ロスト・イン・トランスレーション/ソフィア・コッポラ監督

標準

年末年始でレンタル50円をいいことにいろいろ借りてたら通常の月極レンタルのヤツもきていささかギャフンな感じで消化が間に合わん(苦笑)。
ずいぶん前の映画になるが、日本を舞台とした映画ということでは必ず名前の挙がる一本。

以前にも知人から貸していただいたことがあったのだが、途中のプロセスがしんどくて最後まで見れず。今回改めてリベンジ。
そして冒頭の良いお尻が今や大スターであるスカーレット・ヨハンソンだといまごろ知るなど、そりゃよいお尻なはずだわw

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]
東北新社 (2004-12-03)
売り上げランキング: 11,108

かつての映画スター、いまはCMタレントとして日本のそれに出演するボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は自らの家庭への葛藤を日本という異文化の中でより募らせていた。同じくパークハイアットに同宿の偶然知り合った若いアメリカ人女性・シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)も結婚したばかりの夫との関係に先を見いだせず葛藤を抱えていた。いく度かの会話を交わしていくうちに二人の距離は急速に近づいてゆくが・・・。


本作はソフィアコッポラの脚本賞や作品賞をはじめ、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソンも各賞を受賞しているようだ。しかしその割になにかと賛否両論なところもある作品のようでそれはなにかと思えば、日本人からすればある種日本のおかしなところを誇張していると思われる部分や、海外の方からすればよくある異郷でのセンチメンタリズムだけではないか云々ということらしい。

今回初めて通しで最後までみて、それらの言わんとするところはわからなくもないが、全体的にこと日本社会のディティールに関しては非常に現実に即して描写しているように思う。だからこそその切り取り具合に「そこばっかり切り取らなくても」といいたくもなるんだろうが、異邦人から見る日本というのがこういう姿である、というのはある意味正しいような気がする。

そしてヒロイン・シャーロットの悩みもその若さで既に結婚しているということならではのリアリティがあるし、ましてや主人公ボブの悩みというのはこれまでも多々語られてきた非常にオーソドックスなものだろう。
そういった普遍的な葛藤を、西洋から見てエキゾチズムをもちつつも西洋的な近代社会をも持ち合わせた日本という異郷のなかで彷徨(さまよ)わせてみることによって、二人の葛藤と近づく心の距離の描写にある種なんとも言えないセンチメンタルな空気を描きだせたというのはいってよいと思う。海外の方のいう「異郷ではよくあるセンチメンタリズム」云々も分からなくはないが、それは本作でのテーマの核心を描くためのディティールにしか過ぎない。

個人的にはこういうリアリティのある登場人物たちの葛藤を描くという物語は実はすごく苦手な部類の作品。見ていると感情移入してしまってこっちまでつらくなってくるから。
加えて本作はありがちななにが正解という分かりやすい結論をみせるわけでもなく、現代社会に生きている誰もが多かれ少なかれ抱えつづけていかざるを得ないだろう葛藤を、日本というエキゾチックな舞台でより浮き彫りにして、物語の終盤まで淡々と進む。そして―。

そしてそのエンディングロール直前の僅かなシーンがそのそれまでの葛藤のなかに一瞬だけの鮮烈な灯りをともすのだ―これは凄いわ、なかなかメジャー志向の凡俗の監督ではここまで我慢してこの終盤まで耐えきることというのはできないと思う、それにはすごく勇気がいる。

そこをソフィア・コッポラは持って生まれた度胸か天分か、或いはまだ浅かったキャリア故に撮り得たのか。
なんにしろこのラストシーンが故にいまに至るまで多くの人に語り継がれる作品となったのは間違いないだろう。
その顔に年輪を刻みこんだビル・マーレイもいいし、若くて可憐なスカーレット・ヨハンソンも良い。途中まで正直見てるのがつらかったのは事実だがこのほろ苦いラストシーンで全部OKだ。

別れがあるからこそ輝く瞬間というのがあるのかもしれない―ひさびさにそういうことを描いてくれている作品のような気がする。

上述のような賛否両論、それもいいだろう。ただそれはやはり作品のディティールについてでしかなくこの作品の核心はありふれた―しかし大切な人と人との出会いと別れ―それがテーマだと思う。
甘口ではなくビターな感じだが素晴らしい一本だった。見ておいてよかったと思う。



ロスト・イン・トランスレーション [DVD]
東北新社 (2004-12-03)
売り上げランキング: 11,108

コメントを残す