公開前の前評判がすごく良くて気になってた一本。加えてこういったアメコミヒーローものとしては異色の女性監督作品ということで見ておきたかった。
結論としては、こういったアメコミ原作の映画化作品のなかでは突出して出来のいい一本だと思う。
クリストファー・ノーランによる『ダークナイト』的なリアル志向アプローチとはまた違ったベクトルになるが、作品としてのリアリティとエンタメ性のバランスが絶妙な一本で、これは劇場で見ておいて大正解だった。
この最近のDCリブート系の作品はなんだかんだで観ていて、本作の主役、ガル・ガドット演じるワンダーウーマンも実は以前観た『ジャスティスの誕生』で登場していた。
その時に印象は「さすがにこの衣装はちょっときついなー」というのがあったんだが、本作は時代を現代からWWIの時代までさかのぼり、その彼女の故郷の描写から丁寧に行うことによってその違和感を拭い去るのに見事に成功している。
加えて第一次大戦のころを舞台とすることで、いい意味でちょっとスチームパンクっぽい感じの世界観にもなり、アメコミヒーローという作品の根幹でありつつも最大の異物でもある存在を、うまく作中の中に溶け込ませている。この切り口の発想は見事だった。
そしてその違和感の解消に大きく貢献しているのは主演のガル・ガドットの長い手足から繰り出されるスピーディーなアクションと、違和感のないバトルシーン。これはガドット嬢のシーンだけでなく、冒頭のアマゾネスたちの島での戦闘でもがっちりと底を割らずに描写されており、そういったところにきっちりと手間をかけていたのもポイントだろう。このアマゾネスたちの多くは生身の役者さんがきちっと演じていると思うので、そういった生のアクション部分も目立たないがポイントだったのではないか(砂浜をかける騎乗による楔形突撃とか見せ方といい非常に見事だった!)
ストーリー的にも実は非常にスタンダードというかオーソドックスで、そういった女人ばかりの世界で育った世間知らずのお嬢様―だけど人一倍正義感の強い―ダイアナが初めて世界=現実と出会い、挫折し、成長していくというビルドゥングスロマンの型をきちっと踏襲していて、またその描き方が主人公、監督が双方女性のためか、清潔感と繊細さがあって非常に心地よい―泥臭くない・清涼感があるとでも言えばよいか。
そして個人的にこの映画がどツボたっだのはそういった清涼感に加えて、ダイアナと恋仲になるスティーブとの最後の別れのシーン。あえて聞こえない、聞こえさせない、あの演出のうまさ、現実主義のスティーブが敢えて選ぶ最後の決断―このあたりが個人的には非常に好きな型のキャラクター描写だったのでもうここだけでも大満足でしたわ。そしてそれを踏まえた余韻のあるラストもいい。ちなみに冒頭とこのラストで出てくる古びた写真というのは実際の当時とおなじ撮影方法で撮った一枚だとのこと。
とまあこんな感じで大満足の一本だったわけですが、興行収入もかなり良かったらしく、すでにこのチームでの続編企画は動き出している模様で非常に楽しみ。ただ、アメコミ作品の通例にもれず、同系統のほかの別作品とのコラボ前提でのリブート企画のシリーズでもあるようなので、そのあたりとの整合性が今後の続編にとってどれだけ足かせになるのか、そのあたりはちょっと気になるところ(本作でもやはりラストカットはちょっとアメコミっぽい決めポーズでのラストだったのが少しもったいなかったと思うし)。
邦画でもマンガやアニメの実写化は企画されてはコケ、企画されてはコケを繰り返していると思うが、本作を見て思うのはやはり実写映画は役者さん―そしてそのフィジカルのアドバンテージがすごく大きいな、ということ。本作もこのガル・ガドットという女優がいなければジェンキンス 監督がいくら有能でもここまでの作品にはなってなかったのではないか。
皮肉にも我が国でのそういう役者層の厚さのちがい(薄さ)というのは、今回上映前にながれた邦画作品の予告編を見ていてよーくわかった。たまたま邦画の若い人向けと思われる作品の予告がたくさんかかったんだが、そこに出てくるイケメン優男俳優さんたちのなんとヒョロヒョロなことよ。その後みた本編冒頭のシーンが例のアマゾネスたちの島での訓練シーンのたくましさだけに、その生物的な脆弱さが余計に目に余りましたわ(苦笑)。まあそういう害のない・生命力のなさそうな男のほうがもてる、というのは時代がそういう平和な時代であるということでしょうな。それは一概に悪いことではないとは思う。
ただそういう脆弱そうな男たちに、本作の主人公であるダイアナちゃんは決して惚れないと思うのよね。