狼の紋章(実写版)/志垣太郎・松田勇作

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先日テアトルの上映スケジュール見てたら松田優作特集やってたらしくて、みてみると「お!?」と本作品を発見。たまたまいい具合にスケジュールがあったので見てきた。

狼の紋章 [DVD]
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平井和正の代表作のひとつとも言える”ウルフガイシリーズ”―そのなかでも”少年ウルフ”と呼ばれる中学生の犬神明を主人公としたシリーズ第一作『狼の紋章』を映画化した作品。少年犬神明に志垣太郎、対する極道の息子・羽黒獰に松田優作、ほか重要なバイプレイヤーである神明に黒沢年雄など著名な俳優陣での作品。

わざわざ「フィルム上映」と記載があったところに時代を感じるなあ。

で、なんだかんだいってウン十年前の作品。自分もたぶんよちよち歩きのころ。
当然現在の基準からは見比べ得るもないが、原作が発表されたであろう前後の空気感とか、当時のスタッフが本作をどう扱っていたか?といったところに興味があって観に行ってみた。

しかし、いきなりオープニングでベタな主題歌が朗々と流れはじめびびるw

うわー!?すげえ、ある意味いまの時代じゃ絶対出来ねえ、この展開!?(苦笑)。
もう客を引きこむためのギミックとか、シナリオのスピード感とかそんなモン知ったこっちゃねえ!とばかりに、雪原をバックに延々と主題歌がかかるわけですよ。そしてそこを駆ける狼と子供。

しかしどう見ても狼がフツーの犬w
しかしどうみても子役があまりかわいくないw
おいこらまて!?犬神明はもっと美少年のはずだろう(苦笑)。

いやーこのオープニングである意味全部持ってかれたわ。ジェネレーションギャップによる不可抗力とはいえ、これなあ・・・どうなんでしょう?

しかし、ストーリーは意外と原作踏襲。
ただ所々ぶっ飛んだ謎演出と思い切りのよすぎる省略で、そういった原作のまともな部分をちゃぶ台返しするシーンが律義に十分おきぐらいに入るという・・・ものすごいカルト映画臭w
おまけに撮影レベルや演出は時代のせいとはいえ、ほとんど素人レベル、これで公開作品だったとは・・・いい時代だったんだなあ・・・。

では本作、まったく見どころのない単なるくだらん作品だったかと言えば、実は俳優に関してはけっこう見ごたえあった―それも総じて男性キャラが。

この映画版を語るとき「松田優作は(イメージからいって)羽黒というより犬神―この配役逆だろ!?」的なことをちらほら耳にする。
が、これは見てみると意外や意外―松田優作以外、この羽黒役はあり得ない。

犬神明は他の俳優でも可能かもしれないが、この松田”羽黒”の迫力があったからこそ、いまだ見るべきところのある作品として取り上げられるのではないか。

そして意外なほど志垣太郎の犬神明も、雰囲気があっていた―細身のおしゃれ感ある美系で、なに?この自然なマッチングぶりは!?いまの志垣氏のキャラからは想像できん(笑)。
フリフリの白いシャツ胸はだけて着てるんだが、これが意外なほど美少年ぽくて似合っているのだわ・・・。
(ただイメージシーンなのか、作中突然わけもわからず逆立ちしたり走りだしたりしますがw)

また黒沢年雄の神明もすんごい違和感無かったのが不思議―だがコイツ、登場シーンがむちゃくちゃで存在がほとんどギャグですよ!?(あえてここでは本作中のキャラとして「コイツ」呼ばわりさせて頂く)

なにしろいきなり独身女性教師のアパートへ突撃取材w
学生が集会で暴れていてもすましたカッコで傍観ww
挙句の果てにいきなり前後の脈絡無視して熱く説教を始めるwww
黒沢神さんキャラ立ち過ぎだろ!?

対して女性キャラは魅力あまり感じず。

意外とセクシーシーン多いので、ひょっとするとロマンポルノとかと紙一重の作品だったんかいな?と思うほど。
青鹿先生役の女優さんはおっぱい要員なのかけっこう残念な感じ―そのせいか脱ぎっぷりは良い。
いちばん美形は竜子役の方。
委員長役は見れる顔だがびみょーあと役柄上の性格がけっこうクズw

加えて時代性の反映か、左巻き学生運動臭ぷんぷんのシーンと、いまみたら突っ込みどころ満載の暴力シーン(学生運動的な部分は原作にも一部その影が見えるが)。
いわばこの描写は、この時代が戦後日本社会の幼年期だったことを図らずも記録していたのかもしれない。
カッコはつけてみても、いまの目でみると皆ぬるい覚悟でじゃれあってるに過ぎず―ただその時代性から暴力は比べものにならないほど過激でハードルが低く、非常にちぐはぐな感じだ。
しかしそれが逆に当時の「時代の空気」がこういうものだったんだろう、ということを感じさせる。
もちろんこれはフィクション作品上の誇張した表現ではあるんだが、そういう誇張であるが故に、逆に時代の空気感のようなものがより浮き彫りにされているように思う。
ただそのせいで、いまの我々から見る本作の”リアリティ”というのは全く異世界のそれに映る。

