史上初(?)の引きこもり浪人生DTMマンガ、すぱっと本巻にて完結。
『ソラミちゃんの唄 (2) (まんがタイムKRコミックス)』
引きこもり浪人生のソラミちゃんはきょうも仲間たちと楽しく家ごもり(笑)。しかし夏も過ぎ、季節は徐々に受験シーズン本番へと進んでゆく。そして本番直前、ついに楽器を封印してまでセンター試験にのぞむソラミちゃんだったが・・・。変わってゆく彼女の前にソラミちゃんの親友たちもまたみずからの姿を見つめ、変わっていこうとする。宅録青春群像劇、ここに完結。
前巻ラストあたりからそういう部分がよりはっきり表に出始めていたと思うが、本巻では著者のノッツ氏の作品(音楽・マンガ問わず)に共通する独特の切なさ―それも青春時代独特のそれ―がより顕著に現われている。
この方の特徴、というか強みというのは、若い世代にはありがちな自己というものだけに凝り固まってしまった自己完結の物語ではなく、かならず”近しい人との関係性”―そこに焦点が当てられた人間ドラマだということだろう。
本作でもソラミちゃんと両親の関係をはじめ、幼なじみのさっこ、フミリン、ネモちゃん、それぞれとの関係性が描かれるが、そのそれぞれがまた、このソラミちゃんを中心とした人間関係のなかで得た信頼や自信をもって、自らの関係性の中へと帰ってゆくのだ。
これはけっしてみんなの関係性が途切れたというわけではなく、互いを信じ・共有し合った豊かな時間があったからこそ、そしてそれがゆるぎないものだという確信がその胸にあるからこそ、各々が自らの道を歩んでいこうとする―そういうことだろう。DTMや引きこもりといった現代的なディティールが表層的には施されているが、その骨子は、いい意味での古典的な群像劇、その王道を描いている。
なのでラスト、ちょっとホロ苦くも切なく甘い、過ぎ去った時代への郷愁のような気持ちが、こころよく読者の胸を刺す。
ライトに読めるギャグ漫画の体裁をとってはいるが、”青春”という時代を描いた作品として良質の一本だと思う。正直ここで完結するのが残念であるが、ここで終わるが故の美しさ・潔さだろう。
作者ノッツ氏は本作以外にも休刊が決まっている月刊IKKIで『SONG BOOK』を連載中だそうだが、これはどうも休刊の秋口までに一旦完結させるようだ。
他にも別途WEB連載されている作品もあるようだが、なんにせよまとまった形で出版してくれることを一ファンとして願います。
なんだかんだで氏の作品は音楽にしろ、マンガ作品にしろ個人的には一度もはずれがない希有な作家さんである。
ぜひこれからもより一層活躍の場を広げていってほしい。
※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正