正月だからなのかGyaoで視聴できるようだったので見てみた。
原作は読んでいたし、本実写劇場版も高評価というのは聞いていたが実はこれまで未見。なのでちょっと映画づけになりたい感じだったこともあり見てみた。確かにこれは傑作だわ。
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ストーリーやその他作品のディティール等はずいぶん前の作品ということもあり皆様ご存知であろうから省略する。
で、今回本作を見ていちばん強く思ったのは邦画においていわゆる「見れる」作品と「全く見れない」レベルの作品の違いというのは一体何なんだろう、どこにそのポイントがあるんだろうということ。
本作においてまず言えるのはキャスト陣の演技力の素晴らしさ。主演の藤原・松山両氏は確かに彼ら以外にこのキャストは考えられないくらいの名演、加えてなにげに月の妹役もよく見てみると満島ひかりか!?それらに比べて若干落ちるが戸田恵梨香もウザさとそれ故の真摯さということであれば熱演と言えるし、逆に作中に重みを加えるという意味では十分な役割を果たしていた鹿賀丈史だが肉親としての演技に関してはやや硬かったり、名優津川雅彦がやや軽躁に見えたりするあたりはおもしろい。
しかし実はこれぐらいのクラスの役者さんがそろっている邦画がほかに皆無といえばむしろそうではないわけで、そういうレベルの高い役者がごろごろいても駄作というのが邦画には腐るほどある。
では演出の問題なんだろうか?
本作はあの金子修介監督である。監督の作品を大量に見ているわけではないので断言できるわけではないが、いわゆる「平成ガメラ三部作」が金子監督のメガホンであったということあ考えれば、演出の部分が大きなウェイトを占めているということは言えるだろう。とくにこういうコミック原作という虚構性の高いものを実写化するには高いスキルが必要だと思うし、さらに本作のように派手なコミック的な記号の出てこない人間ドラマ中心の物語の中にぽこっと異界のものが存在しているという作品では、その映像的な構築はかなりハードルが高い。(CG部分は制作年度を考えるとハイレベルではあるが、いまこの時点から見ると当初は若干きつかった―しかしそれが結果的に作中に違和感なく収まるのはやはり演出力のたまものだろう)
そしてやはり最後に目が行くのは脚本=シナリオ。
このあたり原作が一種のミステリー/サスペンスものであるというところが有利に働いていると思う。またギミックやフックを大量にちりばめてある原作だったからこそ、そこを上手に取り込んだ上で刈りこんで、メインのストーリーラインを破綻なく、かつ説得力あるように持って行った脚本の力というのはやはりすごく大きいと思う。やはりここが最重要ポイントになるのだろうか?
とまあこういうふうに書きながらうだうだといろいろ考えてみたのだが・・・結論としては
「要は全部ハイレベルだったw」というなんのひねりもないところに落ち着きました(苦笑)。
そのうえで逆にいわゆるクソな邦画というのはどこが一番弱いのか?と考えると、やはり脚本力の弱さ・・・ということになるんだろうかなあ。
脚本がある程度以上のレベルであれば、余程クソな監督でない限りそこを活かした演出が出来るだろうし(逆にいうとそこに至って初めてその監督ならではの色を出す意味が見出せる)、そういう最低限理にかなった演出がされていれば役者が本当にコネだけで突っ込まれたガラクタのアイドル的な役者出ない限りストーリーの進行上支障にはならない-そう考えるのだが。
しかし以前どこかで読んだことがあるが、日本のTVドラマ・実写作品が膨大なマンガ・アニメ作品と比してなぜこれだけつまらないものが多いのかという理由として(特にTVドラマのそれは)「健全な競争にさらされていないから」というのを読んだ記憶がある。
世界の映画業界の総本山であるハリウッドは膨大な予算が流れ込むが、それに比してどんなに当たった俳優・監督でもいつ自分の居場所がなくなるかもわからない熾烈な競争原理の働いている場所。日本のマンガ業界等もその熾烈さではいい勝負だろう。それに対して日本のこういったTVドラマを中心とした実写業界というのは良くも悪くもそういった能力主義・競争原理ではなくプロダクションといった大手資本のパワーバランスの「調整」でスタッフが決められてしまうと聞く。
最近の例として、本作と同じく大ヒットしたマンガ原作から想像もできないひどいレベルで実写化した(らしい)「進撃の巨人」の例を見てもわかるように、少なくともそこでは「作品を面白くするための競争原理」ではなく「業界の利益関係者の意向」が最優先される。これではいつまでたっても大手資本の邦画のレベルは上がらないだろうし、なによりもお金を払ってくれる観客が「業界」の食い物にされるだけだ―そして賢い観客は当然そこから自発的離れていくだろう。
そういった状況を考えると、本作は「奇跡的」といってもいいレベルで「運の良かった」作品と言えるのかもしれない。
人気の、そしてちゃんと密度のある原作があり、ベテランの手練れの監督、そして実力派の俳優陣というのがきちっとそろえば、こういうハイレベルの作品を日本国内でも作ることが出来るわけである―その証拠に本作は海外でもかなり評価が高かったと記憶している。少なくとも邦画がハリウッドと競争とするならばこの作品ぐらいのクオリティが今後の最低限の「基準」ですらあるように思える。
「業界の利潤」という、タコが自分で自分の脚を喰うような非建設的な内輪の利益還元から脱し、観客もそして制作側もポジティブになれるようなプラスの循環に邦画業界が一日も早く向かってくれればなあ。
もちろん業界のことをよく知らない一素人の感想ではあるんだが、こういう作品が作れないわけではないんだということを知ると、そうぼやきたくもなる。
※個人的に改めてすごいなあと思ったのは主演の藤原達也。さすが若いころから舞台で 蜷川幸雄に鍛えられてるだけあって堂々とした演じっぷりは貫録すら感じられた。セリフが濁点だらけとかのネタみて笑ってほんとすいませんでしたw
対する松山ケンイチも最近の中堅どころでは非常に存在感のある役者さんだと聞いていたのでそれに違わぬ名演だったと言えると思う。特にこのLというエキセントリックな役のリアリティの有無が本作の重要なポイントの一つであったかと思うので、彼の存在が本作の成功要因の一つといってもいいかもしれない。
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