以前の角川・ドワンゴ合併セールの時に買っておいて積ん読、ならぬメモリの肥しになっていたものをちょびちょびと。それを先日ようやく読了したのでレビューしておく。
『オーラバトラー戦記1 アの国の恋 (角川スニーカー文庫)』
大学生・城 毅(ジョク)は軽飛行機のライセンスを得るため滞在していたアメリカ西海岸で、後輩の田村 美井奈とバイクでタンデム中、オーラロードに引き込まれ、異世界・バイストンウェルへと召喚される。彼を呼んだアの国の地方領主・ドレイクは、彼と同じ”地上人”であるショットの作ったオーラマシンの騎士として彼を徴用する。ジョクは己のあずかり知らぬところでバイストンウェルの戦乱に巻き込まれてゆく―。
最初の発表は調べてみると1986~92年とあり、元作品である『聖戦士ダンバイン』とさほど間をあけずに執筆されていたのは意外だった。もう少し後だったような印象だったのだが、一つはスニーカー文庫収録にあたって2001年ごろに全面改稿されていたからだろうか。今回自分が読んだものはそのバージョンを底本としているようなので、それでも10年以上前の作品だ。
そして本作は上述のように1983年のアニメーション『聖戦士ダンバイン』のリライトであり、小説という媒体をとったことによって、監督が本来描きたかったであろうバイストンウェルの世界の物語がよりビビッドに出ている。
ストーリとしても基本は『ダンバイン』を踏襲しているとは言えるが、かなり大きく変更されているので、ある種パラレルの別バージョン的に考えたほうが良いだろう。ショウやシーラなどは出てこないがドレイク、ショットをはじめ、バーン、二―、キーン、マーベル、リムル、エレ、フォイゾン王、ローザ等は出てくる。
ショウはやはり本作の主人公・ジョクに投影されているように思うし、個人的にはジョクの内縁の妻・アリサになんとなくシーラ様の面影は投影して読んでみた。
(シーラ―≒アリサは違うような気がしないでもないが、ダンバイン=アニメ版のような聖性をもたされた部分を抜いて俗な身分へ落としてやるとアリサのようなキャラクターになるのではないか)
で、一度書いたものをリライトしている―元となった『ダンバイン』からすると三度目のリライトになる―ので、話としてすこぶる面白い、というかぐいぐい読ませるのだ。
構造として大きく違う部分の一つとして物語の冒頭部―ガロウラン(地底に住む蛮族)との戦いを通してドレイクが一地方領主から覇道を歩み始めることと裏腹に暗黒面に落ちていくといった、いわば『ダンバイン』相当の部分からは前日譚にあたる部分が丁寧に描写されている。
そこまでに数巻使い、後はオーラマシンの拡散に伴い、アの国の侵攻、ジョクの離反、ミの国(フォイゾンの女婿、エレの父・ピネガン王の国)の攻防、ラウとアの全面戦争―といういわば番組後半の地上編に出る直前あたりまでをベースとし、物語をそこで終えている。
しかしいわゆる地上編は地上編でもいわゆる番組前半に挿入された東京上空のエピソードは丁寧に描写されており、ここで本作独自の中臣杏耶子という重要キャラクターも登場している。
ただこの杏耶子ちゃん、いいキャラではあるんだがヒロイン的にはアリサに思い入れして読んでたので、フィーリングが合うってこういうもんだなーとわかりつつも、それどうよ?とは思いながら読んでたな(笑)。
あと上では列挙の中でもれていたが、ガラリアも登場していて、テレビ版よりもやや描写がまるく、その分非常に憎めない愛らしいキャラにかわっている。彼女はある意味すこしテレビ版でのマーベル的な立ち位置も含んでいたのかもしれない。そのマーベルも本作では二―とくっついているのだが、ジョクのことも憎からぬ様子。そう、要はすけべえな監督の趣味丸出しというか、そこを反映して―直接的な関係はないにしろ―主人公のジョクはなにげに手当たり次第というか精神的に節操がないというかなあ。
だからこそ、主人公ジョクのまわりの女性で、いちばん立場的にも近い位置に居ながらもいちばん内面的にかわいそうな扱いされていたアリサがシーラ様っぽく読めたのかもしれない、そのストイックさも含めて。
で、その富野監督のすけべえさのおかげで艶福家な感じの主人公ジョクだが、その性描写的なものは、おそらくこれよりも前に発表されているであろう同じバイストンウェル作品である『リーンの翼』よりは露骨なものは少ないと思う。このあたりは真面目に戦記ものとしてリライトした感じだ。
オーラバトラーもダンバインそのものに相当するものは出てこず、おそらくテレビ版ではそのプロトタイプに相当する存在だったゲドにあたる”カットグラ”をジョクがずーっと乗り続けるというのもいい。
ということで非常に楽しく読ませてもらったのだが、実は最終巻あたりがちょっと残念な感じに。
上記のようにテレビ版ではラウの国とアとクの両国連合艦隊の決戦から最後の地上編へと進むのだが、本作ではその艦隊決戦から地上編のラスト手前までをすっ飛ばした感じで話を畳んでしまっている。
これについての理由は後半の地上編をまともに描写すると地上各国のリサーチが間に合わないという理由は述べられてはいたが、正直かなり乱暴な形で終わっているのがもったいない。
このバージョン自体がリライトの結果ではあるので、いっそのことこの11巻部分から再度地上編を書いてくれてもいいのに、とは思う。
ただそういうところを抜きにすると、毎度恒例の観念論が展開されて途中で物語がワヤになってしまう部分はやや軽減されていて、そこにあの富野監督独特の個性的なキャラクターたちがビビッドに描写されていて、読みごたえのある一作である。
そういう意味でラスト周りの巻き具合だけが返す返すも惜しい。
もしリライトするようなことがあれば、アリサの扱いはもうすこしなんとかしてやってほしいと思うが、女王の名前は出てきてないけれども、国の名前としては出てきてるのよね、ナの国・・・。
そこにあの方はいらっしゃるのであろうか。
あと、このバイストンウェルシリーズとしては本作より時代的には前となる『リーンの翼』があるが、これも同名別作品のアニメ化に伴い、そのアニメ化の部分含めた形でリライトされているようなのだなあ。
この『戦記』でバイストンウェルはカタストロフィを迎えたような印象のラストだったのだが、このあたりどういうつながり方なんだろうか?
機会があればそちらも読んでみたいと思うのだが。