【レビュー】『SONG BOOK』、『カタワレノワレワレ』ノッツ

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シンガーソングライティングマンガ家(笑)、ノッツ氏の新作。
先月末に2作同時発売だったので2本まとめてレビューしておく。

『SONGBOOK (IKKI COMIX)』



社会への入り口と恋の間で翻弄される若者たちの姿を連作短編という形で切り取って見せた『SONG BOOK』。双子の兄弟、姉妹同士がであったらそこにどういう物語が起きるのか―双子というある種自分の鏡でもある存在を通して、あるカップルの葛藤を描いた『カタワレノワレワレ』。その音楽・コミック双方を通じて発揮される、ノッツ氏の最大の武器とも言える”ある瞬間”を切り取る能力が思う存分に発揮されている、甘く切ない作品群である。


たぶん自主製作盤だった音源「FUTURES EP」のジャケットイラストの時から思っていたのだが、この方の最大の能力は画としての演出力、というか1つのカットが非常に雄弁=皆が心のどこかに持っている”あの瞬間”―これを切り出す力が本当にすごい。

悪く言うと”ベタな瞬間”の描写が飛び抜けてうまい、とも言えるのだが、そこがなんとなくいま風の軽やかさと、陳腐なだけに落ち込んでいかない繊細さがあって本当に素晴らしいと思う。

この2作品は短編集と長編ストーリー4コマという体裁の違いはあれど、その能力が存分に発揮された作品で、双方ともに優しい絵柄を越えた読み応えがある。

『SONG BOOK』のほうは短編集という事で、ある意味そういった心悶える瞬間を切り取った珠玉の作品集といえるし、『カタワレノワレワレ』は双子というフックをうまく使って、ほんとうに人とつながっていく難しさや、自分の中にある葛藤といったものへの内省的な視点を、無理なく読者に提示している。

そしてどちらもどことなく”お祭り”的な賑やかさが演出の中に組み込まれていて、それ故にその切なさが一層募るというニクい演出である。ほんとうまいよなあ・・・。

繰り返しになるが、こういったベタな演出をやりつつもそれがまったくクサくもなく、陳腐にもならないというのは、そこに描かれている主人公たちの葛藤がやはり普遍性をもったものだからだろう。
誰しもが青春の一時期に胸に抱え込んでいた”あの瞬間”の気持ちを、ノッツ氏の作品は鮮やかに切り取り「そのきぶん、自分も知っているよ」とばかりに並べてくれる。

そこが氏の作品に共通する強みではないだろうか。

それをほのかなギャグテイストにつつんで提示する。非常に良質なエンターテイメント作品群だと思う。
未読の方はぜひ一読をお勧めする。






※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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