『キャロル』/ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ

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ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラという個人的に以前から注目している役者さんが二人そろって主演ということであれば、これは是が非でも観ねばなるまいと思ってた。で、なんだかんだ終映日ぎりぎりに観てきました@東宝新宿
carol


事前情報はほとんど調べずに観に行ったんだけど、ケイト・ブランシェットが主演という時点で外れはないだろうと思っていたが、その期待は裏切られなかった。ただしもろ直球のレズビアン的な部分もある映画とは思っていませんでしたが(苦笑)。

舞台は1950年代アメリカということだそうだが、もろにそれ風という感じは意外に感じず主演の二人のカラーがあるのかもしれないが、ちょっとヨーロッパ風にも見える美術だった。

デパートの販売員だったテレーズ(マーラ)が顧客であるキャロル(ブランシェット)に忘れた手袋を郵送したところから二人の関係は始まるのだが、本作が凡庸でないところは、単なる同性愛テーマ的な映画というわけでなく、結婚を控えたテレーズの、言葉にならない自分でも把握できないある種の不安感の描写や、ブランシェット演じるキャロルが社会の道義的な側面からみれば逸脱しているキャラクターであるにもかかわらず、その人としてのまっとうさを感じさせる人物として描かれているところだろう(子供を本当に心から愛し、配偶者にも敬意を持っては接しているところ等)。ここにLGBT云々というポリティカルなワードを絡めてマイノリティの権利ガーと描写することも可能だろうが、本作はそんな小賢しいことはしていないところが素晴らしい。要は人格と人格が惹かれ合うという描写になっていると言えば良いか。

そういう意味では同性愛というキーワードは実はディティールであってテーマではないのかもしれない。そうとらえれば非常にまともな恋愛映画とも言えるが、これが成立しうるのもやはり主演のお二人の演技力と品格あるいはその存在感故だろう。
(これがどちらかでもがペラい俳優でやっていればここまでの空気感は出なかったと思う)

ただそこを考えると(これが欧米と日本の考え方の違いかもしれないのだが)物語の展開上必須であったとはいえ、途中でとうとう二人が関係を持ってしまうことが個人的には惜しいというか「あちゃー」という感じではあった(ブランシェットのたくましい背中の筋肉が余計そう感じさせたのかもしれない、まさに肉食という感じでしたw)。この描写がなければ、上記のように「人格と人格が惹かれ合う」という非常にきれいな関係性のままで共感できるところも多かったろうかとは思う。

しかしその一夜がきっかけとなって物語は一気にクライマックスへなだれ込むわけだが、ここは確かに映画を終わらせるためには必須であったとはいえ、正直前半の互いの心理的なやり取りのシーンの方が良い意味で緊張感があって個人的には見応えがあった。

そしてその山場となる急展開を終えてのラストシーンはなかなか余韻というか含みを持たせた見せ方の演出でここは素晴らしかったと思う。ひとえにこれはなんか見ると祟られそうな(笑)ケイトブランシェット様のあの妖艶なニターッとした魔の微笑みの蠱(まじ)な魅力故だろう。ほんと品と妖艶さと気高さが同居しているというすごい女優さんだと思う。

方やそのブランシェット様に劣ることない存在感を示しているルーニー・マーラちゃんも素晴らしい。
このかたの名前を意識したのはフィンチャー作品からなんだけど(ドラゴンタトゥーの女等)、抜けるような美形というわけでないのに非常に可憐な雰囲気と、そのルックスから想像できないかなりハードな役柄をけっこうやっている女優さん。ぱっと見には華にかけるように見えて実はすごく作品の中で光り輝くタイプ。この地味さと華の複雑なミックス具合が、作品に奥行きをもたらすという希有なタイプの女優さんかと思う。これまでは見せ方によっては一時期のナタリー・ポートマンに見えるようなルックスでもあるんだが、本作見てて一番「ああ、そうかも!?」と思えたのはオードリー・ヘップバーンっぽいということだった。これは本作の時代設定とその美術からくるものかもしれないが。

そしてこの二人に共通して言えるのはその「眼力(めぢから)」の強さ。

ブランシェット様はその積み重ねてきた年輪で、マーラちゃんはこれはその奥に潜む知性の力だろうか。眼力つよい女優さん大好物な自分としては非常にごちそうさまな感じでした、満腹満腹(笑)。

ということで、いろいろデリケートな要素が含まれているテーマの作品をここまでの厚みと複雑さを上品に仕上げているのは素晴らしいと思う。こういう言外の厚みを感じさせる映画というのは、残念ながらまだまだ邦画ではむつかしいだろう。

繰り返しになるが、本作で取り上げられている同性愛的な要素の部分というは実は些末なディティールにしかすぎないように思う。そういう意味では非常に見応えのある人間ドラマとしての一本、見ごたえのある作品だった。

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