例えばそれを君が愛と呼べば、僕はまたひとつ罪を犯す/シベリア少女鉄道 vol.28

標準

ずいぶん前に友人のY氏にお誘いいただいてみたことがあった劇団なんだが、その時の印象が強烈に残っていて、その名前がしっかりと脳裏に刻み込まれたシベリア少女鉄道。

先日たまたまeプラスか何かのニュースメールでチケット発売中と聞き、申し込んでみたらなんとうまく取れたので先週木曜日に赤坂まで観にいってきた。



赤坂はいつも行くたびに謎の街で、これだけ迷う街は自分的に珍しい。そしてなぜか雨が多い―ということで小雨の中、ネオンの光るメインストリートの中、赤坂REDTHEATERまで。いや、今回はあまり迷いはしなかったんですけどね-それでも事前にみたGoogleMapと自分の中の記憶のそれが一致しなくて困った(苦笑)。



会場のREDTHEATERは今風のこじゃれた感じの小劇場。さほど大きくないが、演劇用の小屋と考えると標準的な大きさ-なにより清潔で綺麗なのが良い(笑)。
で客席もほぼ満員で20時からの開演はほぼ定刻どおりにスタート。

前回見たときにその立体パズルのようなシナリオ構造・・・というか生の舞台ならではの仕掛けというかな-それが強烈に印象に残っていて、いつかもう一度見たいなとずっと思っていた。今回それがようやくかなった形となったが、ほんとここは脚本というか、そのギミックが凄い。いわゆる演劇・劇団界隈を詳しく知っているわけではないので、ひょっとするとほかに似たようなことをやっているところもあるのかもしれないが、だとしてもこの劇団ならではの脚本のオリジナリティというのは観客に強烈に印象付けられるのでは。

最初は非常にオーソドックスに-というかともすれば俳優陣のテンションの低さも相まって陳腐とすら言いたくなるような展開が延々と続くのだが、それはあくまでも観客側に後半の時空間の混乱をもたらすための共有されるべき前提の提示であって、もしこのあたりで席を立ってしまうとこの劇団の真価はわからないままだろう。

そしてその陳腐ともいえるオーソドックスな-その陳腐さゆえにすこぶるわかりやすい-前提としての物語を観客がしっかりと共有し始めた中盤~後半あたりから、舞台上の時空間がどんどん歪み、混乱が襲ってくる。そしてその傍若無人な混乱ぶりの中で観客は爆笑の渦にまんまと誘い込まれるという(苦笑)。

自分はこれまでさほど多く演劇・舞台を見てきたわけではないが、それでもその舞台装置をうまく使った生の演劇ならではの空間演出というのは都度見たことがある。が、この劇団の凄いところはそういった舞台装置を使った空間の延長・伸縮・跳躍的なことを、シナリオでも行うのだ-これがこの劇団最大の売りといっていいだろう。
ご覧になられたことのある方なら、この説明だけでご理解いただけると思うが、とにかくその縦横無尽さ・エントロピーの拡散とでもいうべき舞台上の物語空間は、いくら言葉を尽くしてもうまく説明できない。あえて近いものを上げるとすると、手塚治虫のマンガによくあるヒョウタンツギが各コマの柱をぶち破ってページ内を飛び回るあの感じが一番近いように思う(笑)。いやー、とにかくいい意味で頭使う、というかこんな脚本書ける方の頭の中を一度覗いてみたいもんだwそういいたくなるような独特の脚本・進行なのだ。

そして前回見たときにも感じたんだが、何気にここの舞台の特徴として、最後まで見たときにいわゆる悪役・憎まれ役的な印象をもったまま登場を終えるキャラクターがほとんどいない、というのが何気に素晴らしいと感じる。今回もヒロインと立場にモノを言わせて無理やり結婚した上司の役なども、前半こそ憎々しい感じのキャラクターとして描かれるが、それが物語のクライマックスでの錯綜の中ではなんと愛らしいキャラクターとして映ることよ!?(笑)そういうよどみを残さず、かつストーリーテリングとしてもきちっと落とし前をつけるところはつけて舞台は幕を閉じるので、クロージングをきちっとやってもらえる爽快感がちゃんとあるのもいい。そう、一見アバンギャルドで支離滅裂に見える舞台だが、ちゃんと本質としてはエンターテイメントである、というのを外していないのだ。

ということで運よく久々にみれた舞台であったがなかなか楽しかった。前回誘っていただいてみた際の演目が、どうもこの劇団の代表的な作品だったようで、そのシナリオの完成度に今回のそれは及んではいないとは思うが、それでもこのレベルまでのシナリオの舞台というのはなかなか見れるもんではないんじゃないかな。

そしてやはりこれは生の舞台で見てなんぼの内容のように思う。演劇や舞台ならではの”空気感”のようなものということももちろんあるとは思うが、この劇団の場合はよりいっそうあの生の独特の時空間を共有して、初めて「観た」と言えるのではないか。

こういった脳みそをいい意味でシャッフルし、シェイクしてくれるような舞台というのはなかなかないと思うので、興味のある方はぜひいちどご自身で脚を運んでご覧になることをお勧めする。なかなかこういう体験ができるものというのは他のメディアではないのでは?-というか構造的に成立しにくいな。

この舞台上で展開されるような人の「認識」のシャッフルは、体験したことがあるかないかで、ずいぶんとその後のものの見方が変わってくると思う。
繰り返しとなるが、お時間がある方はぜひ一度ご覧になってみることを強くお勧めする。

あーおもしろかったー!


※まだ6/4の終演まで少しあるのでe-plusあたりでチケットとれる可能性もあるかと思う。


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