【レビュー】『聲の形 3巻』大今良時

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ずいぶん遅れてのレビューだがいちおう取り上げておく。

『聲の形(3) (少年マガジンコミックス)』




主人公石田の贖罪的な意識の堂々巡りが続く巻だが、その原点となる小学校時代の人物が二人本巻では登場する。

西宮と仲良くしようとしたがために一時期引きこもりにならざるを得なかった佐原、石田のことを憎からず思っていた植野。

この両人物の登場で、石田の贖罪の堂々巡りはさらに複雑な状況に陥りそうである。

ただ本作のテーマの一つである聾啞という部分を抜きにすると、本巻の描写はひじょうにスタンダードな学園物・・・というかある種のラブコメ作品に近い。
こういった描写がもちろんラストへの伏線となっていくのであろうが、現状、ここを読むだけでは若干テーマ性からすると薄くは感じる。
ひとつにはこの作品の絵柄‐特に女の子たちの非常にかわいらしく描かれている絵柄がその傾向を助長しているといえるだろう。

なので正直この巻一冊だけでは大きく言及できるところはない。
逆に言うとこういうヒロイン西宮の「普通の生活」というものが過去の自分によって破壊されたというのが、主人公石田の贖罪意識の原点ではあるわけだが。
また聾啞だからといって普通の女の子であることには変わりなく、人間関係の距離のとりかたに悩み、「好き」という気持ちを伝えるのに煩悶するということでもある。

傷は癒えはしないが回復してきた、ただその先にもあらたな障害物がいろいろと待ってはいそうである。
こういう普通の巻があると、そのこの先にあるだろう落差が怖い。







※2022/06 標題の表記を統一、リンク切れを修正

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