The Others/MIYAVI

標準

直近ではなにかと本業の音楽以外の部分で話題になってしまっていたが、ようやく本来の音楽の部分での彼の現状を見せてくれるアイテムがリリースとなった。

力作である―そしてかなりの冒険作でもあると思う、いろんな意味で。


まず前作にあたるシングルと同じチームのプロデュースかと思いきや、また別のプロデューサーによるもので、音楽的な系統は前シングルの延長線にあることは感じられるものの、更にいい意味での泥臭さが増しているように思う。それもそのはずで、レコーディングをアメリカのカントリーやブルースミュージックの本場の一つであるナッシュビルで行っていたようだ。(詳細は例によってNatalieがいい仕事してくれているのでご本人の言葉を読んで頂くのが一番だろう)

で、冒頭に力作であるが冒険作である、と書いたのは実はその泥臭さの部分。

自分はここまでの彼の動きをずっと追っていたわけではなく、いわゆる前のフルアルバムかつワールドデビューアルバムである『MIYAVI』から遅ればせながらキャッチアップした人間だが、自分だけではなく、彼の最大の武器はそのフラッシーかつアグレッシブなスラップ奏法にある、というのが一般的な印象だろう。

しかし今回はそのスラップ奏法をほとんど耳にすることがない仕上がりとなっている。

ただこれはアルバム通して聴いてみるとわかると思うが、意図的に封印したとかそういう感じではなく、ごく自然にいまの自分に従って音を作っていったらこうなったという事だろう。ギターもTaylorのものではなくテレキャスを使用しているようだ。前回のレビューの時にも確か書いたかと思うが、要は彼のアーティストとしての根本はまぎれもなく「ギタリスト」だということだろう。それをより感じさせてくれるアルバムとなっている。

曲も上述のように泥臭くイナタい雰囲気をまとっているのにもかかわらず、アルバムを通して聴くとどれもが実はかなりポップテイストもちゃんと保たれていることが分かる。

そういう意味で非常にクオリティの高い力作といってよいだろう。

ただしそこが―上から目線の物言いのようになって恐縮なのだが―これまでの彼の主要な客層を考えるとかなり冒険なのではないだろうか。

なぜなら本作はかなり音楽的にレベルの高いサウンドメイキングになっていて、加えてすこぶる魅力的な看板であったスラップがほとんど聴けないわけである。ここまで彼の音楽の華やかさや爽快さだけに魅力を感じていたユーザーからするとかなり肩透かしに感じられるだろうことは間違いないだろう、いい悪いではなしに。

もちろんそんなマーケティング的なことはあまり考えずに、或いは十分に考えたうえで自分の心に従って真摯に作った音だろうというのは聴いてありありと感じるのだが、かなりライトユーザーにはハードルの高い音作りになっている気がする。
ただ逆にいうと彼のような人気とキャッチーさを兼ね備えたアーティストがこういう音を演ってくれるからこそ、さらにその一段階上の音に目覚めるユーザーも少なからずいるだろう。そこに期待したいのもまた事実だ。

しかしいまのON/OFFが一瞬であるデジタル世代のライトユーザーに、この作品にじっくり付き合ってくれる層がどれだけいるだろうか・・・というのは正直不安ではあるな(もちろん自分ごときが心配するような話ではないのだが)

それに拍車をかけるのが冒頭の『Cruel』に代表されるように重く、のたうつ感じの曲調の作品がけっこうな存在感をもっていて、アルバムのイメージになっているようなところもあるので余計だ。この曲は昨年のISILによる日本人拉致殺害に前後して作られたそうだが、このトーンがアルバムを代表しているように聞こえるのは、問題となった『Unbroken』の一件のことも絡んでいるのだろう。(個人的な印象としては彼はいろんな意味でこの映画に関わらなかった方が良かったのではないかと思うのだが、貴重な経験であったようでもあるし、その結果のあらゆることをちゃんと自分で引き受けてるのが偉いよなあ・・・)

ただそういった自身の向かい合っている世界をビビッドに感じて、誠実に作ったであろうアルバムだというのは、その音がなによりも雄弁に語ってくれているように思う。

なんにせよかなり自身に正直に作った作品であろうと思うし、それにふさわしい力作だ。
思ったよりセールス伸びないかもしれないが、却って長く残るアルバムになるのではないかとも思う―そう感じさせてくれる一枚だった。


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