結末を描いて本作は終わるわけだが、その理不尽さに一矢報いてくれるのが妹人魚なわけですよ。中盤ではそこらで人間喰い散らかすわ姉妹ゲンカするわなかなか攻撃的で感情移入しにくいキャラだったけどもこのラストは拍手喝采!この描写は『シェイプ~』の稿でも書いたが、形質・形態の違う存在が果たして人間と同じ思考を持ちうるのか?という点でも意外と整合性が感じられて、長く孤独に二人だけで暮らしてきた姉妹というちょっと百合っぽいニュアンスも絡んで非常にカタルシスがあった。このラストが自分の中では本作のほうが満足度高かった大きな理由の一つかと思う。
本作は2016年公開の作品らしいが、2017年公開の『シェイプ~』といい対(つい)になってる内容に感じられて、このタイミングでこの作品をぶつけてきた配給の担当の方はすごくいいセンスをしてらっしゃると思う(もちろん興行的な便乗を狙ったというのも当然あるだろうが)
最後にサントラも買っちゃったので少し紹介しておく。
Rambling RECORDS (2018-01-24)
売り上げランキング: 1,709
ざっくりいうと、レトロ感のあるデジタルポップがメインの一枚。サントラではあるがボーカルトラックがほとんどなので、普通のポップアルバムとして聴ける。ディティールは全く異なるが往年のストロベリー・スウィッチブレイド的なものも感じる(ここも女性ツインボーカルだな)。
加えていわゆる「クラブ」ミュージック的なムードトラックもあり、全体的にほどよくバラエティ感があって、なにか作業をするときなどに流しておくのにもってこいかと思う。
聴いててなんかこんなアルバムあったなー?と既視感感じてたんだが、わかりました!これ『Sucker Punch』とおんなじ傾向の作品だったんだわ(邦題『エンジェルウォーズ』なんだがこのタイトルで損してると常々思う)。女の子たちが主役、ミュージカル要素、追い詰められていく人間関係、ある種のバッドエンド、残される存在etc・・・。
『Sucker Punch』はまどかの『叛逆の物語』公開時にその類似性が指摘されているのを知って観て以来、大のお気に入りの一本なんだが、本作もこれらの作品とある意味同系列の作品だったということか。それならこの謎の満足感も納得できる。
決して『シェイプ~』のようなA級作品ではないが、独特の世界観を持った一本なので気になる方はご覧になってみることをお勧めする。
ただB級作品や作品には緻密な整合性がないと萎えるという方にはあまりお勧めしない。そのあたりを気にせず、作中で描かれている空気感を楽しめる方なら、なにかしら印象に残る一本となるのではないか。
(*1)
ただし本作は恋する女の子ゆえの切実さというか、愛する恋人にできるだけ尽くしてあげたいという年頃の女の子らしい描写があるので、『シェイプ~』のそれと違って非常に自然で、唐突感などは一切ない。