信長公記/太田牛一

標準

電書の悪いところは一冊読み終わったとしても「読み通した!」感が薄いことだなあ。
結果、なんだかんだ読んではいるんだけれど、それをちゃんと感想としてあげられていない感じ、反省。

現代語訳 信長公記 (新人物文庫)
KADOKAWA / 中経出版 (2013-10-25)
売り上げランキング: 9,551

いわずと知れた織田信長関連を確認する際に必ず出てくる一級史料とされる本かと思う。昨年のKindle角川セールかなんかの時にまとめ買いしてほっといたのをいま頃読んでみた。

以前から時々書いているように個人的に明智光秀周辺というのに興味があって。で、これもご存じの方はご存知のように彼のことをたどろうとすると必ずと言っていいほど信長のことをたどらざるを得ないわけで。

で、今回初めて昨今いろいろ巷にはびこる作品のある意味”底本”の一つとでも言う本書を読んでみたんだが、意外と世間にはびこっているイメージとは違うところ大きいなという感じ。

これはもちろん著者である太田牛一が信長の直臣であったという=信長アゲの視点で書かれているというところはあると思うが、一応その記述から読み取れるところにある種の一貫性が見てとれるというか。

ひとつは信長さん、いろいろと殺しまくっているような印象あるが、いちおうその殺しまくりがある種の宗教戦争的なところがあるなというか。
もっと正確にいうといわゆる”根切り”=皆殺し作戦というのは対宗教戦争というか徹底的にさからう・服従の意志が見られないor続きそうにない相手の場合に行われている感じ。また対宗教といってもどの宗教に対してというわけでもなく、筋が通っていないとか宗教教団のくせに政治に介入するとかそういう勢力に対して行ってるようだ。
(当然反抗勢力かつ倫理的に堕落しているところは躊躇なくやってる感じ)

このあたりは対宗教というか、一種の美学に基づいて罰していると考える方がわかりやすいかも。あと本能寺の変の原因考察の際にいわれる「無神論者で己を祭らせ、朝廷に取って代わろうとしていた」的な視点は本書を読む限りかなり疑問。もちろん本書著者がそういったところをあえて隠すように描いているかもしれないのだが、それだと意外なほどおおい朝廷への援助とかが理屈に合わない。

もう一つ意外だったのは―これは単に自分の不勉強が原因だったんだが―荒木村重の反乱に思ったより時間をとられていること、さらに石山合戦と呼ばれる対大坂石山本願寺との戦争が期間の長さの割にエピソードに乏しいな、という点。これは信長を扱った小説やエンタメ作品でもあまりたっぷり取り上げられてないわな―それも本書のこの記述の少なさがある種原因か。

さらには意外と織田家―信長の子供たちもボンクラではないというか、信忠に至ってはかなり有能な感じだし、加えて信長存命中からかなり権限移譲もされてたっぽく読める。そういうところからすると、信長一人が突然変異的に発生した、というわけでもなさそうだ。(もちろん偉人であり異能の人でもあると思うんだが)

で、本書から見えてくる信長像というのは巷間にはびこる突飛でエキセントリックな人物像のそれではなく、当時としては頭一つ抜けた合理的精神と強い美意識の持ち主というところかな。意外といい意味で普通の武将の部分も大きかったのではないかと。

もちろんそれでも当時の平均的な概念からするとすごく斬新で進取の精神に富んだ武将であったとは思う。

で、なんでそういう人物を明智は反乱を起こしてまで排除しようとしたのか?
このあたりは本当は明智側からの視点が必要かと思うんだが、反乱者の宿命か明智側の良質な資料というのはあまりまとまったものとしては残っていないのよね。

最近読んだネットでの面白い解説は、「本能寺の変」は実はすごく静かに行われて、エンタメ作品で描かれているような派手さがなく、粛々と実行されたのでは?的なのがあって「ああ、そのあたりが本当なのかもなあ」などと思ってもみたり。

とまあこのあたりもう少し本書のような現代語訳の資料を読んではみたいところ。
けど意外と出版されてなかったり、出てても高かったりするのよねえ。

悩ましいところではある。

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