ちゅーか、羽黒の屋敷の紋がほとんどショッカーなのよwww鷲の木彫りの紋が門扉にあるヤクザwww

そして弓―これは原作にも出てきたような記憶あるが、和弓て・・・ちょw神さんw屋根瓦に火矢打ち込んでもそんなきれいに燃えませんからw

というか火矢うってどや顔するならおまえ最初から助けたれよ!?そういや例のカーディガンのシーン(本作では浴衣?)では犬神くん前後描写ないので先生宅に不法侵入、そしてそこに何食わぬ顔でしれっと入ってくるルポライターw
おまえ大人としてそれはどうなんだ、ちゃんとしごとしろ!?w
おまけに正体バラして説教するふりして青少年けし掛けるなwwwおまえどこまでダメな大人なんやww
そして最後は犬神明と青鹿先生ちゃっかり乗せてあてのない吹雪の中へ!いや!?病院連れて行こうよ!?コイツ羽黒組にとってすんごい迷惑だよwww
あととんでもシーンと言えば、犬神明の部屋へ青鹿先生が訪ねて行くといきなり部屋の中に森が広がって、そこで青春カップルがごとくキャッキャウフフする二人。
いや、文字で書くとストーリー的になんら矛盾なさそうなんだが、もうこれが映像でみると身もだえしたくなるぶっ飛びよう(笑)。

いやー途中でなんどか声出して笑いそうになるの、こらえるのに必死でしたわw

なんかもう別の意味で見といてよかった、というか(苦笑)。
ただ繰り返しになるが、男性俳優陣はそのビジュアルにおいて一見の価値はあった。

まあすんごいどカルト作品ではあったので、よい経験にはなりました。しかし何度思い出してもシュールすぎるw

もちろんこう感じるのも「演出」という要素の時代の積み重ねによる向上、ということがあると思うんだが、このころはまだ「技術」としてのそれではなく、人の感覚に頼った不安定なしろものだった時代、ということなんだろう。
その点、コミックという異なる媒体とはいえ、ある意味本作の”最新バージョン”であるヤンチャン版の演出は雲泥の差。物議をかもした例の過剰な強姦描写をオミットしたら、そのままの演出つかって実写化しても十分に耐えられるものだと改めて感じた。

もちろん、それもこの数十年前の作品である原作自体が、それだけ普遍性のある構造をもっていたから、ということがなによりもあるんだけれど。
そして、意外とこの初期映画版もヤンチャン版含む後続の本作品に微妙な影響を与えているようである。
この点をそこはかとなく感じて、なかなか面白かったな。

狼の紋章(実写版)/志垣太郎・松田勇作」への4件のフィードバック

  1. 飲マスク

    今回は珍しくネタ作品のレビューだったためか、文章中に草が多かったですねw
    個人的には実写版狼の紋章は特に見る気にはなれませんでしたな~
    作品イメージが汚されるからとかではなく、普通にクォリティ高くなさそうだったのと(笑)、やはり「狼の紋章」の二次創作ではヤンチャン版が飛びぬけていると思ったので。
    こちらとしてはOVAの狼の怨歌・狼のレクイエムを見たいのですが、こちらはDVD化してないので、見るのが困難なんですよね。(VHS再生環境はないし、LDは尚更)
    以前OVAについてコレジャナイなんて申しましたが、逆に高橋留美子先生風のあのポップな絵で少年ウルフガイの凄惨なストーリーが描かれたらどうなるか、怖いもの見たさはあります。

    話変わって実写版から離れますが、以前ヤンチャン版について「今リメイクするのに原作どおりやる必要はない」と仰いましたが、実写版・地獄先生ぬ~べ~のプロデューサーが「原作に忠実なのが正義とは思わない」って言っていたのを想起してしまいました。
    同じようなこと発言でも、対象の作品が違うと印象が大きく変わってきますね・・・
    件のプロデューサーはヤンチャン版ウルフガイみたいに「正しい原作の逸脱」を行ったうえで言ってほしいものです。
    またこの記事を読んで、日本の映画・テレビ業界にとってファンタジー要素の強い作品(活字・静止画・動画問わず)の実写化は昔から苦手分野だと思いました。ファンタジー要素皆無の「孤独のグルメ」の実写版なんかは、原作から結構逸脱してるにも関わらず原作ファンに好評だったことも鑑みるに。
    ハリウッドは超大作である「指輪物語(とホビットの冒険)」を思いっきりハショりつつも、超大作映画として実写化に成功させましたが、それこそ日本の映画業界で同じクラスの作品を実写化したら・・・ まぁドラゴンボールエヴォリューションみたいにネタ的に面白いものができるかもしれませんw

  2. niseikkyu

    コメントありがとうございます。

    すいません、文章作法的にはあまりよいものではないと知りつつ草はやさずにはいられませんでした(苦笑)。
    ただご指摘いただいているようにクオリティはアレなんですが、それなりに見るべきところがありましたので、観る機会があればご覧になられると面白いかと思います。

    リメイクの問題はいつの時代もついて回りますね。
    個人的にはどんなに改悪に見えても、作る側に「原作を越えてやろう!」とか「原作喰い殺したる!」ぐらいの気迫がある場合は見れる場合多いように思うんですよ。

    最悪なのは原作を尊重すると見せかけて、その性根の部分が「原作のおこぼれ頂戴して小銭稼がせてね、ウッシッシ」的なヤツですね。

    ご指摘の地獄先生ぬ~べ~をはじめこの秋口ごろから寄生獣、進撃の巨人など名作の実写・アニメ化等が相次いでいますが、これらの制作者側の気迫がどの程度のものなのか、けっこう見どころになる作品が立て続けにスケジュールに上っています。

    このなかから「原作を喰い殺す」だけの名作が出てくると楽しいのですが・・・期待薄でしょうねえ。

    寄生獣のアニメ版は冒頭5分で「ダメだこりゃ」となりました(苦笑)。

    ちなみに高橋先生に関しての「ポップな絵で凄惨な描写」ということであればもう存在しています。
    『人魚の森』シリーズですね。

    不死者を扱っている、という意味でも、”高橋版ウルフガイ”的なところはあるように思います。
    興味があればご覧になってみてください。

  3. 飲マスク

    実写版はレンタルで置いてませんでした・・・
    そしてamazonを見てみたら3000円で売ってたのですが、これのために3000円出すのも、ってことでまだ見れてない状態です・・・

    そのような状況ですが、記事内のヤンチャン版の実写化に関連したことで気になりましたのでコメント失礼します。
    某所で「青鹿先生の色気とエロスと清楚さと母性のキメラっぷりから実写化は無理」的に言われてて、個人的にもそれは賛同します。
    青鹿先生って乱暴な言い方をすれば桂正和先生から続くエロコメ系ヒロイン以上に「現実にいそうにない男(作中人物・読者双方)に都合のいいヒロイン・女像」的なフシが原作の時点であり、
    ヤンチャン版は尚更なのでこんな人をマンマ実写化なんてできないよなぁ、というのが正直な感想です・・・

    ただし、こちらの記事内にも書かれている通り、大筋というか犬神対羽黒グループによる展開はそのまま実写に転用できるとも思います。
    以前のコメントで「ファンタジー作品の実写化は日本の邦画業界には無理」的に書きましたが、ウルフガイの場合は(暴力描写が派手になったヤンチャン版ですら)そこまで現実離れしてないので、何とかなるんじゃないかな、と。
    まぁ製作者が原作を舐めたり、余分な欲を出さなかった場合に限ってですがw

    記事内にも「8巻以降はオミットすれば」と書かれてますので、やっぱり青鹿先生まわりが色々問題ありそう。
    万人向けのエンタメにするには、エロさを失くす、犬神に激し過ぎる恋愛感情は抱かない、羽黒からは見向きもされない、このくらいに存在感を落とさなければならないかもしれませんね・・・

    まぁ色々妄想もどきな想定を書きましたが、いくら日本の実写業界が困窮してても、世間的に知名度があるとは思えないヤンチャン版の実写化までするのは流石になさそうですけどね・・・

  4. niseikkyu

    お久しぶりです、コメントありがとうございます。

    書いていただいているように「ヤンチャン版」をそのままの実写化はもちろん無理かとおもいます(^^;)
    (バジェット・知名度的なところはもちろん除いて内容的な話)

    ただこのヤンチャン版のウルフって原作の「本質」の部分をきれいにブーストしている部分と、商業連載作品的にブーストしている部分が当然あると思うんですが、後者は更にそのブースト部分が作品の本質からするとあっていい部分となくてもいい部分に分かれるように思います。

    そういう意味では書いていただいている中では
    ・エロさを失くす⇒作品の本質に必ずしも必要でないのでカット可
    ・犬神に激し過ぎる恋愛感情は抱かない、⇒作品の本質にかかわる部分なのでカット不可

    だと自分的には考えています。後付け的な部分でエンターテイメントとして成功しているのは千葉の鬼人化のところでしょうか。ブーストしすぎともとれますが話として面白いですし、いちおう人狼の血の威力の説明にはなってます。

    まあ要はどこまで原作準拠とするのか、コミカライズ版(ヤンチャン版)準拠とするのか―
    その人にとってどちらが基準(或いは最初に触れた作品)なのかにもよるのかな、とも思います。

    ちなみに本記事で取り上げた実写版狼の紋章はそのうち以下で廉価で手に入れられると思います。
    調べたところだと第28号で収録予定だそうなので、来年ぐらいには書店に並ぶんじゃないでしょうかね。

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    飲マスクさんがうまく見れるチャンスがあることを願ってます(^^)

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